ワルモノになるウクライナと地位が向上するロシア

これまで、ウクライナ軍優勢を報じてきたイギリスのメディアが、相次いでウクライナ軍の不利を報じ始めた。

まずは、イギリスのリベラル系メディアのガーディアン。

ガーディアンでは、ウクライナ軍は1日当たり600~1000人の死傷しており、ウクライナ側の防衛能力は大きく損耗していることから、この戦争が転換点に近づいていることを報じている。

月間で20000人以上の死傷者が出ている計算になり、ウクライナ側の主力が正規軍なのかアゾフ連隊のような軍事組織なのかは置くとしても、その戦力は大きく減少しているようだ。

また、同じイギリスメディアのインディペンデント紙は、インテリジェンスからのリーク情報として、ウクライナ軍の火力が圧倒的に不足していることを報じている。

ロシア軍とウクライナ軍の火力差は、大砲数で20対1、弾薬数で40対1となっているだけでなく、射程も12倍もの差が出ているほか、ウクライナ軍が捕虜にしたロシア兵550名に対して、ロシア軍は5600名以上のウクライナ軍を捕虜にしているとか。

また、ウクライナ軍では1日最大100人の兵士が死亡するなど劣勢に立たされており、士気喪失は深刻で脱走事件は週を追う毎に増えているとしている。

これまで、ロシア敵視やウクライナへのテコ入れを率先してきたのはイギリスだったが、その本家本元のイギリスのメディアが報道姿勢を転換し、ウクライナ軍の実態を報じ始めたことになる。

やはり、「ウクライナ情勢の転換と役割を終えたバイデン政権」で紹介したように、あの世界史の黒幕キッシンジャー氏の発言から潮目は変わったようだ。

まあ、メディアさんとしてはウクライナ軍の敗色濃厚が明らかとなったことを受けた責任逃れなのだろうが、逆に言えば、ロシア軍はかなり優勢ということになる。

このまま順調に行くと、ドンバス~クリミア地域の制圧に留まらず、ニコラエフやオデッサまで含む所謂「ノヴォロシア」を完全制圧することになるかもしれない。

まあ、ノヴォロシアはウクライナの3分の1を占める広大な地域だし、ウクライナの隣国モルドバともピリピリするだろうから、全て併合するのではなく一部地域に自治権を付与する形となるかも。

いずれにせよ、この地域は確実にロシア覇権下に入り、アメリカ覇権から離脱することになる。

まあ、ウクライナ自身が事実上の財政破綻国家というダメっ子であり、本来なら地理的に見てもロシアとの結び付きを強めて長期的な安定性を持つべき国家と言える。

これまでは、ロシアに充分な力が無かったりアメリカが介入するなどしたために混乱を極めて来たところだが、今回のウクライナ危機をきっかけとして、あるべきところに落ち着くことになりそうだ。

そう考えると、欧米勢はウクライナの絶対正義を煽り倒し、中途半端な支援に徹することで戦争を長期化させたが、それはロシアの支配地域を拡大させると共に、結果としてウクライナの安定化に寄与することになる・・という大いなるシナリオを感じてしまう。

さて、このようにウクライナのロシア覇権入りが見込まれるところだが、こうした中でロシアが黒海を封鎖するなどしてウクライナの輸出を妨害する一方で、農家の倉庫に積みがった小麦をロシア軍が略奪して売り払っている・・との問題が報じられている。

また、国連のグテレス事務総長やゼレンスキー大統領は、ロシアの行為が穀物価格の上昇や飢餓を招くことを危惧しているとか。

確かに小麦は不足感もあって高値圏で推移している。

以下は小麦先物の週足チャート。

20220613小麦週足チャート

一時の火柱上げは解消しているものの、昨年同時期と比べると1.5倍以上の価格帯で安定していることが分かる。

こうした中で、さらなる高騰を期待する穀物メジャーが出荷制限でもしたら世界的に不足が加速しかねない。

小麦の不足感が漂っている理由は、アメリカ始め世界中の小麦産地での不作もあるが、基本的にはロシアがウクライナ小麦を供給停止しているからと言うことになっている。

だが、実はこの話はウクライナを「ワルモノ」へと変えるポテンシャルを秘めている。

以前に「ウクライナ情勢の転換と役割を終えたバイデン政権」で、ウクライナの港湾を機雷封鎖したのはウクライナ軍ではないか・・との話を紹介したが、この点について、イギリスのBBCから面白い記事が出ている。

この記事の中で、

ラヴロフ氏はロシアがウクライナ産小麦の輸出を妨害しているとの見方を否定。オデーサなど黒海沿岸地域での地雷撤去の責任はウクライナ側にあると述べた。

ウクライナ外務省の報道官は、ロシアが「穀物の輸出経路を使ってウクライナ南部を攻撃する」恐れがあるため、ウクライナは沿岸部の地雷を撤去できないと述べた。

とある。

この記事内の「地雷」は「機雷」だろうが、ウクライナが対ロシア防衛のために港湾に機雷をバラまき、さらにその撤去に消極的であることが報じられている。

つまり、黒海の制海権をロシアが握っているか否かは関係なく、ウクライナ小麦の輸出を止めているのはウクライナだったと言える。

恐らくは、アメリカの軍事アドバイスに基づくものなので、その点ではアメリカがやらせたと言えるだろう。

また、小麦不足のもう一つの要因は、対ロシア制裁により(西側陣営の国々が)ロシア小麦を調達出来なくなった「逆制裁」がある。

こうして見ると、世界の輸出シェア3割を占めるロシア・ウクライナ小麦の流通を止めて小麦不足・価格高騰を招いたのは、アメリカがロシア制裁・ウクライナ港湾への機雷敷設したから・・と言うことが分かる。

お陰様で、ウクライナ小麦に頼るアフリカ・中東諸国では小麦の調達に苦労しているようで、特に干ばつにも泣かされているアフリカ諸国にとっては致命傷となりかねない。

先に紹介した読売の記事には、ロシアは占領地域の小麦を貨物列車でクリミアまで運び、そこから船で出荷する体制が整ったとか、マリウポリ等の港湾の機雷撤去作業が完了し、出港可能になったことが報じられている。

これは、ウクライナが意図的に止めていた小麦の輸出をロシアが再開させるもので、特に小麦を待ち望むアフリカ諸国には朗報だろう。

そして、このタイミングで「ウクライナ小麦のロシア略奪説」が出てきていることを、アメリカのニューズウィークが報じている。

アメリカは、アフリカ諸国に対して「ロシアの小麦はウクライナからの略奪品だから買うんじゃねーぞ」と警告しているとか。

さらに、ロシアによるウクライナ小麦略奪の話が出てきたのは、アフリカ諸国がロシアに「食糧助けて欲しいお(´・ω・`)」と相談した直後だったことが指摘されている。

アメリカが意図的にロシア・ウクライナ小麦の流通を止めていたこと、ロシアがそれを再開させたことを踏まえると、単なる恫喝ではなく、「小麦食いたきゃロシア陣営に行け」と言うアメリカの覇権縮小策の可能性がある。

なお、ロシアがウクライナ小麦を略奪しているとの話も怪しい。

この話の言い出しっぺはウクライナだが、これについてアメリカの政治専門紙「The Hill」は、国連のエライ人が「明確な証拠が無いけど略奪あったで」と言っていることを報じている。

さらに、ロシアメディアのRTは、国連事務総長のスポークスマンのドゥジャリック氏が、ロシアによるウクライナ小麦を略奪を確認できていないとの発言を報じている。

まとめると、アフリカ諸国がロシアに食糧供給を要請した直後にウクライナ小麦がロシアに略奪されているとの話が出てきたが、これはウクライナが一方的に主張しているだけで証拠は無い・・と言うことになる。

そうなると、ロシアは略奪しているのではなく、実は出荷出来なくて困っていたウクライナ農民から小麦を買い上げて輸出しようとしていることになる。

そもそも、ロシアはインドや中国への石油輸出により、今年の収入は50%増が見込まれており、カネには全く困っていない。

ロシア制裁により世界の石油供給量が減少したため、原油価格は高騰しており、最高値圏で推移している。

20220613WTI原油日足チャート

ロシア陣営に寝返った中東勢が、アメリカの意向をガン無視しているのは「ウクライナ危機でロシアに寝返るサウジとUAE 黒幕はイスラエル」で紹介したとおりだ。

ただ、困っているのは欧米陣営だけであり、インドや中国はロシアからディスカウント価格(と言っても以前より高い)で石油を購入しており、Win-Winとなっている。

このように、コモディティ価格高騰により荒稼ぎしているロシアが略奪非難を受けてまでウクライナ小麦を輸出する必要性は薄く、小遣い稼ぎ以外の目的があると見るべきだろう。

こうした状況を踏まえると、この略奪問題とは「ロシアが輸出再開させた小麦を食いたければ、ロシア陣営に行け」というメッセージだけでなく、「小麦輸出止めてるウクライナけしからん」という世論転換を図るツールである可能性が高い。

ロシアの勢力圏内にある黒海やマリウポリ港湾内の機雷については既にロシアが撤去したようだが、先に紹介したBBCの記事にあるように、オデッサ港湾内の機雷撤去についてはウクライナは協力を拒んでいる。

ウクライナをワルモノに仕立てるツールとして、小麦の輸出再開問題はうってつけだ。

さて、ロシアはトルコとの協力により、マリウポリやオデッサ港湾の機雷除去やウクライナ発の貨物船を(機雷から)共同護衛する形で運航を再開しようとしているようだ。

ただ、ウクライナの港湾から機雷撤去するには数ヶ月掛かる見込みとか。

機雷撤去にはこれはウクライナの協力が必須・・というのを前面に出しており、これがロシア・トルコの悪知恵なのかは分からないが、ウクライナが小麦止めていた上に輸出再開に非協力的・・を喧伝することで、ウクライナをワルモノに仕立てていく準備段階にも見える。

また、このウクライナ小麦の略奪問題は、EUの対米離脱も促すことになるかもしれない。

EUでは、2020年にウクライナから小麦始めとする農作物を60億ドルも輸入しているが、略奪問題やロシア制裁を前に、ウクライナから農作物を輸入することが困難となっている。

先日のブログでも紹介したように、ドイツでは電気・ガス以外にも食糧価格の20~50%大幅値上げや小麦粉・食用油の購入制限もあるなど、インフレ&モノ不足でピンチな状況だ。

また、EU内ではウクライナ支援を巡る温度差が拡大していることが報じられている。

ドイツやフランスでは、インフレによりウクライナ支援に対して国民の支持が得られなくなっており、ポーランドやバルト三国のような「ロシア憎し」の国々との間の亀裂が表面化しつつあるようだ。

プーチン大統領は「ロシアが輸出再開させた食糧を輸入したいなら制裁解除してね」と言っているようだが・・欧州勢の内情を踏まえると、制裁解除する可能性は否定できない。

もちろん、アメリカはブチ切れるだろうから制裁解除は簡単ではない。

しかし、「小麦高騰はウクライナのせいだったの?マジ最悪」「アメリカの言いなりになって小麦止めるなんて、ウクライナ最低」的な世論が醸成されるなどして、ウクライナがワルモノになれば話は別だ。

そして、冒頭に紹介した欧米メディアの報道からは、ウクライナをワルモノとする準備が整いつつあるようにも見受けられる。ただ、安易なウクライナのワルモノ化は、政府やメディアの信頼を落とすことにも繋がり、世界統一的な政府組織の樹立に繋がる可能性はある。

ウクライナ情勢の転換と役割を終えたバイデン政権」で、バイデン政権の役割は「グレートリセットの不可逆的な開始」である可能性を紹介したが・・その点からは「いい仕事してますねぇ」ということになるだろうか。

まあ、ウクライナがワルモノ化してもロシアが正義の味方となることは無いだろうが、少なくともウクライナ危機についてはロシア勝利で終わる可能性は高まってきた。


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