ペトロダラー崩壊

ウクライナ危機でロシアに寝返るサウジとUAE 黒幕はイスラエル

ペトロダラー崩壊

ウクライナ危機の裏で、中東情勢が大きく動いている。

実のところ、親米(対米従属)国家のサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)が、対米離脱を進めていることが強く疑われる状況となっている。

まず、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁について、「ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル」で紹介したように、サウジやUAEはロシア制裁するどころか欧米のロシア制裁を批判する有り様だ。

色分けを補足すると、水色の国はロシアに批難的ではあるものの制裁には加わっていない国々で、イスラエルなどが該当する。

また、オレンジ色の国は制裁に反対する国々で、中国やインド、イラン、サウジやUAEなどが該当する。

また、「ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル」などで紹介したように、サウジやUAEは欧米からの原油増産要求をシカトしているし、UAEに至っては中国製戦闘機を購入するなど、ここ最近のサウジやUAEの動きは対米離脱どころか「反米」レベルに達している。

「反米」の極めつけは、「アゾフ連隊の活躍報道から見る戦況とドルの崩壊」で紹介した、最大産油国のサウジアラビアが、中国に人民元建てでの石油販売を検討するというものだ。

これまでの「ペトロダラー体制」では、サウジなど親米アラブ国家は石油販売に当たりドル以外の通貨は、円だろうとポンドだろうと受け付けなかった。

従って、石油購入時には世界各国がドルを買い付けることになるため石油需要の高まりとともにドルは強くなっていった。

また、サウジなどは儲けたドルでアメリカ製兵器を購入するなど自国の防衛をアメリカに任せる形で利潤を還流しており、中東の石油王とアメリカはwin-winとなっていた(ペドロダラー体制)。

さらにドル決済(SWIFT)は必ずアメリカの連銀を通過し、その取引はアメリカに筒抜けとなる。仮にアメリカに敵国認定されると、石油の購入が困難となる。

過剰発行気味のドルが世界の基軸通貨となっているのも、ペドロダラー体制を背景とした「石油が買える唯一の通貨」という価値があるからだった・・のに、サウジが中国人民元建てで石油販売してしまうと、人民元の価値向上&ドルの価値低下を招き、さらに国際決済においても中国CIPSへの移行&SWIFT離脱が進むことになる。

これは、ドルの信用を大きく低下させるだけでなく基軸通貨性の喪失にも繋がりかねない由々しき事態であり、対米離脱の域を超えた「反米政策」と言える。

そう、サウジやUAEは対米離脱どころか「反米」に方針大転換している懸念が見えている。

ただ、このサウジやUAEの対米従属から反米への転換について、アメリカは引き留めることすらしていない。

つい先日も、サウジの製油精製施設がフーシ派によって攻撃されていた。

記事によると、フーシ派のドローンや弾道ミサイル攻撃により、サウジ西部の都市ジッダにある石油精製施設のほか、首都リヤドも被害を受けたとか。

実は3年ほど前(2019年9月14日)にも、サウジ東部のアブカイクとクライスにある石油精製施設がフーシ派からドローン攻撃を受けており、サウジの石油生産能力が低下していた。

3年前のドローン攻撃も今回のドローン攻撃も、フーシ派の背後にいるイランの関与が叫ばれているが、大事なのはそこじゃない。

まず、攻撃を受けたジッダやリヤドとイエメン位置関係だが、どちらもイエメン国境から1000キロ弱の距離がある。

サウジのジェッダ

つまり、フーシ派が飛ばしたドローンは、サウジ領内を悠々1,000キロも飛行していることになる。

なお、3年前に攻撃を受けたアブカイクなどもイエメン国境から1000キロ以上離れており、3年の時を経てサウジ国内の防空システムには何の進歩も無い・・と言うことが明らかになったと言える。

ちなみに、サウジ軍は潤沢なオイルマネーで装備は充実しているものの、世界最弱レベルの軍隊として知られており、軍事関係は米軍頼みとなっている。

当然のことながら、サウジ国内には米国製の防空システムが配備されているハズだが、今回の攻撃も3年前の攻撃も防げていない。

そもそも、フーシ派とサウジは戦争しているワケなので、フーシ派がサウジ国内の重要施設を攻撃するのはむしろ当然であり、最先端のアメリカ製防衛システムならちゃんと防衛することが期待される。

そうなってくると、以前にも書いたように米国製の防空システムはドローン攻撃を「防げなかった」のではなく「意図的に防がなかった」可能性が頭をもたげてくる。

実のところ、トランプ・バイデン政権下における対サウジ政策は、フーシ派のドローン攻撃スルー以外にも、同盟国とは思えない程には厳しいものだった。

例えば、

  • イランの影響力の強いシリアやイラクから撤退し、両国をサウジと仲が悪いイランの覇権下に押し込もうとした。
  • イスラム教の守護者を自認するサウジを無視して、イスラム教の聖地でもあるエルサレムのイスラエル帰属を支持した。
  • トルコのサウジ領事館内でサウジ人ジャーナリストのカショギ氏が殺害された件について、首謀者がサウジのMbS皇太子と暴露してサウジ・トルコ関係を破壊

・・等々。

さらに、イエメン内戦は、イエメンにフーシ派政権(背後にイラン)が出来ることを嫌ったサウジが、アメリカの全面協力の密約のもとにイエメンのハディ暫定政権を支援して介入して、フーシ派と戦っているものだ。

ただ、アメリカは密約など無かったことにして撤退したほか、サウジによる爆撃やイエメンでの食糧・医薬品不足を「人道的問題」として声高に非難してサウジへの武器支援を打ち切った。

つまり、イエメン内戦とはアメリカが最弱サウジ軍を騙して参戦させたものと言える。

こうした経緯を踏まえると、今回のフーシ派のドローン攻撃はイランが仕掛けたものだろうが、それ以上にトランプ・バイデン両政権のサウジへの仕打ちの一環であろう。

このドローン攻撃はサウジ国内の対米従属派に対する「アメリカはもうサウジを守ってやんないからアキラメロン」というメッセージと見るべきか。

そして、世界最弱の軍隊しか持たないサウジが対米離脱するとなれば、フーシ派と和解する以外の選択肢は無い。

当然ながらフーシ派の背後にいるイランや、イランの背後にいるロシア・中国に接近せざるを得なくなる。

サウジの立場からは、フーシ派の攻撃を受け続ければ王家の独裁体制崩壊の恐れも感じているだりうから、それこそ必死でロシアや中国に接近する。

対ロシア制裁に参加せず原油増産要請をシカトし、さらに人民元建てでの石油販売を検討するサウジの姿勢の理由はこれだろう。

なお、UAE(アラブ首長国連邦)も1月にフーシ派のドローン攻撃によって石油貯蔵タンクが爆発し、3名が死亡する被害を受けている。

どうやらアメリカは、サウジ・UAE両国に対米離脱を促しているっぽい。

また、UAEはシリアのアサド大統領と十数年振りの首脳会談をしたことが報じられている。

UAEのこの動きは、間違ってもアメリカが「シリア何とかしてやれ」と言っているのではない。

そもそも、アメリカさんは「アサドは戦争犯罪者だぞ。近づくんじゃねーぞ。」と懸念表明している上に、内戦で荒廃したシリアに復興投資が入らないように制裁を課している。

アメリカが2020年6月に制定した「シーザー・シリア市民保護法」により、シリアの復興事業で利益を得ると、アメリカへの入国禁止や金融システム排除などの制裁が課されることとなった。

ロイターの記事には、

米政府は制裁の目的について、アサド政権にこれまでの戦争犯罪の責任を取らせるとともに、今後戦争に訴えるのを阻止することにあると説明。

とあるが、実のところ反政府軍やISを支援して内戦を長期化させたのはアメリカなのに、内戦終了後も復興させないとか。うーん、真の戦争犯罪者とは一体誰なのか。

シリア内戦時からアサド大統領を継続的に支援してきたのはイランとロシアであり、UAEのシリア接近はアメリカの意思に反するものであるがUAEが気にする様子は無い。

UAEの対米離脱・反米化の流れの一つであり、復興投資でシリアに近づいてロシアやイランとも関係構築しようとしていると見るべきだろう。

そして、アメリカのシリア制裁を踏まえると、シリアへの復興投資は投資はドルを使わないものとなり、さらに中国が掲げる一帯一路の枠組みの中での投資となるかもしれない。

当然、サウジの中国人民元建てでの石油販売との連動や中国のCIPS活用も想定されることから、中東勢のロシア・中国陣営への寝返りはドルの価値・信用低下に繋がりかねない重大事だ。

それにしても、あまり評判のよろしくない石油王たちが短期間で一気に対米政策の転換を図ったのは意外だったが、この大英断はサウジやUAE単独のものではなく、ちゃんと「黒幕」がいる可能性は高い。

その「黒幕」候補として思い浮かぶのは、2020年にUAEやバーレーンがイスラエルと国交正常化した件だ。

しかも、この国交正常化のきっかけは、オバマ政権がまとめたイランとの核合意に求められる。

サウジやUAEにとってイランは天敵であり、核合意によるイラン復権を恐れてイスラエルに近づいたことがきっかけだ。なお、バーレーンはサウジの子分なので、実際にはサウジがイスラエルと国交正常化したと見なすべきだろう。

サウジやUAEはイランに対抗するためなら「イスラエルはアラブの敵」というアラブ世界の不文律すら破る筋金入りの嫌イラン国家・・ということをアメリカに利用され、イスラエルと国交正常化したと言える。

そして、国際政治に精通するイスラエルにより、サウジやUAEにアメリカ覇権縮小・撤退とロシアとの関係構築を説かせることに繋がったと言えよう。

なお、イスラエルも中東のアメリカ覇権の縮小・撤退という現実を踏まえると、イランの背後にいるロシア(や中国)に接近してイランとの関係を改善する必要に迫られている。

そんな利害が一致する3国は、ウクライナ危機をきっかけにイスラエルの指示の下でロシア側(イラン側)に寝返り反米転換したと考えるのが自然だろうか。

そうなると、トランプ政権がサウジ・UAEにイスラエルと国交正常化させたのは、サウジ・UAEに対米離脱とロシア接近させるのが目的だったのかもしれない。

いずれにせよ、イラン・サウジ・UAEはロシア・プーチン大統領を支援するとともに、イスラエルはアメリカを無視してトルコとの連携を強化するなど、ウクライナ危機を機に中東情勢の勢力図は大きく変わり始めた。

こうした中で、ゼレンスキー大統領はイスラエル国会でもリモート演説したとか。

ゼレンスキー大統領は、「イスラエルもロシアに厳しい制裁を課せ」とか、「イスラエルの最強ミサイル防空システムのアイアンドームを寄越せ」と言っている模様だ。

イスラエルの立場を踏まえると、形ばかりのロシア非難が限界であり制裁に踏み切ることは無さそう。アイアンドームも提供しないだろう。

また、産経さんの記事には

ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)になぞらえてイスラエルに連帯を求めた。

とあるが、ネオナチ人種差別主義者のアゾフ連隊に牛耳られてるウクライナが何言ってんだよ・・というツッコミ待ったなしだ。

ただ、ウクライナ危機は「戦争」であり、武器は飛ぶように売れていく。ドイツなどは軍事費増大へと舵を切った。

ドイツ以外にも多くの国が軍事費増大を叫び始めており、結局のところ軍産・国際金融資本が潤うことになる。

しかしながら、その原資は国債(=造幣)により賄われることになるし、その資金が軍事産業(=実体経済)へと流入すれば、さらにインフレが加速することになりそうだ。

また、ウクライナの戦況について気になる報道が出てきている。

ウクライナとロシアの仲介役を務めるトルコによると、3月21日に開催されたオンライン協議の中で一定の進展があったようだ。

毎日の記事によると、

中東メディアによると、トルコのカルン大統領府報道官は19日、停戦交渉には六つのテーマがあると指摘。このうち、ウクライナの中立化▽非武装化と相互の安全保障▽ウクライナの非ナチ化▽ウクライナでのロシア語の保護――の四つの点で歩み寄りが見られると語った。

非ナチ化が議論の俎上に乗っており、ナチがいることが大前提の協議となっている。

ここで言うナチとは「アゾフ連隊の活躍報道から見る戦況とドルの崩壊」で紹介したアゾフ連隊のことだろう。

単なる極右私兵集団だったアゾフ連隊だが、今や内務省管轄の「準軍事組織」として国家組織の中に位置付けられており、ウクライナの政治に強い影響力を持っていることが分かる。

ゼレンスキー大統領がロシアに「もう降参!」と言えないのも、アゾフ連隊が「降参したら〇すぞ」と脅しているからなのかもしれない。

ただ、停戦交渉に「非ナチ化」が出ていることや、ロシアが作戦の第一段階ほぼ完了としていることから、ロシア軍によるアゾフ連隊の強制排除が進んでいると推測される。

以前にも紹介したように、ロシアはゼレンスキー大統領の留任を認めているものの、首相は露派政党のボイコ氏への交代を求めている。このことから、ロシアはウクライナのからアゾフ連隊含む欧米勢力を排除した上で、ゼレンスキー大統領を「神輿」とした安定的な親ロ政権の樹立を予定していると思われる。

となると、ロシア軍が言う第一段階というのは「アゾフ連隊排除」のことだろう。

そもそも、ゼレンスキーの周囲にいた欧米傀儡の取り巻きややアゾフ連隊は、継続的なウクライナ東部(ドンバス)への攻撃やロシア系住民の排除によりロシア侵攻を誘発するなど、最初から戦争を望んですらいた。

ロシア軍の作戦大一段階が、アゾフ排除ということであれば、ウクライナの戦争はもう終わるのかも・・と思ったが、ゼレンスキー大統領は非ナチ化について議論するなら、議論のテーブルにつかないとの発言しているとか。

ロシア軍の「第一段階終了」とゼレンスキーの「非ナチ化なら交渉ナシよ」から考えられるのは、すでにウクライナ侵攻の最大の目的だったアゾフ排除は目処がついたことと、ロシア・ウクライナ双方が戦争長期化を図っている可能性が見えてくる。

あのインテリジェンス業界に詳しいジェームズ斉藤氏は、ゼレンスキー大統領はロシアのスパイとしているが・・

本当にスパイか分からんが、既に欧米傀儡からロシア側に寝返っている可能性はある。

ロシアが戦争長期化を望むのは、サウジやUAEなどの中東勢の動きに代表されるように、欧米とは全く別の、資源価値に基づく経済システムの構築にありそうだ。

ロシア制裁はルーブルの金本位性とドル離れに繋がる」で紹介したように、既にルーブルに金の裏付けを持たせる話や天然資源の裏付けを持つ通貨の話が出てきている。

実のところ、欧米側には天然資源はおろか経済発展が見込まれる地域はほとんどなく、それらはロシア側(ロシアや中国、インド、中東勢)に集中しており、戦争長期化により対ロシア制裁が長引くほどに欧米勢は(ロシアの逆制裁で)困窮していく。

上で紹介した、対ロシア制裁に協力する国の地図。

対ロシア制裁一覧

これを見て分かるように、積極的に制裁している濃い青は欧米勢しかおらず、ほとんどの国は制裁に反対かロシア支援に回っている。

ロシアの天然資源に頼りきりのEUも、今はアメリカに従っているものの、そのうち耐えきれずに対米離脱することになりそうだ。

・・と言うか、既にその兆候が出ている。

バイデン米大統領による「ロシアのプーチン大統領は権力の座にとどまってはならない」とのプーチン排除発言について、ロシアとの緊張をエスカレートすんなと非難の大合唱となっているとか。

ブルームバーグの記事には

マクロン仏大統領は「言葉や行動で事態をエスカレートさせるべきではない」とフランスのテレビで発言。ザハウィ英教育相も、プーチン氏の将来は「ロシア国民が決めることだ」と述べた。

とあり、味方のハズのEU諸国からエライ非難されている感じだ。

バイデン発言を見る限りでは、これまでのロシア非難との差を感じないが・・何か急に空気が変わったとの印象を受ける。

そして、ロシア・プーチン大統領からは、日本に対してロシア陣営へのラブコールともとれる発言が出ている。

プーチン大統領は、「原爆や空襲で何十万人もの無辜の市民を虐殺されたのに、いつまでアメリカのポチやっとんねん(意訳)」としている。

世界の資源や経済発展が期待される地域をロシア・中国陣営が寡占する状況の中で、アメリカでは金融引締めに転換することで未曾有の金融危機が懸念されるところだ。(ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル

日本政府には、ロシアから「お前の経済制裁は宣戦布告と見なす」とか言われないうちに、人道支援に徹するなどの上手い立ち回りを期待するばかりだ。


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