油田

シリアから撤退するといって撤退せず石油略奪に走るアメリカの狙い

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10月の頭にトランプが突然、シリア北東部から撤退を表明した。

シリア北東部には、アメリカ軍とともにISと戦ったクルド人勢力(YGP)がいた。

クルド人勢力はトルコやシリアにまたがる独立国家構想もあって、国境を接するトルコとの仲が非常に悪くアメリカが駐留することで守っていた形となっていた。

ところが、トランプは突然撤退を表明、直後にトルコ軍が国境を越えてクルド人めがけて侵攻を開始した。その後は、以前の記事でも書いたとおりだ。

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【世界構造の変化】アメリカのシリア撤退により、中東はロシア・イランの影響下に入る

ロシアが仲裁に入り、クルド人はロシア・シリアの言うことを聞いてトルコ国境から撤退した。この辺りに長年の懸案としてあったクルド人問題に片が付いた瞬間だった。

「アメリカ(トランプ大統領)は、ISに対して共に戦ったクルド人を見殺しにした」という話が散見されるが、クルド人問題を解決するためにはシリアやロシアの下にクルド人を入れるしかなかった。

アメリカの全面バックアップによるクルド人独立国家など作ろうものなら、イスラエル建国時と同様に中東に新たな戦争の火種が生まれるだけだ。

話がそれたが、アメリカの撤退表明は以下のような結果をもたらした

  • クルド人問題の解決
  • 欧米側のトルコが、ロシア・シリア(イラン)と接近
  • シリア国内におけるアサド政権の主権完全回復
  • シリアへのロシアの影響力拡大

おじさんは、以前からアメリカは中東の覇権を手放したいんだろうなと考えているが、その一環でシリアやクルド人、トルコ周辺についてはロシアへと任せた形だ。

ロシアやシリアはイランとも仲が良いので、ロシア・イランの影響のもとでシリアの再建が進むハズだ。クルド人問題という火種も解決して、”めでたしめでたし”のハズだった。

ところがだ。

つい先日、アメリカはシリアからの撤退をやめ、油田が存在する地域に留まる旨を表明した。表向きの理由は、ISに油田を奪われないためだ。

米、シリア東部に軍派遣 過激派から油田守る すでにイラクから軍の車列

【10月27日 AFP】米国防当局者は26日、石油資源が豊富なシリア東部への米軍派遣に乗り出したと明らかにした。現地のAFP記者によると、米国旗をかかげる軍の車列がイラクからシリアに入った。

この国防当局者はAFPに対し、米政府はシリア東部デリゾール(Deir Ezzor)県でシリア民主軍(SDF)のクルド人部隊と協力して、派遣部隊が陣地の強化に着手したと語った。狙いについては、かつてのイスラム過激派支配地域にある油田がイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」などの勢力の手に落ちるのを防ぐためとしたが、それ以上の詳細は明かさなかった。

 現地のAFP記者によると、13台前後の軍用車両がイラクからシリアに入り、ハサケ(Hassakeh)県に向かった。車列はシリア政権が設置した検問所を通り、米国と同盟関係にあるクルド人の支配地域の事実上の首都カミシリ(Qamishli)を通過したという。

デリゾール県には、すでに米兵約200人が駐留している。しかし、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は今月、シリア北部の対トルコ国境地帯からの米軍撤退を命令。かねて懸念されていたトルコによるシリア領内での軍事作戦の下地をつくった。

トランプ氏は先週、それまでの姿勢を修正し、油田防衛のために「小規模な」部隊を残留させると表明していた。

これに対しロシア国防省は26日、「現在米政府が現在行っているシリア東部の油田の奪取・掌握は、国際的な強盗行為にほかならない」と米国を非難した。(c)AFP

なお、すでに石油をシリア国外に運び出しているとか、アメリカ企業(石油メジャー)に産油を引き受けさせる旨の話も聞こえてきている。

米石油大手がシリア油田操業も、トランプ大統領が言及

[27日 ロイター] – トランプ米大統領は27日、エクソンモービル(XOM.N)を含む米石油メジャーにシリアで油田操業を担わせる可能性に言及した。これについて法律やエネルギー業界の専門家からは違法で非倫理的などという批判の声が上がっている。

トランプ氏はシリアでの米軍特別部隊による軍事作戦に関する記者会見で「エクソンモービルあるいは他の米国の偉大な企業にシリアで適切な形で事業を担わせ、富を拡散させる可能性を念頭に置いている」と表明した。米軍の軍事作戦によって、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者がシリア北部で死亡した。

中東に展開するエクソンモービルとシェブロン(CVX.N)はトランプ氏の発言についてコメントを控えた。

米エモリー大学ロースクールのロウリー・ブランク教授は「国際法はまさにこのような搾取の阻止を狙っている」と指摘。

元米中央情報局(CIA)分析官で米有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のシニアフェロー、ブルース・リーデル氏は「法的に疑わしい動きというだけでなく、中東地域や世界に対し、米国が石油を盗むつもりだというメッセージを送ることになる」と批判した。

米ブラウン大学の政治・国際関係学准教授、ジェフ・コルガン氏は「米国がエクソンモービルなどの米企業を通じて『石油を手中に収める』というのは非倫理的で、違法の可能性もある」と分析。また、米企業はシリアで操業するのに「数多くの実務上の課題」に直面するだろうと予想した。

シリア内戦は終結し、アサド政権がアメリカが支援した(ISアルカイダと)反政府軍勢力を駆逐して主権を回復した段階だ。

アメリカは本来ならば撤退するのが至極当然だ。

そんな事実上敗退のアメリカは、撤退すると言って撤退せず、あげくに軍の力にモノを言わせたあまりに露骨すぎるほどに明らかな略奪行為をしている。

石油が欲しいのは誰もが分かっていることだろうけど、100年前の帝国主義全盛の頃ならまだしも、今のご時世、せめて何らかの大義名分は必要だろう。

いずれにせよ、他国の富を一方的に略奪する行為は、明らかに国際法違反だ。まあ、世界のジャイアンに対して、そんなことを正面から言えるヤツは少ないけどな。

いや、言えるヤツがいるじゃないか。

シリアのバックに付いているのはロシアとイランだ。この2国ならアメリカにモノが言える。

というか、アメリカ撤退表明の際に、このエリアはロシアの影響下に完全に入ったという事実がある。アメリカがシリアの石油利権に手を付けるのは、ロシアの手前もまずいんじゃなかろうか。

少なくとも、アサド政権の主権が完全に回復したシリアに駐留し、石油を略奪する行為には正当性の欠片もない。アメリカはアサドは悪いヤツというレッテルを貼ることで自らの正当性を主張するのかもしれない。が、仮にイランは悪いヤツだとして石油を略奪しにアメリカ軍がイランに入ったら全面戦争待ったなしだろう。

内戦でシリアが弱っていることに付け込んだ石油略奪は、あまりに正当性に欠ける。

ということは、何か理由があるはずだ。

アメリカの目的は、中東からアメリカ覇権を引き上げることと、ロシア・イランに派遣を移譲することだという前提に立てば、以下の仮説が考えられる。

  • 国内のシリア撤退に反対する勢力がうるさいので、一時的に忖度したフリ
  • アメリカの中東撤退が今後スムーズに進むように、中東から嫌われて居づらくなるようにするためジャイアニズム全開
  • 今後、中東を任せるつもりのロシアに、「アメリカ出てけや」くらい言わせて中東への影響力を拡大させてやるための芝居

ということであれば、今後ロシアのプーチンがアメリカへの非難を強めてくるだろうし、それに同調してイランはじめ中東諸国からもアンチアメリカの声が上がってくることだろう。場合によっては、武力行使も辞さない構えとなるかもしれない。

どの国も、本当に戦争するつもりは無いだろうから、あくまでポーズだろうけどな。

そうなると、立場が弱くなるのはアメリカべったりのサウジアラビアやイスラエルだ。あと、アメリカ国内では、反トランプ勢力が少し大人しくなるのかもしれないな。


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