新型コロナの世界的な感染拡大でロックダウンが進み、経済が停止してガタガタになっている。
そのため、原油需要が極端に落ち込んだことから、4月20日のWTI原油先物価格がまさかのゼロドル突破して史上初のマイナス価格となる異常事態が発生した。つまり、原油を買うとお金がもらえる状態だ。
記念すべき先物マイナス価格は、阿鼻叫喚のチャートからもその惨状が想像できる。
原油先物5月物の投げ売りでマイナス40ドル近くまで暴落している。なお、次の6月物も11ドル程度と大きく落ち込んできている。3月には40~50ドルだったのにな…。
この理由だが、つまるところ、新型コロナの感染拡大で実体経済が世界中で停止して原油需要が無くなっていったというところにある。
このチャートは先物なので、一部の握力強い人たちが上昇を祈って持ち続けたが、4月21日が先物ポジションを解消するか原油を現物で引き取るかの選択期限だったので、一気に投げ売ったらマイナスまで行っちゃったというもの。
原油があまりにも売れなさ過ぎて、保管タンクが満杯で置いとく所がないので、お金を払って引き取ってもらうということだ。ブルームバーグも以下のように報じている。
世界最大の石油タンク運営会社、スペースほぼ完売-先物急落の要因に
独立系で世界最大の石油化学品タンクターミナル運営会社オランダのロイヤル・ヴォパックは、新型コロナウイルスによる需要減で急速に供給過剰が進み、原油と精製燃料を貯蔵するトレーダー向けのスペースはほぼ完売したと明らかにした。
ジェラード・ポーリデス最高財務責任者(CFO)はインタビューで、「当社のターミナルで石油を貯蔵するキャパシティーはほぼ完全に売り切れた」と述べた。「聞くところによると、当社だけではない」と語った。
需要減に見合う減産がなされない中で、原油と燃料の供給過剰が膨らんだ。
貯蔵スペースが枯渇するなか現物受け渡しを回避しようとするトレーダーの動きで、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は20日、マイナス圏に落ち込んだ
ということで、石油元売りも自身の保有する石油の評価損が膨らみ損失が出ている。出光も1000億の黒字予定から250億の赤字へと転落した。
6月以降(1年物など)は11ドル程度となっており、当面需要が無いと見られている。
石油・エネルギー業界やシェール業界が苦しむ中で、トランプはアメリカの石油備蓄量を大幅に積み増すことで当座を凌ぐようだ。以下はロイターから。
[ワシントン 20日 ロイター] – トランプ米大統領は20日、戦略石油備蓄(SPR)を積み増す方針を改めて示した。原油相場の急落を受けた措置。
エネルギー省は、新型コロナウイルス感染拡大による原油需要の落ち込みで在庫が増え、貯蔵施設が能力の限界にある国内石油会社に対し、SPR貯蔵施設の余力分約7700万バレルの一部を貸すための手続きを進めている。
まあ、今が買い時だということも言っていたようだが…。
ともかく、こんなにも石油が必要とされないことがあっただろうか。
そもそも、マイナス価格がある事に驚いたぞ。今回は先物市場だったが、現物にもマイナスがあるとしたら、もはやただの産廃だ。
今回の原油急落は、表向きサウジアラビア、ロシア、アメリカの三つ巴の争いで、アメリカも譲歩するしかないというのが大方の見方だろう。
燃料・原材料としての原油消費量が劇的に落ち込んでおり、回復もままならない中では先は見通せない。しかも、途上国でコロナが深刻化するのはこれからだ。投資先として原油先物に未来は見込めない。
そして、原油輸出に依存するロシアは、定額で中国へ出していて想定以上にダメージは少ないし、そもそも財政規律が厳しいので何年も耐えられる。
そう考えると、この原油安のターゲットはアメリカ・シェール業界で、仕掛け人はサウジアラビアとロシアだ。
サウジアラビアはじめとする産油国は、石油をドルでしか売らない。日本円でもユーロでもポンドでも売らない。あくまでドルでしか原油を売らないのだ。
そして、特にサウジアラビアはあふれる石油収入をアメリカ国債や武器を大量に買うことで資金をアメリカに還流させてきた。
このシステムを「ペトロダラー」と言い、石油が買える唯一の通貨としてドルの基軸通貨性を保ち、アメリカの覇権体制を支えていた。
このペトロダラー体制の元、サウジアラビアは中東でのスンニ派国家の盟主たる地位を確固たるものとするために、シーア派のシリアやイランをアメリカに敵視させていた。
要は、石油収入の一部でアメリカの国債や武器を買うから、シリアイランをぶっ潰してくれと頼んだわけだ。
アメリカも、ペトロダラー体制によるドル・覇権の維持や、中東不安定化による武器売買の活発化を見越して協力してきた。
世界の覇権国アメリカ・世界最強のアメリカ軍とは、カネに目がくらんだ傭兵だったということだ。
王家の独裁、女性差別が蔓延するサウジアラビアを、民主主義を錦の御旗とするアメリカが認めてきたのはそういう背景があったのだ。
だが、オバマ時代にアメリカはイランやシリアとの関係改善を進め、サウジから見れば裏切り行為とも言うべき状況となった。これは、アメリカ覇権の撤収準備だ。
その後、一時的に軍産・国際金融資本勢力が盛り返し、ISの台頭や泥沼のシリア内戦などが起こった。
そして、トランプ政権になり、ISやシリア内戦の後処理をロシアやイランに譲った。また、1月のイラン・ソレイマニ司令官を殺害したが、結果として中東におけるイランの地位を向上させた。
アメリカは中東から撤収する代わりに、イランやロシアにこの地域の覇権を譲ろうとしている。サウジアラビアはアメリカの後ろ盾を急速に失いつつある。どうするか。
実は、サウジアラビアは同じような選択を迫られたことがあった。
1973年、サウジアラビアはアメリカのイスラエル支援への制裁として、石油輸出停止をチラつかせて「石油危機」を起こし、アメリカはじめ西側諸国に大混乱を巻き起こした。
その後、サウジアラビアは紆余曲折を経て再びアメリカの傘下に戻ることとなった。
今回の構図は、シェールがあるからサウジアラビアは必要はないと豪語するアメリカ。イランやロシアに着々と中東を任せるアメリカへの制裁だ。
しかし、石油危機の頃と異なり、中東のいざこざはロシアやイランが解決できるようになった。しかも、アメリカが介入するよりも平和的にだ。
こうした状況の中で、サウジアラビアはロシア・プーチン大統領と共謀して原油価格の暴落を引き起こした。
狙いはコスト高の米シェール業界だ。財務体質がぜい弱なシェール業界は、大量融資・大量社債が欠かせない。今の状況が続けば、これらジャンク級社債の破綻が見えてくる。
と同時に、原油が買える唯一の通貨だったドルの強みが消滅する。ドルの価値は原油価格が裏付けてきた。その原油がマイナスになった。ドルは…ペトロダラーの崩壊が近いのか。
さらに、ロシアやサウジ以外の産油国の不況が始まれば、赤字になると分かっていても外貨を確保するために原油を売ってくる。ドルのゴミ化が進めば、ドル以外でも売っちゃうかも?
となると、ますますペトロダラー体制の崩壊が進む。
コロナによる実体経済の破壊と原油無価値化によって、軍産・国際金融資本勢力の力を維持してきた「バブルでカネを無限大に生み出せる金融市場」「いくら刷っても価値が減らないドル」の二本柱が崩壊する。
以前に、原田武夫氏はブログで中東戦争で石油価格が暴騰と語っていたのをこのブログでも紹介したが、もしかして暴騰ではなく暴落だったのか。
それとも、シェール業界が早々に消滅して石油が暴騰するのか!?
いずれにせよ、サウジアラビアがプッツンして起こしたのが石油高騰か石油暴落かの違いで、結果は似たようなものだが。
原田武夫氏の予測 中東戦争による石油危機は日本デフォルトを誘発!?
【原田武夫】トランプ和平案のせいで中東戦争?イスラエルは危機的状況に!?
さらに、アメリカもサウジアラビアへの制裁を発動するか。もちろん演技だ。以下は日経新聞が報じたものだ。
【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領は20日の記者会見で、サウジアラビアからの原油輸入停止を検討すると表明した。原油価格が急落したことを踏まえた措置で米国内の供給過剰を是正する狙いがある。ただ国内産業の保護を目的とした貿易制限は国際的な批判を浴び、産油国の協調減産の機運に水を差す恐れがあり実現のハードルは高いとみられる。
米エネルギー情報局(EIA)によると、サウジからの輸入量は2019年に日量50万バレルと輸入量全体の7%を占める。原油の輸入制限を課す場合には国際緊急経済権限法に基づいて国家非常事態を宣言するなどの措置が考えられる。実行に移せば事実上のサウジに対する制裁措置となるため両国の外交関係に悪影響が及ぶ恐れがある。
トランプ氏はニューヨーク原油先物市場で史上初めて価格がマイナスになったことについて「短期的なものだ」と指摘した。「いまは原油を買う良い機会だ」と強調し、原油安に歯止めをかけたい考えをにじませた。
以下略
トランプ、原油安は短期的との見方をしているが、単なるリップサービスか、これから起こることを知っているのか!?
原田武夫氏は日本バブルを予測しているが、ドルの崩壊を目の前に、コロナも大したことないし相対的に安全な日本に資金が流入するのだろうか。
または、ペトロダラー崩壊の前に国際金融資本による原油価格操作が入るのか。コロナが終わらないうちに、原油市場でも軍産・国際金融資本勢力はピンチだ。
最後まで読んでくれてありがとう!