インフレとは、いわゆる物価上昇のことだが、その要因には原材料の高騰や為替変動(円安)などが複雑に絡み合う。
例えば、終戦後の日本では戦前と比べて200~300倍程度のハイパーインフレとなったが、これは生産設備や物流が破壊されており極度の物資不足になったことに加えて、借入金総額が国家財政の約9倍に達していたり国が軍事物資のツケを一気に支払い通貨の信用低下・発行過剰となったことによるものだ。つまり、モノの価値上昇と通貨価値の下落が絡み合ったものだった。
さて、リーマンショック以降は、日本(日銀)もアメリカ(FRB)も欧州(ECB)も、QE(造幣による債券買い支え策)による莫大な通貨発行を行っている。本来なら通貨価値が下がってハイパーインフレしてもいいところだが、どこも大丈夫だ。しかも、みんな通貨ジャブジャブなので相対的な通貨価値も均衡している。
まさにMMT(現代貨幣理論)が提唱するような状況だ。
なお、MMTでは「自国通貨建ての国債はデフォルトせぬ」「インフレにならない限り、財政赤字は問題無し」として、特に日本ではアベノミクス2%インフレ達成まで、国債を日銀に買わせて日本円ジャブジャブすべしとしている。
日本は対外債務が少ないし、円建て債務は、政府自ら通貨を発行可能(正確には日銀が発行)なので、最悪、円を刷って返せばいいから「デフォルトはしない」というのは事実だ。
だが、デフォルトしないからと言って無制限に円を刷れば、円の価値は下がる。それは、コストプッシュインフレやジャパンプレミアム等の問題を招くことになるので、無制限はやっぱりダメだ。とは言え、現状の異次元緩和レベルなら大丈夫ぽい。
このようにMMTでは、巷で言われるような「無制限の円発行OK」とはしておらず「適切なジャブジャブならOK」としている。なお「適切な」とは、労働力など国内の「経済資源」をアッパーとして捉える「完全雇用状態」が基準との考え方もある。
つまり、国民の労働力が担保となっている面もあるので、人口減少ターンに入っている日本では、未来永劫に渡ってジャブジャブ水準を維持するのは難しいだろう。
ちなみに、日米欧のQEは、リーマンショックで崩壊の瀬戸際にあった債券市場を救うためのものだった。大量に刷ったカネは1500兆円というマネーストックを積み上げたものの、これらのカネの大半は実体経済に投入されたものではなかった。
結果、多くの資産を持つ金持ち層を中心に資産インフレで金融市場は調子良かったものの、トリクルダウンは起こらず景気も浮揚しなかった。
また、こんな状況での消費増税は、悪いままの実体経済からカネを吸収して一層のデフレ(=通貨価値上昇)を招いたしGDPも急落した。この点では、資産課税により眠れる資産の流動性を高めた方が良かったかもしれん。
ともかく、大量の国債発行(=造幣)しても、実体経済にカネは回らず金融市場(債券買い支え)などに投入されたのでインフレにならなかったし、日銀が国債消化して金利を抑えていた。同じようなことは、アメリカでもEUでも行われていた。お陰様で、実体経済とは無関係に債券市場は安定し、歴史的な超低金利下で株価も好調だ。
だが、この状況に暗雲が立ちこめ始めている。QEで抑えているハズの金利が上昇しているのだ。
この金利上昇について、FRBさんは楽観視している。
米債利回り上昇、景気見通し改善を反映=セントルイス連銀総裁 https://t.co/yIfzCgZGZ8 pic.twitter.com/K98S4Vil2O
— ロイター ビジネス (@ReutersJapanBiz) March 5, 2021
インフレは堅調な経済回復見通しを先取りしたものだとか。
だが、これまで何百兆円もの国債を買い入れてもインフレにならなかったし、金利は微動だにしなかった。
だが、「コストプッシュインフレ」が確実に進行しているのだ。「インフレは良いもの」と言われるが、いくらインフレしても経済成長が伴わないと意味がないのだ。
先日のブログ記事「WHO「コロナはまだまだ終わらない」 迫りくるのはインフレリスク!?」でも紹介したように、世界の物流に混乱が生じており、コンテナ船の運賃が3倍~15倍程度に高騰していたり、食料や半導体はじめ物資不足によるインフレが始まっている。
世界のコロナ感染者数が、7週間ぶりに増加に転じたとか。むしろ、これまでの6週間は減ってたのかよ。【世界の感染者 7週ぶりに増加】https://t.co/dTvXkXFXPq世界の新型コロナウイルスの新たな感染者数について、先月[…]
そして、今回の金利上昇の原因はインフレに求められる可能性が高い。インフレ下においては、景気過熱の有無とは無関係に金利上昇が起こるからだ。
国際商品の価格を見ると、原油や食料品はこの昨年6月頃から上昇を続けている。それに呼応するかのように、米国金利は秋頃には上昇トレンドに入っている。昨年6月と言えばコロナ禍真っ只中であり、経済回復期待は関係ない。金利上昇はインフレを反映したものである可能性が高い。
以下は10年米国債金利の状況(日足)だ。
9月頃まではもみ合いジリ上げな感じだったが、10月以降は着実に上昇トレンドとなり、今年2月後半から急上昇している。
FRBは金利水準がコロナ前に戻っただけとしているが、現状では1.5%が危険水域とされており、さらにどう見ても1.6%攻防戦を展開している。
一方で日本の状況はアメリカとは異なる。
日本でも2月以降は金利上昇しておりブルトレンドに入っているものの、高値攻防戦を仕掛けて叩き落とされた感じだ。しかも下落幅が大きい。どうやら、日銀さんが本気で金利上昇を阻んでいる気配を感じる。
だが、気になることがある。これまで、国債・通貨がジャブジャブになっても金利が上がらないのは、日銀やFRBが国債を買い支えること(QE)で、金利の上昇を抑えていたからだ。インフレによる金利上昇だって、いくらでも抑え込めるような気がする。
日本の乱暴な金利攻防戦は、日銀さんが本気で抑えているように見える。一方のアメリカ(FRB)は、ワザと金利上昇を放置しているのか??
いずれにせよ、FRBの態度は「インフレ容認」だ。
そういえば、以前に元キャリア外交官の原田武夫氏も、敢えてインフレ誘導していると言っていた。
この動画で、海運業界のコンテナ価格上昇を米系メディアが騒ぎ始めたことについて、米系メディアが敢えて報じるのは、インフレ方向へ誘導する意図があるからとしている。
さらに、アメリカでお一人様1400ドルの大量の給付金などがばら撒かれるが、それによりインフレへと誘導されていくとも。そしてインフレ誘導の目的は資産バブルを起こすこととしている。
どうやら、この動画で原田武夫氏が語っていたとおり、本当にインフレ誘導されるようだ。しかもFRBもそれに加担しているっぽい。
そもそも、米国債・米ドルは基軸通貨なので、外貨準備用途も含め世界中で需要が高かった。つまり、FRBがQEで吸収する分+米国内で売れる分+世界で売れる分があり、世界で売れる分がかなり大きかったハズだ。
日本のように、世界で売れない場合は、日銀主導での国債吸収して強引に金利を下げることが可能だが、アメリカの場合は信用低下によって世界で売れなくなっている可能性がある。あと、中国が米国債を売り払っている可能性も。
アメリカは、金利を下げたくても下げられないというのが実態かも。
いずれにせよ、実体経済が悪いままの米国で金利が上昇を放置しても、何一つ良いことなど無い。金利上昇により、特にゾンビ企業群の資金調達が苦しくなるなどの弊害が起こるだけだ。
こうした点を踏まえると、安定している日本に投資マネーが流入する可能性が高い。しかも、日本では欧米と比べてケタ違いにコロナのダメージが小さいのだ。
やはり日本で資産バブルが来る可能性はかなり高いな。
ただ、日本でバブルとなれば、普通なら日銀が金融引締めとして金利を上げる。しかし、日銀もヘタに金利をあげれば、国債価格の低下を招く。日銀保有の500兆円の債券価格下落を踏まえると、金利を上げられないかもしれない。そうなれば円の実体金利が低くなるため、円安を招き物価上昇など混乱が予想される。
また、物価上昇しても景気に反映されなければ、デフレ本質の中で物価が上がり続ける「スタグフレーション地獄」に突入する。
資産バブル到来は喜ばしいが、その後の展開は厳しそうだ。原田武夫氏も資産バブルの後に、日本はデフォルトすると言っているしな・・・。
最後まで読んでくれてありがとう!