本日、イランのナタンツにある核施設で「テロ攻撃」があったことが報じられた。
イラン中部ナタンツの核施設で発生した電気系統の問題で、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は情報当局者の話として、大規模な爆発により地下にある遠心分離機へ電力を供給する内部システムが完全に破壊されたと伝えました。https://t.co/XyrCHCBOFt
— 時事ドットコム(時事通信ニュース) (@jijicom) April 12, 2021
イラン核施設、システム破壊 イスラエル関与か―米紙 https://t.co/XyrCHCTpx1
— 時事ドットコム(時事通信ニュース) (@jijicom) April 12, 2021
当初は、電気系統のトラブルと報じられていたものの、どうやら大規模な爆発によって配電網システムが破壊されたようだで、イランのウラン濃縮施設ではかなりの被害が出ている模様だ。
なお、このウラン濃縮施設は、数日前に設置された新たな遠心分離機が稼働したばかり。
イラン、遠心分離機を新稼働 米との間接協議で圧力 https://t.co/vOOsJjpVZR
イランは10日、中部ナタンズの核施設で、ウラン濃縮に用いる改良型の遠心分離機「IR6型」を新たに稼働させた。核合意からの新たな逸脱。
— 産経ニュース (@Sankei_news) April 10, 2021
当初は、「配電網ダウン」との報道だったことから、イランの超重要施設が稼働翌日に重大トラブルを起こすとは・・イスラエルのサイバー攻撃かと思ったが、「爆発物がさく裂した」との話も出ていることから、思ったより直接的な攻撃だったようだ。
「中国で連続する爆発事故 米中戦争は静かに始まっていた?」で紹介したが、イランでは2009年にも遠心分離機が同時に1000台以上も壊れる「事故」があった。これは事故ではなく、アメリカ・イスラエルが仕掛けたサイバー攻撃(ゼロディ攻撃)だったことが、元NSAのエドワード・スノーデンによって暴露されている。
USBメモリを使用してイランの遠心分離機の制御システム(独立ネットワーク)に侵入させたマルウェアが制御コードを書き換え、人が気が付かない程度に遠心分離機周期をズラして次々に破壊したのだった。イランは敗北を悟り、IAEA(国際原子力機関)の核査察を受け入れることとなった・・・。
(参考) 日本人だけが知らない戦争論(苫米地英人 著)
今回の攻撃が、爆発物を直接仕掛けたのか、サイバー攻撃(スタックスネット)なのかは分からないが、独立ネットワークに対するサイバー攻撃もアメリカ・イスラエル陣営は実績がある。
また、「イランの核施設で爆発!?原田武夫氏と謎アカ(れううい)さんの中東戦争予測が迫る!?」で紹介したように、昨年6~7月にイランの核関連施設や発電所などの重要施設で爆発や火災が相次だが、これがイスラエルの仕業だったとすると、今回のような核開発に重要な施設を爆破するための予行演習的なものだったかもしれない。
さらに、昨年11月には、イランの核開発計画の中心人物が(多分)イスラエルに暗殺された。
イランの核開発計画で中心的な役割を担ってきたとされる核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かの襲撃を受け、暗殺されましたhttps://t.co/u4WpvhsVK1
— 毎日新聞 (@mainichi) November 27, 2020
このように、イスラエルはこっそりサイバー攻撃どころか、明らかな実力行使でイランの核開発を妨害し続けてきた。
こうした状況に、さすがのイランもブチ切れたようだ。
イラン外相、核施設の異常事態でイスラエルへの報復を明言=国営放送 https://t.co/XM9ZsuFRNj
— ロイター (@ReutersJapan) April 12, 2021
ついに、イランがイスラエルへの報復を明言した。イランが自重しなければ、中東戦争が近づいたような・・・。
だが、イスラエルの目的は何だろうか。警戒厳重なイランの核施設を何度も破壊するイスラエルの諜報組織(モサド)の実力が凄いことは理解できるが、いたずらに中東戦争を招くことはイスラエルにとってもマイナスだ。
サウジもアメリカに冷遇されて、アメリカ・イスラエルチームから脱落しそうだし・・。
とりあえず、イランの核開発の状況を見てみよう。
バイデン政権では、トランプが放棄したイラン核合意の枠組みを再構築すべく、イランとの交渉再開を模索している。そんなアメリカの足元を見るかのように、イランは4月に20%のウラン濃縮を続けることを宣言した。
米国政府は交渉を再開するための新しい提案を行う予定だと米メディアが報じたことを受け、米国がすべての制裁を解除するまでは、イランは20%のウラン濃縮活動を止めないだろう、とイランの国営テレビが匿名の当局者の言葉を引用して火曜日に報じた。https://t.co/CumrsBe14j pic.twitter.com/xevPBj9JWu
— Arab News Japan (@ArabNewsjp) April 1, 2021
ちなみに天然ウランには、核分裂を起こさないウラン238が99.3%、核分裂を起こすウラン235が0.7%含まれており、「ウラン濃縮」とは高性能な遠心分離機を使用して、天然ウラン中のウラン235の割合を高める技術のことで、平和利用・兵器開発に関わらず「ウラン濃縮」技術こそが核開発の要と言える。
今回イランが濃縮した20%までのものは「低濃縮ウラン」、それ以上は「高濃縮ウラン」と呼ばれる。原発燃料で3~5%程度、医療用途で20%程度、兵器級はなんと90%だ。
ともかく、イランにはこの20%濃縮ウランが57キロもあるとか。
イラン原子力庁長官は、濃縮度20%の高濃縮ウランの製造量が既に57キロに達したと語りました。核合意履行をめぐる協議が進む中、ウラン濃縮活動の加速を印象付けて当事国に揺さぶりをかけるとともに、間接交渉を行う米国に制裁解除を促す思惑もあるとみられます。https://t.co/NRvd8vkfXO
— 時事通信国際ニュース (@jiji_gaishin) April 7, 2021
このウランでもって、アメリカに対して制裁解除を促す思惑が・・と書かれているが、ことはそんな単純なものでは無さそう。
イランは、20%濃縮を止める見返りとして10億ドルを蹴っている。
イランは、ウィーンで開催されたJCPOA協議において、20%のウラン濃縮を停止する見返りとして、10億ドルの資産凍結を解除するという提案を拒否しました。 https://t.co/NnSKADDHWq
— orion000 (@orion_tachiki) April 6, 2021
イランの意図としては「経済制裁の解除」が重要であり、一時的な10億ドルなんてはした金には興味ないということか。核開発(濃縮)能力が無くなれば、経済制裁の解除を含んだ核合意の枠組みが復活することは無いと踏んでいるのだろう。
逆に言えば、イスラエルにとって最も嫌なのは、核合意の枠組みの中でイランの経済制裁が解除されることと言える。
イランの核合意は、オバマ政権が成立させたものだが、その背景としてアフガン・イラクなど中東で戦争を続けたい軍産勢力に対し、イランとも戦争することは勘弁してくれ・・そんなオバマの切実な思いがあったのだろう。
枠組みのスキームはかなり強引なもので、イランと安保理・ドイツの間で「イランの核開発は平和利用に限定したもの」とし、15年間は兵器級の高濃縮ウラン等を生産しないこと、ウラン濃縮に使用する遠心分離機を削減することが履行されれば経済制裁が解除されるという適当なもので、すぐにでも制裁解除されそうな雰囲気もあった。
しかし、イランを仇敵とするイスラエルはこの核合意の枠組みには反対で、「イラン核兵器開発説」を持ち出して経済制裁解除をさせなかった。
トランプはこの役立たずの枠組みから離脱したばかりか、「【ウクライナ機撃墜】イラン革命防衛隊司令官殺害事件によりイランが得た4つのもの」でも紹介したが、英雄ソレイマニ殺害などを通じて、中東でのイランの立場を強化した。
こうして見ると、イランはおそらく核兵器の開発はしていない。
20%濃縮ウランは、医療用途として使われるもので兵器級ではない。そもそも、兵器級の90%まで高濃縮するには軍事機密に属するような高度な技術が必要で、イランにその技術は無いと思われる。ただし、技術さえあれば、比較的短時間で90%級の濃縮は可能だが。
いずれにせよ、イランは自国で使用する原発用や医療用の低濃縮ウランは必要なので、一定の濃縮は行う必要がある。しかし、現状では最大でも20%濃縮に留まっており、平和利用の域を出ない。その点では、イランが主張するように「経済制裁の解除」が既に履行されていてもおかしくはない。
バイデン大統領は、2015年の核合意復活を目論んでいる感じだが、おそらく上手くいかない。
2015年の核合意は、核の「平和利用」しかしていないイランに「核兵器開発」を認めさせるものだった。だが、今のイランの状況は、中露との結びつき・アメリカの国力衰退を含め当時とは大きく異なる。
イランの主張は「バイデンさん、20%濃縮は平和利用や。ワイに核合意に復帰して欲しいなら経済制裁解除が先やで」だろう。そして、サウジアラビアへの冷遇を踏まえると本当に解除しそうなのがバイデン政権だ。
だが、イランの経済制裁が解除されれば、中東の大国イランが復活する。イスラエルにとっては悪夢。
イスラエルのイラン攻撃の真意は、アメリカに対して「ちゃんとやれや」のメッセージであるとともに、イランに対しても「ウチのモサドなめんなや」なのかも。
しかし、時間が経つほどにイスラエルにとって不利になりそうな状況だ。もしかして、中東戦争が近いのかもしれない。この件についてはいずれ書く。
最後まで読んでくれてありがとう!