ペトロダラー崩壊

迫るペトラダラーの崩壊 中東で追い詰められているのはアメリカ

ペトロダラー崩壊

前回の「迫る金融危機 アメリカ株式市場のバブル崩壊は意外と近い」では、アメリカの経済・金融状況は極めて悪く、近いうちにアメリカ株式市場のバブルは崩壊し、それを理由として事実上のQE再開に至る可能性を紹介した。

実際に、アメリカの政府債務は100日で1兆ドルという途方もないペースで増加しており、既にGDP比124%に達している。

また、1800年以降で債務対GDP比率が130%を超えた52ヵ国のうち51ヵ国がデフォルトしているが、アメリカは2​​033年までに130%に達する見込みだとか。

まあ、実際にはもっと早く到達することになりそうだ。

と言うのも、3月のISM製造業総景気指数・製造業PMIには強弱分かれたものの、両者ともに原材料や輸送コスト上昇が示されているからだ。

製造業者のコストは2022年7月以来に急上昇し、コストプッシュインフレの再燃が確実となっており、利下げが遠退きつつあるとか。

ドルの貨幣価値の下落が起こっている中でのコストプッシュ再燃は、インフレ加速を意味するもので、直近でジワジワ下げてきた米国債利回りも急上昇している。

以下は10年米国債の日足チャートだが・・

2024041610年米国債日足チャート

・・3月中旬ごろからジワ下げしていたものの、ISMやCPI等の経済指標でインフレ再燃が確認される度に上昇していることが分かる。

とても利下げできる状況にはなく、FRBは金融危機を避けるためにQT減速・QE再開が必須となっており、ドル・米国債のさらなる価値低下に拍車がかかる可能性が高くなっている。

こうした中で、ドルを支えるもう一つのファクター「ペトロダラー」にも危機が及んでいる。

その気配が感じられる報道が以下の二つだ。

一つ目は、イスラエル高官が「アメリカはネタニヤフ政権転覆を目論んでまっせ」と暴露した件だ。

ネタニヤフ政権が3万人を超えるガザ市民を虐殺したことを「こりゃヤベー」と判断し、世界から総スカン&敗北となる前に引きずり下ろそうとするのは理解はできる。

しかし、ウクライナ戦争ではウクライナ側の敗北が明確化し、ウクライナ国内外で戦争反対・支援反対の声が大きくなっても、ゼレンスキー政権を放置プレイしているのとは対照的だ。

さらに、アメリカはイスラエルの意に反して、ガザ戦争の停戦を求める国連決議案に拒否権を行使しなかった。

ガザへの物質搬入制限や入植活動は対象外となっているものの、国連決議には「法的拘束力」があるため、ガザでの軍事行動は国連制裁の対象となる。

このため、イスラエルのガザ市民虐殺に対する抑止効果が期待される・・が、アメリカは「法的拘束力はないから、自分は制裁に加わらんわ」との姿勢を明確化した。

元々、アメリカはイスラエルに大量の武器・弾薬を提供していたばかりか、情報将校を派遣してイスラエル軍に軍事標的を提供していたのに、急にイスラエル離れの姿勢を明確化し始めたのだ。

もちろん、世論を踏まえてアメリカがイスラエルに厳しい態度を示すのは理解出来るが・・ネタニヤフ政権の転覆まで必要とは考えにくい。

つまり、極悪非道なイスラエルの動きは、アメリカの意に沿わない動きであり、さらにアメリカに大損失という可能性が見える。

アメリカが、イスラエルの政権転覆を企ててまで守るもの・・それは「ペトロダラー」ではないか。

ペトロダラーとは、アメリカが親米アラブ国家を防衛する代わりに、親米アラブ国家は石油をドル建てでしか売らず、さらに稼いだドルで米製兵器を購入する等、ドルをアメリカに還流するシステムだ。

1945年2月にアメリカのルーズベルト大統領とサウジのイブン・サウド国王との間で交わされた密約が起源とされ、永続的な石油需要がドルの過剰発行を支えると共に「皆が欲しがって皆が使う」基軸通貨性を維持する原動力となっている。(バイデンのサウジ訪問はペトロダラー終焉の合図

これまでアメリカはペトロダラーを死守しており、2003年にイラクに大量破壊兵器という因縁をつけて侵攻したのも、2000年11月にイラクのフセイン政権が石油販売をユーロ建てに切り替えたことが原因と言われている。

お金で読み解く地政学(大村 大次郎 著)

ここ最近では、サウジの人民元建て石油取引解禁やUAEのドル取引廃止などが始まっており、以下のゼロヘッジさんの記事でも、2023年の世界の石油販売の20%がドル以外の通貨で行われたことが報じられている。

しかしながら、「アメリカの中東軍事覇権」に守られたペトロダラーは微動だにしていない。

つまり、ペトロダラー崩壊には「アメリカの中東軍事覇権の崩壊」が必須なので、イスラエルがガザ戦争を通じて狙っているのはソレではないか。

そもそも、「誘発されたイスラエルでの戦争は第三次世界大戦に繋がるのか」でも紹介したように、ガザ戦争とは・・・

  • ハマスの奇襲はイスラエルとの間で合意済みの出来レース
  • ガザ戦争は、ガザ市民をエジプト(シナイ半島)に強制移住させてパレスチナ問題を恒久的に解決するため

・・というものだ。

つまり、欧米勢が打ち込んだパレスチナ問題という中東不安定化のクサビを取り除き、「中東安定化」させることが究極目標と言える。(誘発されたイスラエルでの戦争は第三次世界大戦に繋がるのか)(ガザ戦争エスカレートに暗躍するアメリカ

なお、イスラエルが中東安定化を求める動機としては、自国やアシュケナージ・ユダヤ人の滅亡回避が考えられる。

アメリカ政界巨大ロビーであり、トランプの支持基盤の一つでもあるクリスチャン・シオニストの目標が、イスラエルを維持すると共に岩のドームを破壊&第三神殿建設ということは「ガザ戦争エスカレートに暗躍するアメリカ」で紹介したとおりで、これはイスラエル(アシュケナージ・ユダヤ)を犠牲とした「アルバート・パイクの第三次世界大戦への計画」に繋がっていく。

ウクライナ戦争において、米欧勢の軍事力が頼りにならないことは証明されたほか、BRICS陣営の優勢もあるため、アメリカに従い続ければイスラエル滅亡は不可避となる・・・。

従って、イスラエルはイランやサウジ等と共謀してアメリカの中東軍事覇権の駆逐に動き出し、アメリカは意に沿わない(=第三次世界大戦に消極的な)ネタニヤフ政権の駆逐に動き始めた・・というのが今の状況だろう。

ちなみに、「ハマスvsイスラエルの紛争は中東戦争、第三次世界大戦に繋がる?」でも紹介したように、アケメネス朝ペルシャのキュロス2世がユダヤ人を「バビロン捕囚」から解放した歴史(B.C.538)から、一般ユダヤ人に「イラン人憎し」は無くイラン人も同様だ。

つまり、イスラエル・イランの2ヶ国+周囲の中東諸国が手を取り合う可能性は充分にある。

この状況は、まさにコレではないか。

イスラエルとイランが共闘していないとしても、アメリカから見捨てられそうなイスラエルがイランに戦争を仕掛け、イランはイスラエルの奥にいるアメリカの中東軍事覇権を見据えて動く。

そんな、イスラエル・イランがアメリカの軍事覇権を駆逐するのに最も手っ取り早いのは、実はアメリカを直接参戦させることだ。

と言うのも、アメリカ参戦がした場合には・・

  • イランに加え、潤沢な装備を持ち戦闘慣れして士気が高く、カミカゼアタックも辞さないハマス・ヒズボラ(レバノン)・フーシ派(イエメン)+その他全てのイラン傘下の民兵組織が敵となる(余裕の100万人オーバー)
  • サウジ等の親米中東諸国は、BRICS陣営に寝返り済み
  • ウクライナ戦争でアメリカの兵器類の備蓄は大幅減&生産能力不足
  • そもそも、アメリカ兵器類は高価過ぎて数が少ない
  • 戦争すると、アメリカ政府の巨額債務が膨らんでインフレ(=貨幣価値の下落)が進みかねない

・・となるので、アメリカ参戦=ベトナム・アフガンに続く「第三のサイゴン陥落(中東からの完全撤退)」に繋がる可能性が高いからだ。

一方で、クリスチャン・シオニスト勢によるイスラエルを犠牲とした「アルバート・パイクの第三次世界大戦への計画」に結実する可能性も高くなるという諸刃の剣。

従って、イスラエル・イランは、アメリカが参戦出来ないことを念頭に・・

  • 極悪非道イスラエルを止められないUSA!
  • イスラエルがピンチだよ、助けてUSA!
  • 中東のUSA利権潰し!

・・の方向で動くことになる。

これらは、具体的には・・

  1. イスラエルの暴走
  2. イラン傘下の民兵組織が米軍基地への攻撃

・・となり、アメリカのイスラエル支援・米軍駐留といった中東軍事覇権の負担を過度に重くして「手放させる」策になる。

この観点から現在の中東情勢を見ると、まずIDF(イスラエル国防軍)から、ハマスのトンネルネットワークが思ったより大きいため破壊は不可能との見解が示されているのが目につく。

さらに、イスラエルの元国家安全保障顧問のエヤル・フラタ氏は、ガザ北部・中部で殲滅したハマスが復活しつつあることを認めている。

これらの報道からは、ハマス相手にイスラエル軍は苦戦しており、イランやその傘下の民兵組織と戦争する余裕など無いことが分かる。

だが、余裕皆無のハズのイスラエルは・・

  1. 中東の親米政権への圧力
  2. ヒズボラやイランとの戦争準備

・・を進めている。

まず①について。

ガザを破壊し尽くしたイスラエルは、ガザ市民をパレスチナから追い出すべく、ガザ市民の避難先となっているガザ南部のラファへの攻撃を決定した。

BBCが報じているように、住居を追われたガザ北部からの避難民ギッチリのラファへの攻撃は、大虐殺そのものとなるため、さすがに実施はされなかった。

ただ、ガザ市民がラファに詰まってるのは、エジプトのシシ軍事政権が国境(ラファ検問所)を解放しないからだ。

シシ軍事政権は、2013年にムスリム同胞団(=ハマス政治部門)政権をクーデターして成立しているので、ガザ市民と共にハマスの大量流入を恐れて解放しないのだろう。

ただ、パレスチナ問題意識が高いエジプト国民は、シシ政権に対して西側諸国との関係の再評価を要求していることを、イギリスのガーディアンが報じている。

the Guardian

つまり、イスラエルのラファ攻撃とは、エジプト・シシ政権に対する国境解放圧力=ムスリム同胞団への政権委譲圧力 or 離米・脱ドル圧力と言える。

また、イスラエルはラファ侵攻のために民間人を避難させる意向を示している。

これは、エジプト・シシ政権にガザ市民の受入れを迫っていると見るべきで、イスラエルやイランが目論む「パレスチナ問題の完全解決」に向けたものだろう。

そして、エジプトはガザ市民用の難民キャンプを建設しているとか。

ただ、難民キャンプの収用規模は10万人程度で、140万人規模のガザ市民を受け入れるには全く足りない。

イスラエルの無差別攻撃が始まれば、ガザ市民が大挙して検問所突破するだろうから、エジプト的には「何とか段階的にコトを進めてください」になっているのだろう。

イスラエルがラファ検問所からガザに向けた食糧物資搬入を制限しているのも、エジプト・シシ政権に対する「寝返ったら餓えたガザ市民を乱入さす」とのメッセージだろうか。

なお、イスラエルはラファ攻撃発表から1ヵ月以上も攻撃を本格化させないまま、ガザ南部から多くの部隊を撤収することにしたとか。

虐殺に嫌気がさしたイスラエル軍の離反という可能性もあるが、エジプトが離米してガザ市民の受け入れに合意したことがあるのではないか。

実のところ、シシ政権は貿易決済においてドル使用の廃止を打ち出した。

Watcher Guru

A newly welcomed BRICS nation, Egypt has officially ditched …

エジプトと言えば、世界的なチョークポイントとして有名なスエズ運河を有しているため、脱ドル=西側諸国の海運死亡に繋がる。

この衝撃はかなり大きい。

イラン傘下のフーシ派の紅海封鎖によって、スエズ運河の通行量の大幅減していることも効いているだろうから、この点からもイスラエルとイランは共闘している可能性が高い。

アメリカがラファ攻撃を制止したのは、エジプトのシシ政権崩壊を防ぎたかったからだろうが、既にシシ政権はBRICS陣営に引きずり込まれた・・・。

次に②のヒズボラやイランとの戦争準備だ。

以前にも紹介したように、イスラエルはガザ戦争開始当初から対ハマス・対ヒズボラの2正面作戦を警戒しており、実際にハマス相手に手一杯の現状を踏まえると、ヒズボラやイランと同時に戦争する余裕など無い。

しかも、ヒズボラはハマスとは比にならない巨大・強大な組織だ。

イスラエルは2006年にヒズボラと戦争してるが、その時は1ヶ月で和解するハメになった上に、現在のヒズボラは当時よりも強大化している。

そんな状況なのに、イスラエルはレバノンの首都ベイルート(ヒズボラのお膝元)で、正月早々ハマス政治部門のサレハ・アルーリ副政治局長始めとする7名を爆殺した。

激怒したヒズボラは、イスラエル北部のメロン航空管制センターにロケット弾を打ち込んだとか。

メロン航空管制センターは、電子妨害機能やイスラエル含むアラブ全域の航空監視に加えて、イスラエル軍のドローン管制をも担う超重要基地だ。

別の報道で「バックアップシステムがあるからセーフ」と報じられていたことを踏まえると、メロン航空管制センターは致命的損傷を受けた可能性がある。

さらに、Military Watch Magazineの報道によると、ヒズボラはイラン製ドローンによって、イスラエルが誇る「アイアンドーム防空システム」のバッテリーを破壊したんだとか。

Military Watch Magazine

これは、ヒズボラが本気になれば、イスラエルの防空システムは無力化されることを示唆している。

さらに、ウクライナ戦争の帰結を早期に予測していたスコット・リッター氏は、ヒズボラの潤沢な兵器保有を理由にイスラエル敗北を予測している。

ハマスに苦戦する中でヒズボラに手を出すなど自殺行為なので、この予測は妥当だ。

中東メディアのMiddleEastEyeの報道でも・・

  • ヒズボラとイスラエルの間には明確な交戦規定がある。
  • 従って、イスラエルのベイルート攻撃は、ヒズボラがイスラエル主要都市を攻撃することを認めることになる。
  • ヒズボラはイスラエルとの全面戦争には消極的

・・とあり、イスラエルはヒズボラ戦の危険性を認識している。

ただ、ヒズボラは戦争に消極的で、今のところは従来どおりのロケット弾の打ち合い(=人がいない所に打ち込む)でお茶を濁している。(ガザ戦争エスカレートに暗躍するアメリカ

一応、イスラエル vs ヒズボラ開戦が喧伝されているが、現実には起こりそうにない。

ただ、この記事の最後の部分。

A bigger war in Lebanon would very likely also spill over into Syria and Iraq as well, where US occupying forces have already come under frequent drone and rocket attack, though these instances have been less frequently in the last few weeks.

(翻訳)

レバノンでの戦争が拡大すれば、シリアやイラクにも飛び火する可能性が高い。すでに駐留米軍は、ドローンやロケット砲による攻撃を頻繁に受けているが、ここ数週間はその頻度が減っている。

レバノンでの戦争拡大が、イラン傘下の民兵組織によるシリア・イラクのアメリカ軍基地への攻撃再開に繋がる可能性が指摘されている。

イスラエルがヒズボラを刺激している目的は、イスラエルがアメリカに過度な軍事支援を続けさせると共に、米軍基地がいつ攻撃対象となるかビクビクさせることで、アメリカの駐留負担を増大させることにありそう。

さらに、イスラエルはイランとの緊張を高めているが・・これで一番割を食っているのはアメリカだ。

まず、昨年末に、イスラエルはイラン革命防衛隊幹部のラジ・ムサビ准将始めとする軍事顧問をミサイルで爆殺した。

この報復として、イランはイラク北部のアルビルを攻撃した。

これは、反イラン団体を支援していたモサド(=イスラエルのインテリジェンス機関)拠点を攻撃したものだが、実はアルビルとはアメリカが「中東不安定化ツール」として支援するクルド人自治区の本拠地だ。

Wikipediaでアルビル市(アルビール)の項目を確認すると・・

また、クルドの自治政府はイラク中央政府とは一線を画した独自の油田開発を進め、石油資源の輸出から得られる資金を背景に経済成長が続いている。

Wikipedia アルビールより抜粋)

・・アルビルは産油地で、その石油をクルド人が勝手に売っていることが分かる。

実は、アルビルは油田開発に関わる多くの欧米企業が集まる「石油利権」の中心地で、アメリカの意を受けたモサドがクルド人を介して石油を間接統治していた。

さらに、アルビルのアメリカ軍は、シリアに(違法)駐留するアメリカ軍の兵站機能を担っている。

さらに、別の記事では、アルビルのアメリカ軍がテロ集団「IS」の兵站をも支えていることが報じられている。

なお、アメリカメディアのTheCradleが報じているように、ISは「中東不安定化ツール」としてアメリカが育成したテロ集団だ。

また、ガザ戦争に合わせて、イラク西部で捕囚されていた数千人の元IS戦闘員が、アメリカ軍の保護の下で続々と出所している。

アメリカ軍はこれら元IS戦闘員をシリア国境付近のホーラン渓谷に集めて訓練しているほか、その拠点にイラク軍やイラク軍傘下の民兵部隊を寄せ付けないよう攻撃しているとか。

このように、アルビルはアメリカの石油利権・IS支援・シリア支配の拠点として戦略的重要性は極めて高く、イランはイスラエルへの報復と称して中東米軍の本丸を攻撃したことが分かる。

明らかにアメリカ軍に対する「警告」だろう。

さらに、イスラエルは4月1日にシリアのイラン大使館を空爆し、イラン革命防衛隊コッズ部隊のザへディ司令官はじめ6名を殺害した。

国際法上、交戦国同士であっても保護されるべき外交施設への空爆にイランは怒り、第三次世界大戦への緊張が高まった。

アメリカは、イランに報復しないよう警告すると共に、イスラエルへの鉄壁支援を打ち出さざるを得なくなった。

その後、想定どおりにイランはイスラエルをミサイル・ドローンで大規模に報復攻撃した。

ミサイル・ドローン合わせて200~300超がイスラエルに発射されたものの、大半は撃墜されてイスラエルの被害は軍事基地に軽微な損害が出た程度だったとか。

トルコを通じて事前に攻撃を伝えていたこと、ミサイルの多くは人気の無いゴラン高原に向けたものだったこともあって、被害が出ていないのは当然の結果と言える。

ただ、イランは「イスラエルにGoサイン出したのアメリカやろ、許さへんで」としており、報復相手の本命はアメリカだった。

また、このロイター記事には・・

外相はXへの投稿でイスラエルを支持する米政府に「重要なメッセージ」を送ったとし、米国に回答を求めた。

・・とあるのは気になるところ。

回答を求める重要なメッセージの内容として考えられるのは・・

アメリカは、第三次世界大戦を始めるつもりでっか?

・・ではないか。

と言うのも、中東駐留するアメリカ軍兵士は、戦争拡大のための「エサ」として残されている説が指摘されているからだ。

中東に駐留のアメリカ軍は全て合わせても6万人程度であり、潤沢な装備を持つ100万人単位のイラン傘下の民兵組織にはとても太刀打ち出来ないため、緊張が高まる中にあってアルバート・パイクの第三次世界大戦のためのエサ・・という可能性は納得できる。

なお、後述するように、アメリカ始めとする西側諸国は兵器不足となっており、通常兵器での戦争は不可能なので、この場合の第三次世界大戦=核戦争ということになる。

なので、イランはアメリカの覚悟(=核戦争としての第三次世界大戦)を確認した。

そして、アメリカの返答はコレだったのではないか。

何と、アメリカとイランの間で・・

イランがアメリカ施設を標的としないなら、アメリカはイランがイスラエルに報復しても関与しない

・・との合意があったとか。

これは、イランへの報復Goサインであると共に、「アメリカは覚悟出来てないっす」との回答だ。

ただ、例えば朝鮮戦争(1950~1953)の原因は、同時のアチソン米国務長官が「アメリカの防衛線に韓国を含めない」と明言して、北朝鮮に韓国侵攻のGoサインを出したことが発端だった。

過去の歴史を踏まえると、アメリカのGoサインほど信用ならないものは無い。

実際に、イランが報復攻撃に踏み切るまでに2週間近く空いていた。

アメリカのGoサインがフェイクか否か、イランは相当に悩んでいたことが伺える。

だが、イランは・・

  • イスラエルは、これまで女性・子供含めて3万人以上のガザ市民を虐殺した。
  • そんな「極悪非道」イスラエルのために、アメリカ軍兵士の命を危険にさらすことをアメリカ世論は許さない。
  • なので、アメリカの介入は「支援」が精一杯

・・と判断して報復攻撃を敢行した。

ただ、悩みながらもイランがわざわざ攻撃したのは、アメリカの中東軍事覇権の駆逐に繋がる「目的」があったからだ。

まず、アメリカは「ハイ、イスラエルに被害無かったからイスラエルの勝ちね!ハイ、終わりね!」と幕引きを図っている。

さらに、アメリカは「イランに報復する」とイキるイスラエルに「イラン報復にアメリカは参加せーへんで」とクギを刺す。

これらから、アメリカの本音は「イランと直接コトを構えたくねーよ」だと分かる。

もともと、イラン報復の前から複数のアメリカ当局者より「イランがアメリカ軍を攻撃するとは予想してない」「アメリカ軍が戦争に引きずり込まれないよう調整される」との声が出ていた。

また、アメリカのイランと戦争しない意思については、1月にイラン傘下の民兵組織がヨルダンの米軍基地を攻撃してアメリカ軍に死者が出た件からも感じとれる。

この時のアメリカの報復空爆は、本国からB-1長距離爆撃機を動員するなど本気度を見せ付けるもので、イラク・シリアの民兵組織に40名以上の死傷者が出た。

一方で、イランに対しては空爆予告していたため、シリア・イラクにいた革命防衛隊の人たちはイランに帰国して犠牲者は出なかったとか。

このように、アメリカはイランとの戦争を意識して避けているが、それは国民の支持が得られないとか第三次世界大戦にビビっているからではない。

それは、イランにはアメリカを凌ぐドローン・極超音速ミサイルや、潤沢な装備とカミカゼアタックも辞さない100万人単位の構成員を持つ傘下の民兵組織がいる一方で、アメリカ軍の弾薬・ミサイル等は全く足りていないからだ。

ロイター記事には・・

西側の最新鋭の防衛システムはあっという間に武器・弾薬を使い切ってしまうという事実が紅海やウクライナにおける事態を通じてあらわになっているのが現状だ。

とか、

防衛大手レイセオンはこれまでSM―6を米軍に約500発しか納入していない。生産量は向こう5年で増強されるとはいえ、国防総省に割り当てられた現在の予算に基づけば、年内に納入されるのは125発、今後5年でも1055発にとどまる。

・・とあるように、アメリカが誇る防空ミサイルは数が足りず生産能力も有事を想定したものではなかった。

さらに、イランがイスラエル報復で使用した兵器の金額は3800万~6200万ドルだったのに対して、イスラエル・アメリカ側は11億ドルもかかったんだとか。

これらのことから、欧米兵器は「高コスト・量産不可」という致命的な欠点を抱えていることが分かる。

つまり、アメリカ側は補給面で戦略的に不利な状況にあるため、イランと戦争する気が無い・・と言うより不可能と言うべきだろう。

また、今回のイランの報復によって、アメリカ・イスラエルの防空システムの手の打ちがバレてしまい、アメリカの中東覇権の維持負担が増していくことが指摘されている。

スタンフォード大学の軍事戦略マスターさん曰く・・

  • 今回、イランは既知の通常兵器を大規模に運用することで、中東におけるアメリカ・イスラエルの防空システムの規模・設置場所・運用面の問題などを把握した。
  • これにより、イランは次の攻撃に活かすことが可能となった。
  • 手の内がバレたアメリカ側が設計変更などする場合、多大なコストを強いられる。
  • 長期化するほどアメリカ(イスラエル)の抑止力は失われて消耗戦となる。
  • アメリカのイスラエル防衛=中東覇権コストが増大していく

・・とのこと。

イランにとってブラックボックスだった中東地域の防衛システムの配備状況・能力について、イランは格安ミサイル・ドローンで把握出来た。

この情報を解析すれば最適な攻撃方法が分かるため、中東のアメリカ軍は一気に窮地に立たされることになった。

また、スコット・リッター氏は「イランは中東地域のあらゆる標的を攻撃出来ること」「これを誰も止められないこと」が明らかになり、イランはアメリカ・イスラエルを統制下に置けることを示したと指摘する。

スタンフォード大学マスターとスコット・リッター氏の見解からは、イランは虎の子の極超音速ミサイルを出さずして、自国の攻撃能力の高さをアピールすると共にアメリカの防空システムを事実上、無力化したことが分かる。

と言うことで、イスラエルがヒズボラ・イラン相手にイキっている効果についてまとめると・・

  1. アメリカのイスラエル支援負担の増大
  2. 米軍基地への攻撃機会の増加
  3. 中東における防空システムの事実上の無力化

・・と、アメリカの中東軍事覇権の負担や維持コストが飛躍的に増大することは確実となったことが分かる。

せっかくアメリカがイラン戦争を避けていたのに、イスラエルが台無しにしてしまった・・。

イランは「イスラエル戦争にアメリカが介入したら、中東の米軍基地が攻撃されるで」と警告しているが・・

・・イスラエル・イランによってアメリカの中東軍事覇権の無力さが露呈した以上、この警告は単なる脅しではない。

なお、イキり続けるイスラエルは、「全面戦争を起こさずにイランに打撃を与える」ことを目的としているとか。

イスラエル・イランは共闘関係にあるとは言え、内部の暴走を抑えられなくなる可能性も考えられるため、イスラエルの方針は妥当なものだろう。

この点からは、イランの軍事施設への攻撃ではなくイラン革命防衛隊幹部の暗殺が続くと考えられる・・が、それにも目的がありそう。

思い起こせば、2020年にトランプ政権がイラクでコッズ部隊の英雄スレイマニ司令官を殺害し、イランは報復として米軍基地にミサイルを打ち込む事件があった。(【ウクライナ機撃墜】イラン革命防衛隊司令官殺害事件によりイランが得た4つのもの

結果として、この事件はイランの覇権力を強化したが、それに加えて、イラン国内における革命防衛隊の発言力が弱体化したことも見逃せない。

そもそも「イラン革命防衛隊」とは、国民・国家を守ることが存在意義の国軍ではなく、イラン最高指導者直属の「反米・反イスラエル」が存在意義の軍隊なので、何かと暴走やすい性格を持っていた。

そうしたところ、

2020年1月にコッズ部隊スレイマニ司令官

2023年12月にスレイマニ司令官の右腕ムサビ准将

2024年4月には現コッズ部隊ザへディ司令官

と相次いで殺害されたが、これは革命防衛隊内の「反米・反イスラエル」に固執する暴走要因の排除だった可能性が高い。

これら一部の原理主義者は、アメリカが中東軍事覇権を維持するための「中東不安定化ツール」だったが、「イスラエルと共闘してアメリカ軍事覇権の駆逐」を選択したイランにとっては排除すべき対象となった。

これによって、イランは「反米・反イスラエル」信念に縛られなくなり、腰を据えてアメリカ中東軍事覇権の駆逐に乗り出すことが出来るようになった。

こうした中で、他の中東諸国も続々とアメリカに反旗を翻し始めている。

まずは米軍が駐留し続けるイラクさん。

アメリカはヨルダン基地での兵士死亡の報復として、イラクのカタイブ・ヒズボラ幹部を暗殺したが、それに対してイラク政府は「主権侵害や、アメリカ軍出てけ!」と大反発している。

この背景にあるのは、イラン傘下の150,000人規模のシーア派民兵組織カタイブ・ヒズボラが、イラク政府によって正式雇用されていることがある。

さらに、イラク議会からはドル以外の通貨での石油販売を求める声が出ている。

OPEC第2位の石油生産国であるイラクには潤沢な石油収益があるハズだが、そのカネはNY連邦準備銀行に預金(カツアゲ)されており、さらにマネロン対策と称してアメリカの取締まりによって、イラク通貨危機を煽る一因となっていることに耐えられなくなったようだ。

さらに、米軍基地が置かれているUAEやカタール、オマーン、クウェートは、アメリカ軍がイランや傘下の民兵組織に対する空爆能力を制限し始めている。

ポリティコによると、中東親米諸国は「アメリカ支援でイランや自国民を怒らせたくないわ」と語ったとか。

ヨルダンで、イスラエルとの関係断絶を求める国民のデモが相次いで発生していることを踏まえると、中東親米諸国の本音は、国民の怒りのクーデターを恐れている可能性が高い。

ヨルダン王室は「ハマスの扇動や」として取り締まりに必死だが、アメリカ・イギリスの都合で王位に据えられただけの権威無きヨルダン王室が打倒され、エジプトと同じムスリム同胞団政権となる未来しか見えない。

このうように、イラン以外の中東諸国でも、国民の意向(怒り)を踏まえてアメリカの覇権に従い続けるのは困難となっている。

アメリカの中東軍事覇権の終わりが見え始めたことと合わせると、ペトロダラー崩壊まで現実化し始めていることが分かる。

ちなみに、イスラエル国内ではネタニヤフ退陣を求める大規模デモが頻発しているほか、イスラエルの大手メディアのハーレツ紙は「イスラエル敗北」を主張する意見記事を掲載した。

イスラエル敗北の理由として・・

  • 戦争の目的は達成されず
  • 軍事圧力によって人質は返還されず
  • 治安は回復せず
  • イスラエルの国際的排斥は終わらない。

・・と言ったことが挙げられているが、これらの達成はどうしたってムリだ。

この報道からは、アメリカの中東軍事覇権の駆逐と合わせて、ネタニヤフ始め右派政治家がイスラエルから追放され、イスラエルは中東諸国の一員となっていく可能性が見え始めている。

こうした中で、ドルの価値の「対局」に位置する金価格は急激に上昇を始めている。

20240416金価格日足チャート

4月12日には瞬間的に2400ドルを超えたほか、2300ドル後半の高値圏を維持しており、いつでもロケット発射する準備が整っているように見受けられる。

また、同じくビットコインについては、半減期を前に「振り落とし」の動きが加速している。以下はビットコインドルの日足チャートだ。

20240416ビットコインドル日足チャート

直近でも72700ドル付近から61300ドル付近まで 15%を超える荒い値動きとなっているが、ビットコインにとっては通常稼働と言ったところだろうか。

タイミング的には半減期を前にした振り落とし(ロングポジションの一掃)と思われる。

今のところは62000ドルをサポートとしているが、割れた方が貯まったロングを一掃できるだろう。

いずれにせよ、大きく上がる前の下げ・・というル・シャトリエ状態と言えよう。

アメリカの中東軍事覇権・ペトロダラー崩壊=ドル崩壊に向けた動きが起こる中で、金・ビットコインは大きく上昇する様子を見せている点からは、世界の支配者層のエライ人たちの御意(=世界史の大きな流れ)が感じられる。

こうした中で、ドルに対するBRICSの攻撃も激化しているが、これについては次のブログ記事で紹介したい。


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