イランがアメリカ軍基地を標的としてミサイル報復した際に、誤ってウクライナ旅客機を撃墜した事故について、イランが正式に非を認め謝罪した。
以下は朝日の記事だ。
イランでウクライナ国際航空の旅客機がイランのミサイルに撃墜され、乗員乗客176人全員が死亡した問題で、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、事故の責任を認めたイランのロハニ大統領から公式に謝罪を受けたと明らかにした。イランの出方に各国の注目が集まる中、対立関係のないウクライナを通じて異例の謝罪を行うことで、事態の収拾を急いだとみられる。
ゼレンスキー氏は同日午後、ロハニ師と電話会談し、終了後、大統領府のサイトで発表した。ゼレンスキー氏によると、ロハニ氏はウクライナの犠牲者の家族や国民に哀悼の意を示し、「176人が死亡した悲劇に対するイランとしての謝罪」を述べた。ロハニ師は、完全に自国の非を認めているという。
ゼレンスキー氏は、撃墜の事実を認めたことは、「今後の迅速な調査への道を開く」と評価する考えを表明。「国際法に基づく、今後のイランとの建設的な協力に期待する」とし、早期の遺体の身元確認や返還などを求めた。
以下略
ウクライナに対して謝罪したロハニ大統領はイラン国内では「穏健派」であり、政治・経済の自由化を希求して欧米首脳とも積極的にコンタクトをとっている。
つまり、アメリカやイスラエルとの関係を改善し、経済成長やより一層の自由を求めていこうという現実的な考え方の人だ。
一方、宗教指導者のハメネイ師や殺害されたソレイマニ司令官、革命防衛隊は「強硬派」で、基本理念は反米・反イスラエルであり、さらに親米アラブ諸国とも対立する。
これまでは、軍事的・経済的に強大な権限を持つ革命防衛隊はじめ「強硬派」の方針がイランの方針だった。「穏健派」は革命防衛隊の力を少しでも削ごうとしてきたが、成功していない。
そうした中で、革命防衛隊によるウクライナ旅客機を誤って撃墜する事件が発生した。
アメリカとの対立で一歩も引かず名をあげた革命防衛隊だったが、にわかに逆風が吹き始めている。
以下は共同通信の記事だ。
【テヘラン共同】イランが11日、ウクライナ機撃墜を認めたことを受け、首都テヘランで抗議デモが発生した。ファルス通信によると、約1千人が参加。墜落は技術的トラブルによる事故との主張を一転させたイラン当局に対し、国内では怒りの声が上がっている。
参加者らによると、テヘランの大学前に集まった人々は「うそつきには死を」「責任者の辞任では済まされない。裁きを」などと叫んだ。ソーシャルメディアでは、警官隊が催涙ガスで参加者を追い払う様子を撮影したとされる動画が出回った。
イランでは昨年11月中旬、大規模な反政府デモが広がり、治安部隊との衝突などで多数が死傷した。
時事通信も伝えている。
イランがウクライナ旅客機撃墜を11日認めたことを受け、イラン各地で指導部に対する抗議デモが広がっている。
デモは首都テヘランをはじめ、南部シラーズ、中部イスファハン、西部ハマダン、北西部ウルミエなどで行われた。ファルス通信によれば、テヘランでは約1000人が参加。デモ隊は、米軍が3日に殺害したイランの英雄ソレイマニ司令官の写真を引き裂くなどして怒りを表明した。
改革派指導者のカルビ元国会議長は、最高指導者ハメネイ師が撃墜の責任を取って辞任するよう要請。ツイッター上でも、イラン国内で緊張が高まっていた時に当局が旅客機の離陸を許可したことを疑問視する声が上がっている。
ウクライナ旅客機の撃墜については、映像証拠がしっかり残っていたことからも認めざるをえなかっただろう。ロシアから圧力があったのかもしれないが。
いずれにせよ、撃墜を認めたことでイランの国内では反米一色から革命防衛隊やハメネイ師ら聖職者に批判の矛先が変わってきた。
加えて、殺害された革命防衛隊ソレイマニ司令官は強硬派のなかでもナンバー2と目され、ハメネイ師の手足として活躍する実力者でもあった。
ただ、いきなりデモが発生し、それに関連してイギリス大使拘束のニュースも出ているので、デモは英米スパイ網が裏で糸を引いている可能性が高い。
以下のニュースからもイラン強硬派層の危機感を感じられる。
時事通信だ。
英外務省は、マケアー駐イラン大使が11日、テヘランでイラン当局に身柄を一時拘束されたと発表した。ウクライナ旅客機撃墜に抗議する反政府デモを扇動したと疑われたもようだが、ラーブ英外相は「理由も説明もない拘束は明白な国際法違反だ」と非難した。
イランのタスニム通信によると、テヘランの大学前でこの日、政権批判のデモがあり、大使がその場に居合わせたことから「急進的な行為の引き起こしに関与した」疑いが持たれた。
一方、英紙テレグラフ(電子版)によれば、大使は撃墜された旅客機の乗客ら犠牲者を追悼する集いに参加。集会がデモに発展したという。大使の拘束は約3時間で解かれた。
ラーブ氏は声明で、イランが国の進路を左右する「岐路に立っている」と強調。国際社会の中で政治的にも経済的にも孤立の道を歩むより、緊張緩和へ踏み出し、外交的な解決の道を模索するよう呼び掛けた。
ジョンソン英首相はこれに先立ち、イランがウクライナ機の誤射を認めたことを「重要な第一歩だ」と評価していた。
このまま事態が推移すれば、ハメネイ師や革命防衛隊の力が弱体化し、ロハニ大統領はじめとする穏健派が力を持つことになっていく。
イランが中東覇権を獲得しつつあるなか穏健派が国内で政権をとることで、イスラエルやサウジアラビアとの和解も進むだろうし、そうなれば現実的な形で中東は平和なエリアとなっていく。
ここで気になるのは撃墜事故の糸を引いていたのは誰かということだ。中東の安定を希求する勢力か、中東で戦争を期待している勢力か。
ウクライナ旅客機を撃墜したミサイルは短距離型で、他の防空システムとは切り離して単独運用されていた可能性が高いとのことだ。手動で発射可能な状態にあったもので、旅客機へのミサイル発射は意図的に誘発されたと考えるのは行き過ぎだろうか。
いずれにせよ、中東エリアでのイラン覇権の高まりとイラン国内での穏健派の台頭が予想され、アメリカの撤退と合わせてイスラエルやサウジアラビアとの関係修復も進み、戦後初の「安定した中東」が出現するだろう。
ウクライナ旅客機に乗り合わせた乗員乗客の方は全員死亡した。中東における小競り合いでも多くの市民が犠牲になっている。
歴史のダイナミズムの中で、多くの人が犠牲になっている事実は忘れてはいけないと思う。