新型コロナの感染が拡大しているブラジルで、ボルソナロ大統領が経済再開を呼びかける報道が出てきた。以下は時事通信が報じたものだ。
「国民7割新型コロナ感染、どうしようもない」 ブラジル大統領、経済再開呼び掛け
【サンパウロ時事】ブラジルのボルソナロ大統領は18日、首都ブラジリアで支持者らを前に「新型コロナウイルスには(国民の)70%が感染する。どうすることもできない」と発言した。その上で社会の崩壊を防ぐため、各州が独自に実施している商業規制などの隔離措置を緩和するよう求めた。
隔離措置による失業者増大を最も懸念するボルソナロ氏は「(感染は)きょうでなければ来週、来月だ。これが現実だ」と強調。「高齢者や健康に問題のある人はケアするべきだ。ただ、われわれは働かなければならない」と経済活動再開を訴えた。
大統領の発言を受け、最大都市サンパウロでは大統領支持者らが車やトラック、バイクを連ねてデモ行進。ボルソナロ氏と対立して隔離措置を進めるサンパウロ州のドリア知事の辞任を求めた。
ブラジルでは18日までに3万6599人の感染が確認され、2347人が死亡している。
ブラジルの19日の状況は、感染者が約38,000万人、死者は約2,500人と感染拡大が深刻な状況だ。
こうした中で、ボルソナロ大統領が経済再開を優先することとした。
まあ、ボルソナロ大統領はちょっとぶっ飛んだ人なのだが、実は「ロックダウンをやめて経済再開」というのは、今後世界的な潮流となるかもしれない。
ロックダウンはウイルスを完全な封じ込めに成功するか、ワクチンが開発されるまで続けなくてはいけない長丁場の戦法であることが明らかになってきている。
一時的にウイルス感染を抑え込んでも、ロックダウンを解除すればウイルス感染は再拡大する可能性が高い。なので、どの国もどこかで折り合いをつけて経済活動を再開する必要がある。
その時に、一時的な封じ込めに成功したとしても、ロックダウンを解除して感染が再拡大する時に、免疫を持つ者がいないと感染者が再び急激に増えることになる。
このため、アメリカでは州レベルで感染の再拡大を可能な限り封じ込めつつロックダウン終了を見越した動きが出てきている。以下は日経新聞からだ。
【ロサンゼルス=共同】米スタンフォード大などの研究チームは19日までに、西部カリフォルニア州サンタクララ郡の住民を対象に新型コロナウイルスの抗体検査を行った結果を公表した。ウイルスに感染した人は4月初めの時点で同郡の人口の推計2.5~4.2%に上り、確認されている感染者の50~85倍に及んでいる可能性があるとしている。
研究チームは「実際の感染者は報告されている数よりもずっと多いことを示唆している」と指摘。推計を基にした致死率は0.1~0.2%と算出した。
ただ世界保健機関(WHO)の担当者は抗体検査について、誤った結果が示されるケースがあるとしている。また抗体があるからといって再感染しない保証はないとも注意喚起している。
研究チームは同郡の保健当局と協力し、ドライブスルーの検査場3カ所を設けて4月3~4日に検査を実施。住民3330人を対象に血液を採取し、感染すると免疫反応により体内でつくられる抗体の有無を調べた。
性別や人種などの要素を踏まえ、1日までに感染した人は同郡で推計4万8千~8万1千人に上ると分析。同日時点で実際に感染が報告された人は956人だった。
研究チームは報告書で、交流サイトのフェイスブックを通じて参加を募り、検査には車も必要だったことなどから被験者には一定の偏りが生じ得ると説明している。
いちおう補足すると、抗体検査とPCR検査は違う検査だ。両者の違いはPCR検査は今感染しているかを調べるための検査で、抗体検査は過去に感染したかどうかを調べるものだ。抗体があるということは、過去に感染したということだからだ。
このカリフォルニアの抗体検査事例では、推計だがPCR検査で感染が確認された50倍~80倍の抗体保持者がいたとしている。
PCR検査で陽性確定しないと「感染者」にならないので、そもそも検査してもらえない症状のない感染者は感染者数として数えられていなかった。なので、PCR検査より抗体検査の方が感染者数が多く出ても不思議ではない。
こうした無症状・軽症で病院に行かなかった感染者がいることは分かっていたが、推計とは言えその数が出てきたことは衝撃的だ。
感染被害が深刻なニューヨーク州でも、3000人規模の抗体検査を実施するとしている。
この抗体検査は、ロックダウンを解除して経済を再開させるための調査であることは間違いない。
経済活動の自粛や外出禁止だけでは一時的に感染の勢いを抑えることが出来ても、封鎖解除すれば再び感染が拡大するので、ウイルス対策の決定打にはなり得ない。
ワクチンが出来るまでロックダウンを続ければ、人もモノも動かない実体経済は止まったままなのは明らかだ。
なので、現実的な手として、全人口の6~7割を抗体保持者とすることで感染の拡大を抑えるための社会的免疫を獲得する「免疫の壁」作戦を展開しようということだろう。
ロックダウンを続けていれば感染拡大は抑えられるものの、社会的免疫の獲得は大幅に遅れる。なので、医療リソースに合わせて少しづつ封鎖を解除していき、免疫を持つ市民を増やしていこうということだ。
この点では、日本が緊急事態宣言を出す前にやっていたようなゆるいロックダウンは、医療崩壊しないレベルで一定の感染者を出し続けることになるため、社会的免疫の観点からは意外と合理的と言える。
まあ、東京とかでは病院も危ないようだが・・
こうして見ると、ブラジルのボルソナロ大統領が、医療崩壊を防ぎつつの経済再開を意図しているかは不明だが、社会的免疫の観点からはむしろアリだ。
だが、免疫の壁作戦が可能かどうかは実のところ不明だ。
実際に、感染爆発したイタリアで実施した抗体検査では、多くの人が抗体を持っていなかったという結果が出ている。
新型コロナが登場した当初から言われているが、新型コロナでは体内で抗体が作られにくいと言われている。感染後、症状が回復してPCRで陰性が確認されたのちに再度要請になるケースが数多く報告されている。
そもそもコロナから回復した人でさえ抗体が弱かったり、持っていてもいつまでその効果が続くのかもわからない。
インフルエンザだって、何度もかかるだろ?抗体が出来ても体内で長続きしなかったり、ウイルスが変異して抗体が役に立たなくなったりすることもある。抗体は万能ではない。
ロックダウンに意味は無い?新型コロナには「免疫の壁」とBCGワクチン!?
では、なぜカリフォルニアやニューヨークが可能性に過ぎない「抗体」に頼ろうとするのか。
それは、「新型コロナのロックダウン」がアメリカ単独覇権体制や金融資本主義の崩壊をかけた政治的問題となっているからだ。
今のままロックダウンが継続されると、実体経済の停滞に加えて金融市場においても債券・株式市場の破綻が現実のものになってくる。
現在はFRBやECB、日銀などの中央銀行が巨額のQE資金により買い支えているが、それもいつまで持つか。
アメリカの新型コロナ対策やりすぎ!原田武夫氏の日本バブルにつながるか!?
そういえば、原油も価格を維持するための歴史的な減産合意がなされたにも関わらず、20日には1999年以来の歴史的な安値を記録してしまった。
1バレル14.5ドルの水準では、アメリカのシェール業界はとても持たない。シェール企業への融資金の焦げ付きや社債の破綻が現実のものとなってくる。また、FRBが買い支えなくてはいけない。
常識で考えれば、ロックダウンはもう終わりそうだ。だが、政治的な理由から「抗体検査意味なし」という声が強くなってロックダウンが続くことも十分に考えられる。
最後まで読んでくれてありがとう!