アメリカのトランプ大統領が、シリアからの撤退を発表し実際に米軍はシリアから撤退した。これまでにも撤退をするすると言っていながら撤退できなかった状況があるので、撤退したいことは分かっていたものの、すごい唐突感があった。
元々アメリカがシリアに駐留して目的の一つとして、ISやアサド政権への監視、シリアに近いイランへの牽制のほか、その地に住むクルド人を守ることにあった。
クルド人と言っても、特にシリアのクルド人はYPGという軍隊組織を持っているほか、シリアを拠点とする過激派組織PKKもいる。そんなクルド人たちは、シリアにおいて欧米と連携してISと戦った。
クルド人は、イラクやトルコ、シリアの一部地域ににまたがって暮らしており、独立国家クルディスタンを作りたがっている。当然、イラク・トルコ・シリアはそんなことは絶対に阻止したいし、特にトルコではクルド人過激派組織PKKへの対応は、IS以前からの深刻な課題である。トルコではYPGもPKKもテロ組織だ。
一応、トルコの立ち位置だが、敵対関係にあるのがクルド人・シリアで、良好な関係となっているのが、欧米(トルコはNATO加盟国)やロシアである。
なお、シリアはイランやロシアのバックアップを受けているので、ロシアの影響にあるトルコ・シリアの中が悪い状態だ。
ということで、このような状況の中でアメリカがシリアから撤退し、それに呼応するようにトルコ軍がシリア内の宿敵クルド人部隊(YPG)に対して進軍を開始した。
一方、アメリカのバックアップを失ったクルド人部隊(YPG)は、一応ISとの戦いにおいて手を組んでいたシリア政府との間で、トルコ軍が侵攻しているシリア北部にシリア政府軍を派遣してもらうことで合意を得た。
さらに、ロシアが仲裁に入って、クルド人が占領しているシリアの都市に、シリア政府軍とロシア軍が進軍する(トルコ軍の侵攻を防ぐ)こととなった。
トランプが6日にシリアからの撤退を発表し、トルコが9日に進行した。その後、シリア・ロシア・クルド人の間で一定の協定が成立し、トルコとの国境近くの都市マンビジに、シリア・ロシア両軍が進行するまでに要した時間は、わずかに1週間程度だ。
これは、関係国間での事前調整が済んでおりシナリオ通りに動いただけ、ってことを意味するのではないか。
つまり、アメリカ・トルコ・ロシア・シリアの間で、こんな合意が出来ていたはずだ。
- アメリカはシリア北部から撤退する
- トルコはシリアのクルド人(YPG)を攻めるためシリア北部に進行する
- シリアとロシアはクルド人(YPG)と合意の上、クルド人(YPG)が制圧している都市に進行する
ロシアが、「トルコ軍とシリア軍の衝突は絶対に許さない、絶対にだ」と宣言していることから、事前に調整しているものの、間違っても現場で暴走するなよ、と念押ししている感がある。
では、この合意は一体どこに目的があるのだろうか。
ぱっと見では、アメリカは、打倒アサド政権として反政府勢力(やIS)に協力してきたが、結果としてはアサド政権がシリアを回復。内戦前後の違いといえば、クルド人がシリア北部で一定の自治を行っている程度で、アメリカは何の利益も得られず撤退することととなった。
アメリカはこれまでにも同様のことをしている。
分かりやすいのは、イラクだろう。サダムフセイン政権下によるイラクにおいて、大量破壊兵器保持疑惑があるとして、2003年にアメリカが侵攻しイラク戦争が勃発した。大規模な戦闘はほどなく終結たが散発的な戦闘は継続している状況にあるなかで、アメリカによる傀儡政権が建てられた。しかし、様々な勢力入り乱れるなかでテロが相次いだが、一定の治安が回復したとしてアメリカは撤退した(2011年完全撤退)。
石油利権などが得られるのかと思っていたが、終わってみればイラクと同じイスラム教シーア派の隣国イランがイラクを勢力下に納めることとなった。アメリカ侵攻前のサダムフセイン政権においては、イラン・イラクは仲が悪かったが、その障壁が無くなったのでイラン・イラクはまとまった感じだ。
先日、サウジアラビアの製油施設が攻撃を受けたが、ここからもアメリカが頼れなくなっていくサウジアラビアを記事にした。(【原田武夫】10月9日の潮目!これからの世界の基本的構造とは?アメリカと中東!)
このように、アメリカは既得権益や石油利権の確保を目的に、中東の安定化(アメリカ化)を図るべく積極的に軍事関与をしているように見えるが、終わってみれば何一つ手に入れることなく、何をしに来たのかよく分からないままに撤退することを繰り返している(ように見える)。
今回のシリア内戦への関与にしても、アメリカの仇敵イランとの関係が深く、アメリカの影の支配者とも言われるイスラエルを敵視ししているシリアのアサド政権を倒し、親アメリカ・親イスラエル政権を樹立してアメリカにとって都合の良い形で安定化を図ることが通常ならば目的の一つとして絶対あったハズだ。
しかし、フタを開けてみればアサド政権は残り、シリアのバックにはロシアが付き、なおかつクルド人とも協定が締結されシリアは安定化に向かう方向となった。
アメリカがいなくなって、たった1週間でだ。アメリカいらんかったやんか。
さらに言うと、長年トルコを悩ませていたクルド人勢力(YPG)がシリア・ロシア勢力下に入ったこと、シリアとトルコがロシアの仲裁下にいることを踏まえると、トルコとクルド人勢力(YPG)間にも一定の安定が図られたといってもいいだろう。
NATO加盟国でありながら、EUに入れてもらえない半端な状況のトルコからしてみたら、欧米からロシア・イランに鞍替えすることになっていくのではないだろうか。
状況を整理するとこうなる。
- このエリアは、シリア・ロシアを軸にイランを加えた勢力によって安定化が図られることとなった。
- トルコはNATO加盟国(欧米の仲間)だが、ロシアやシリア・イランと急接近
- アメリカがつけ入る隙が無くなった。
長年の戦闘を経てアメリカが影響力を完全に手放したこと、その後はイランの勢力下に入ることも含めて、イラクと全く同様の展開だ。
こうなってくると、中東の勢力図はガラリと変わる。
もともと、中東は複雑な構図ではあるがざくっとこんな感じだった。
- イスラエル = アメリカの軍事力をバックに中東戦争勝ち抜き
- サウジ・UAEなど産油国や王族の国 = 親アメリカでイスラエルとも仲良し
- イラン・イラク・シリアなど = 反アメリカで「悪の枢軸」などと呼ばれる
それが、今後はこんな感じになりそうだ。
- イスラエル = 周りをイラン勢力に囲まれ孤立。イラン系勢力との協調が必要?
- サウジ・UAEなど産油国や王族の国 = イラン系勢力との結びつき強まり
- イラン・イラク・シリアなど = ロシアとの結びつき深まり、中東の大国へ
このように、アメリカを必要としない構造へ変化すると、おじさんは予想しているぞ!
いずれにせよ、アメリカは自国の通貨ドルの基軸通貨性を維持することが限界に達しつつある。うまくソフトランディングを図って欲しいところだが、先日アメリカでもQEが再開された。
今後、どこかの段階で金融危機の発生が考えられるが、前回のリーマンショック以降のQEにより、莫大なドルを発行するとともに株式・債券市場に資金供給していることから、金融危機の規模も半端なくなることが予想される。
このため、基軸通貨として世界中の取引で使用されているドルを使うエリアをなるべく減らしていくことで、金融危機のダメージを最小化し、ポストドルの新しい世界でアメリカが早期に立ち直っていくことを図っているのではなかろうか。
国際決済通貨の中では、ドル・ユーロ・ポンド・円以外では、中国人民元が最大勢力だ(円よりもちょっと多いくらい)。となると、ロシアと仲が良い中国人民元経済圏or各国の通貨を使用した経済圏の構築が進むのではないだろうか。
当然だが、ドル経済圏にどっぷりつかっている日本やヨーロッパはかなりヤバイと思うぞ。
元キャリア外交官の原田武夫氏が分析するところでは、マーケット暴落(=金融崩壊?)は先に延ばされており、11月下旬ごろまでは何も起こらないとのことだ。
一方で、日本がデフォルトするという分析もしている。
よく、日本国債は国内で消化されておりデフォルトすることは無い、と言われているが、デフォルトするならばこのような形では‥として書いたのがこの記事だ。
とのことでもあるので、今後は株や債券といったペーパー資産はもちろんのこと、外貨預金や現金などについても、資産防衛にはまったく役に立つことは無い。
農業技術と田畑でも持っていればいいのだろうが、ほとんどの人はそんなもの持っていない。
ということで、これまで人類史上、常にその価値が高かった金(ゴールド)を備えておくことが必要だと考えているぞ。
特にここ数か月は、激しい売りをこなしながら、一歩一歩着実に上昇している。
金(ゴールド)の価値に多くの人が気が付き、現物の需要が高まりつつあるとことだと考えている。ということで、過去記事を参考にゴールドを備えることを検討してほしい!