気候変動と日本

つながる地球温暖化と金融危機、そして日本の財政出動

気候変動と日本

あまり話題になっていないが、個人的に気になったのでこのニュースを紹介したい。

概要としては、国際決済銀行(BIS)が、気候変動のせいで金融危機が起こるかもしれないから、政府はカネを出せと言っているというものだ。以下はロイターから。

世界の中銀、気候変動から地球守れず 広範な国際協調必要=BIS

[バーゼル/ロンドン 20日 ロイター] – 国際決済銀行(BIS)は20日に公表した報告書で、世界の中央銀行が気候変動から地球を守ることはできないとし、政府が打ち出す政策から金融上の規制に至るまで、広範な世界的協調が必要になるとの考えを示した。

BISの報告書の題名は、事前の予測が困難で発生した際の衝撃が大きい事象を示す「ブラック・スワン(黒い白鳥)」を文字った「グリーン・スワン(緑の白鳥)」。気候変動が世界的な金融システムに対しもたらす可能性のある甚大な影響について警告した。

過去40年間で異常気象の件数は約4倍に増加したが、異常気象でもたらされた金融損害のカバー率は米国で44%、アジア地域で8%、アフリカ地域で3%にとどまっている。

報告書の著者の1人、ルイス・アワズ・ペレイラ・ダ・シルバ氏は記者会見で「次のシステミックな金融危機につながる動きの台頭を目撃している可能性がある」と指摘。海面上昇や極度の干ばつなどで人類が居住できる地域が狭まる中、今後も異常気象が続けば、これまでに金融危機対策で重要な役割を果たしてきた各国中銀が「最後の貸し手」として対応することが期待される公算がある。ただペレイラ・ダ・シルバ氏は「特効薬はない。中銀が再び世界を救うことはできない」と述べた。

フランス中央銀行のビルロワドガロー総裁は報告書の前書きで、すべての経済見通しモデルに気候変動がもたらす要因を組み入れる必要があると指摘。「気候変動により人類は空前の課題に直面している。各国の中銀、および規制当局はこうしたリスクから隔離されていると考えることはできない」との考えを示した。

報告書は、気候変動が金融システムに及ぼす可能性のある破壊的な影響に銀行の資本要件に基づく現行の規制では対応できないとし、政府と中銀が関与する新たな政策の組み合わせが必要になると提言。実現にはこれまでに例を見ない国際的な協調体制が必要になるとの考えを示した。

現在の世界的な国内総生産(GDP)は約80兆ドル。一部モデルでは、二酸化炭素(CO2)排出削減策が実施されなければ最大でこの約4分の1が失われると試算されている。

報告書は「気候変動によりスタグフレーション的な供給ショックが引き起こされる可能性があり、金融政策ではこれに完全に対応できない」とし、「気候変動で引き起こされる新たな世界的な金融危機に対し、各国中銀と規制当局は無力だ」とし、中銀と規制当局だけでは対応できないとの認識を示した。

報告書の作成にはフランス中銀も主導的な役割を果たした。

気候変動によって様々な損失が出るので、それによって金融危機が起こるかもしれない。その際は中央銀行だけでは対処できないぞ、と言っているわけだな。遠回しだが、政府はカネ出してくれということか。

BISの言う「地球温暖化による金融危機」は、イギリス中央銀行のカーニー総裁も同様の発言をしている。2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議、パリ開催)を念頭に語ったものだ

この時のカーニー発言をざっくりまとめると、「地球温暖化によって世界の金融・経済が不安定になるかもしれないよ。災害が起これば保険金の支払いも大変だし、石油とか資源採掘への投資がムダになるかもしれないし、他にも色々なリスクがあるから国や企業は早く対策にしてね!」・・・だ。

なお、今月末にイギリス中銀総裁を退任予定のカーニーさんだが、この発言もあってか、国連の気候変動特使になることが決まっている。

カーニー発言の全文(日本語訳)は一般財団法人地球・人間環境フォーラムのサイトに掲載されている。

長いので読むのが面倒な方はウォール・ストリートジャーナルの記事にまとまってるぞ!

英中銀総裁、気候変動の金融システムへの影響に警鐘

おじさん、この発言については「カーニー総裁もホンネでは温暖化対策なんて不要と思っているだろうな」くらいにしか思っておらず、カーニーさんの意図はイマイチよく分からなかった。

だが、今回出てきたBIS報告書を見てなるほどと思った。

この報告書の「地球温暖化が金融危機の原因になるかもしれない」と言うところまでは、カーニー発言を踏襲している(無理矢理感はあるが)。

だが、さらに一歩踏み込んで「気候変動に金融政策では対応できない」「気候変動による金融危機に対し、各国中銀と規制当局は無力」としたうえで、「政府と中銀が関与する」「国際的な協調体制が必要」としている。

平たく言うと「政府が直接カネを出せ、世界中でだ」となる。もっと言うと「中央銀行はQEのやり過ぎでカネが無いから、今後は政府が直接財政出動してね」と読める。

現在の各国中央銀行では、QE(量的緩和)、つまり紙幣を刷りまくって、そのカネで株式や債権を購入して株式・債権市場を支えている。

だが、このQEは各国中央銀行のバランスシートの肥大化を招き長くは続けられないため、ドイツなど財政規律を重んじる良識派からは早く止めるべきと言われている。

事実、日本・アメリカ・EUの各中央銀行の資産規模合計は、QEを実施した10年で約4倍(14兆ドル)にまで膨らんだ。

FRB(アメリカ連邦準備制度)では金融正常化を目指して、2014年末から国債の買い入れをやめ2015年末からは金利を上げ始めるなど、金融引き締め(QT)へと舵を切った。

実に正常な動きだったが、トランプ大統領の方針「大統領選まで景気を上げ続けること」「来るべき多極化世界のためにドル基軸性を喪失すること」とは真っ向からぶつかった。

トランプはFRBの利上げ方針を撤回させ、昨年は2度の利下げに踏み切らせた。

さらに、トランプの意を受けた(と思われる)JPモルガン主導でレポ市場の金利高騰が誘発されたため「レポ市場の安定化」のもと、なし崩し的にFRBが資金供給せざるを得なくなり、事実上のQE再開となった。

だが、各国の中央銀行とも買い入れ余力が低下しており、QE継続は限界が近いと思われる。

アメリカはまだやれるかもしれないが、EUでは中央銀行(ECB)が買い取れる国債は各国発行額の33%までとされており買えるものが無くなってきているし、日本もそろそろ潮時だろう。

しかし、今年は2020年。トランプ大統領は秋に大統領選挙を控えており、また、7月に退任をほのめかしている安倍首相にとってはアベノミクス総括の年となる。

両国とも節目の年で絶対にコケる訳にはいかない

そこで代わりに出てきたのが、冒頭のBISの報告書にでていた「政府の財政出動」だ。

日本の借金(正確には国民が政府に貸しているカネ)は1000兆円オーバーだというのに、まだ借金を増やすのかと言いたいだろうな。

そこで、これ!「MMT(現代貨幣理論)」だ。

MMTとは「自国通貨を発行する政府は供給能力を上限に、貨幣供給をして需要を拡大することができる」とする理論である。(Wikipediaより)

要するに、これまでは極端な財政赤字はインフレになると言われてきたが、バブル以降の日本でそうなってないから大丈夫!積極的な財政赤字で景気回復しようという話だ。

どうだ、胡散臭いだろぅ?

ということで、BISの報告書を受け、早くも日本では政府の財政出動による環境対策が出てきた。日本の官僚、仕事早いな!以下は時事通信からだ。

温室ガス削減に30兆円投資 政府、環境新戦略を策定

政府は21日、統合イノベーション戦略推進会議を首相官邸で開催し、温室効果ガス排出量の抜本的な削減に向けた新戦略「革新的環境イノベーション戦略」を決定した。環境・エネルギー技術に関する研究拠点を新設。今後10年間に官民合わせて30兆円の研究開発投資を行い、2050年までに世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量を上回る削減を可能とする技術確立を目指す。<下へ続く>

研究拠点は「ゼロエミッション国際共同研究センター」。昨年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰・旭化成名誉フェローをセンター長に迎え、今月末に設立する。
実現を目指す技術として、製造時にCO2を吸収する素材を使ったコンクリートの実用化や、ビル壁面、自動車に設置できる太陽光発電の実現などを想定。技術確立により、50年までに年間600億トンのCO2削減を見込む。
一方、戦略推進会議では、今後20年を見据えた量子技術に関する新戦略も策定した。スーパーコンピューターの性能をはるかに上回る「量子コンピューター」など四つの重点領域を設定し、研究開発投資を拡充。国内外から研究者や企業を集める研究開発拠点も設ける。
このほか、自然災害、サイバー攻撃などの脅威に対応する新たな方針も決定。科学技術の専門家による会議などで具体的な技術確立や人材育成などを検討する。各府省のIT施策の連携に向け、政府の作業部会を設置することも決めた。
会議では、科学技術基本法の名称を科学技術・イノベーション基本法に改めるなどした改正案を今国会に提出することも確認した。

なるほど、30兆円使って研究拠点作ったり、二酸化炭素を吸収するコンクリートや量子コンピューターなどの研究開発に投資するって訳だな!

でも、研究開発への投資だと、QEみたいに株式や債権を買い支えられないのでは?

心配は無用だ。

欧州中央銀行のラガルド新総裁がヒントを出してくれたぞ。彼女の主張は「中央銀行も地球温暖化対策をやるべき」「財政に余裕のある国がカネを出せ」だ。

地球温暖化対策として政府は赤字国債をドンドン発行し、そのカネで民間企業が発行した「グリーンボンド(緑の債権)」を買い、温暖化対策のニオイのする企業の株を買えと言うことだ。

日本の30兆円でQEの代わりに金融市場にカネを入れるのだ。

昨年の国連総会でグレタ・トゥーンベリさんが出てきた辺りから、温暖化を止めないと20~30年くらいで人類滅びます的な話が出てきた。さすがにそれは無いので、おそらく、各国政府に財政出動させるために、世論を極端に傾けたのではないか。

だとすると、先日のCOP25で日本の石炭火力発電がやり玉にあがり、ボコボコに非難されたことも頷ける。

日本の石炭火力の効率は世界最高水準なので、安価な石炭を使う石炭火力を必要とする途上国への導入は、むしろ二酸化炭素削減に効果的だし、石炭火力を推進する中国にはアイツら何も言わないし。

完全に日本からカネを引き出すことを考えてるわ。そして官僚たちは、自分たちの権力維持の源であるアメリカ軍産・国際金融資本勢力を支えるため、バブルとドル覇権の延命に無制限にカネを出してしまう。税金だぞ。

そうこうしてるうちに、いよいよ次の金融危機が起こる。中央銀行も政府も全くカネを出すことが出来ないなかで、リーマンショックを遥かに上回る規模で金融市場が全面崩壊する。

こうなると、2期目のトランプが病死するとか暗殺されるとかいう予言を散見するが、仮にそうなっても金融崩壊を止めることは不可能だろうな。


最後まで読んでくれてありがとう!