原田武夫氏曰く、政治家など表に出ている「政体勢力」とは別に、政体の上位に位置して真の権力を持つ「国体勢力」が存在すると言う。
・・ということで、表に見えている中国の状況から「国体勢力」の存在を考えてみたい。
さて、中国では鄧小平の指揮の下、1978年頃から毛沢東の文革・大躍進政策などの失敗からのリカバリーを図ってきた。
その一つが安定的な政治体制の確立だ。
鄧小平は、毛沢東死後に激しい跡目争いが続いたことで政治的安定性を欠き国家運営が低迷したことを受け、最高権力者として「国家首席」を位置づけ憲法で任期を2期10年と規定したほか、「集団指導体制」を確立するなど、個人への過度の権力集中や個人崇拝を防止する体制を構築した。
これにより、政治権力がシステマティックに継承されるとともに、毛沢東のような個人崇拝の対象となるカリスマ独裁者の登場や権力闘争は下火になった。
さらに、鄧小平は大躍進政策の失敗で疲弊した経済の建て直しも図った。
鄧小平は「まず豊かになる」という先富論の原則に基づいて海外から資本や技術を受け入れ、さらに企業の自主的な経営権を容認するなど、社会主義体制のまま市場経済を導入する「改革解放政策」へと舵を切った。
この結果、HUAWEIやアリババ、恒大集団に代表されるような巨大民間企業が誕生し、多くの富が蓄積された。
政治・経済の安定とともに、中国は世界第二位の経済大国へと成長を遂げた・・・が、習近平政権下において、これらの鄧小平の基本戦略は急速に逆流(独裁・共産主義化)しつつある。
まずは政治体制だ。
2018年の全人代において、憲法により2期10年と定められた国家主席の任期規定が撤廃された。
The Chinese Communist Party’s leadership calls for the removal of presidential term limits, opening the door for China’s most powerful leader in decades, Xi Jinping, to remain in office beyond 2023 https://t.co/FcjsuFyUPT pic.twitter.com/FY7t77zKlQ
— AFP News Agency (@AFP) February 25, 2018
これにより、習近平は任期が切れる2023年以降も中国のトップとして君臨することが可能となった。
これは極めて重い変化だ。
中国の最高国家権力のうち、共産党総書記と中央軍事委員会主席は任期の定めがないため、「国家首席」を位置付けて任期を定めることで、カリスマ化と過度の権力集中を規制していた。
つまり、「任期」とは独裁者の登場やその後の権力闘争を防ぐという集団指導体制の根幹をなすものだったので、任期規制撤廃により習近平は強大な権力者となった。
さらに、最近では「習近平思想」なるものを学ばせているとか。
中国の習近平政権の暴走がエスカレートしている。「共同富裕」というスローガンを掲げて大企業などに巨額の拠出を強要し、子供たちにも「習近平思想」を学ばせるなど個人崇拝の様相だ。 https://t.co/YD9DXUnqBf @zakdeskより
— zakzak (@zakdesk) September 14, 2021
あたかも英雄・毛沢東のごとく個人崇拝を進めている。
なお、個人崇拝についても「毛沢東その後」の失敗を踏まえ、カリスマ独裁者を誕生させない・・という反省に基づき特定個人への権力集中を避けるための集団指導体制ではご法度だった。
それが、正々堂々と「キンペー思想」なるものを教えるようになっている。
そう、習近平は「毛沢東」以来の任期の定めのない終身国家主席として、まさに「皇帝」となった。
ついで経済面を見てみる。
これについては、「不動産開発大手・恒大集団を破綻させる中国共産党の狙い」で紹介したように、中国ではアリババや恒大集団など巨額の富を蓄積した名だたる大企業が、中共政府により狙い打ちされている。
この状況は、アメリカに亡命した大富豪・郭文貴の言葉を借りれば、赤ちゃん(=成長した民間企業の富)を国の手に取り返すフェーズになっているとか。
言い換えれば、鄧小平路線の「まず豊かになる」段階が達成されたので、本来は国家に帰属すべき富を民から回収しているということになる。習近平の欲望による「富の収奪」ではない・・と思われる。多分。
このように、習近平は集団指導体制や改革解放と言った鄧小平路線から脱却し、共産主義国家への回帰や毛沢東並のカリスマ権力を手に入れた。
そして、巨大民間企業を抑え込み、影響力のある芸能人を抑え込み、ゲームすら規制する姿勢からは、共産主義革命(2回目)をしようとしているかのようだ。
なお、共産主義革命は、高度に発展した資本主義社会において発生するとされる「ポスト資本主義」の一つの形態ではあるが、現在の資本主義諸国で共産革命など起こる気配はない。
多分、現代社会における共産化は「革命」ではなく、強大な権力によって上から成し遂げられるものになっていると思われる。
こうして見ると、中国は一定以上の豊かさと極度の格差、習近平という強大な独裁権力が存在しており、1949年の中華人民共和国成立時よりも、共産主義国家に回帰するのに理想的な状況となっているように見える。
ただ・・中国にとって共産主義に戻ることは、あまり良いことではない。
と言うのも、共産主義国家において必要不可欠な巨大権力は、理想社会の実現のためではなく、権力の保持や富の収奪のために使われてきたことは歴史が証明している。
あのヒトラーは1100万人を殺害したが、スターリンは2000万人、毛沢東は6000万人殺害することになったし、権力者の腐敗が社会を腐敗させ崩壊に至るのが共産国家の辿った道だった。
なので、中国が共産主義に回帰すると、習近平の死後に激しい腐敗や権力闘争により政権が不安定化・弱体化するなどして、中国の強大な覇権は失われる。最悪、中国共産党政権は崩壊する。
そんなことは、習近平はよく分かっているだろうから、間違っても「私利私欲」ではない。となると、ますます「何のために」と言うところが気になってくる。
しかも、習近平による国家首席の任期撤廃や個人崇拝など集団指導体制からの転換は比較的スムーズに進んでいるように見え、よく言われる「江沢民派との争い」なども無さそうだ。
さらに、中国共産党9000万人のスーパーエリート層として、政治局常務委員7名、政治局委員25名がおり、その一人ひとりに後ろ楯がいると考えると、そもそも習近平が私利私欲で独裁体制を確立するのは困難だ。
そうなると、江沢民やスーパーエリートを黙らせた上で、習近平に政治・経済政策の大転換をやらせている「真の権力者」がいると考えるべきだろう。
その真の権力者というのが、原田武夫氏が言うところの「国体勢力」であり、中国で言えばそれは「洪門」ではないだろうか。
洪門とは、清王朝が海賊対策として採用した「海禁政策」により、海外貿易が盛んだった華南を中心に貿易・航海関係者は地下にもぐって組織化し秘密結社化したものと言われる。
そして、「三合会」とか「天地会」と呼ばれる洪門系地下ネットワークが形成され、東南アジアやアメリカ、ヨーロッパなど世界中に広がっていったとか。
なお、これらの組織が鄭成功の末裔と言われるのは、海禁政策に反発する華南が起源だからなのかも。
また、海外貿易は清王朝支配下では御法度だったことから、海外貿易で成功を収めたいわゆる「華僑」は必然的に洪門系ネットワークに所属していることになる。
原田武夫氏が言う「華僑・華人ネットワーク」と「洪門系ネットワーク」は必然的に繋がるし、もしかしたら、華僑=洪門と言っても過言ではないかも。
また、洪門ネットワークは、中国→海外だけでなく海外→清王朝を目論む海外勢の窓口ともなったことは間違いないだろうから、必然的に海外勢との繋がりも構築されていったハズだ。
例えば、辛亥革命で中華民国を建国した孫文は洪門ネットワークの一つ「三合会」のメンバーで、アメリカ在住の華僑から支援を受けていた。
今の中国共産党も・・
中国共産党創始者の一人李大釗も、“天地会はマルクス自身が創建し指導する第一インターナショナルと組織的な繋がりを持つ中国唯一の革命団体である”と《中山主義的國民革命與世界革命》の中で述べている。
(Wikipedia 洪門より抜粋)
とのことで、清王朝以降の中国の歴史は洪門ネットワークが作ったといっても過言ではない。
また、以前に「馬淵睦夫著「知ってはいけない現代史の正体」 ディープステートについて知りたい人はオススメの書籍」でも紹介したが、ロシア革命を主導したレーニンやトロツキーはじめボリシェビキ革命政府指導部の8割はユダヤ人であり、アメリカのユダヤ系金融資本家による支援を受けており、欧米国際金融資本と共産主義勢力は協調していた。
知ってはいけない現代史の正体(馬渕睦夫)
このように、洪門ネットワークと共産主義勢力、国際金融資本勢力などは、洋の東西を問わず協調的に動いており、国の存亡含めて国際政治をコントロールしている。
また、この「洪門」は「アジアンフリーメーソン」とも関係が深い。
清王朝末期に、欧米の秘密結社「フリーメーソン」が洪門ネットワークに接触したことによるものか・・・。
このような背景と習近平の動きから、今後の国際情勢を予測するとどうなるだろうか。
まず、習近平が構築中の「共産主義体制」は、実は経済危機にめっぽう強い。例えば、あのヒトラー率いるドイツでは管理経済体制とすることで世界大恐慌から早々に脱却したし、ソ連経済は世界大恐慌の間は右肩上がりだった。
「いよいよインフレが本格化 そして日本デフォルトとデジタル円」などで紹介したように、現在のインフレに端を発したQE終了により、円の事実上のデフォルトなど、現在の金融システム大混乱による、超絶大恐慌が予想されるところだ。
習近平(の背後にいる洪門さん)が共産主義回帰を進めるのは、そのような国際金融システムの影響を軽くするための方策と考えられる。
もう一つ気になるのは、原田武夫氏曰く、台湾には簿外資産に関するものものがあると言う点だ。
安倍元首相はじめ歴代首相は、簿外資産に関連して台湾にお金を無心しているとか。
簿外資産・・・ゴールドなのか、巨額の債券類なのか。
これを、習近平(の背後にいる洪門さん)が回収することになっているのではなかろうか。もしかして台湾有事という形になるかもしれないが・・・。
そして、習近平の引退後(死後?)に弱体化し覇権を失った中国は、「アメリカの暴動と新中国連邦構想」で紹介したように、共産党政権が崩壊して分裂する新中華連邦構想(New Federal State of China)の状態になることが予想される。
そこで、新たな国を作るために台湾の簿外資産が使われることになるのだろうか。
なお、「洪門」はWikipediaに項目があるくらいなので、本当の国体勢力では無いだろうが、政体を超えたポジションにいるのは間違い無いだろう。
今後の習近平の動きには要注意だな!
最後まで読んでくれてありがとう!