CLOをご存知だろうか。
Collateralized Loan Obligationの頭文字を取ったもので「ローン担保証券」と言い、銀行などが企業に貸しているカネ(ローン)を証券化したものだ。これだけなら普通の銀行営業の一環で特に問題はない。
ところが、ここ数年ローンの中に「コベナンツ・ライト」とよばれるローンが急増している。
コベナンツとは、企業にカネを貸す際に、資本維持率など財務に関する条件(=コベナンツ)のことで、「コベナンツ・ライト」なローンとは、審査の甘い融資のことだ。似たようなものに、信用の低い企業に貸し出しをするレバレッジドローンと言うものもあるぞ。
コベナンツ・ライトもレバレッジドローンも、借金が多く経営状況も悪いなど、通常ならカネを借りられないようなダメ企業でもカネを調達出来るが、その分金利が高く設定されているぞ。
ただ、カネを貸す銀行にとってもリスクは高い。通常のローンでは、企業の経営状況が悪化したら銀行は倒産する前に融資を引き揚げるのだが、コベナンツが無い場合は破綻するまで企業の財務状況が分からないのだ。
銀行にとっては極めてリスキーなローンだが、10年ほど前から急激に増加し欧米の銀行ローンの約8割を占めるに至っている。
なぜこんなに急増しているかというと、世界中が低金利政策をとる中で優良な投資先がほとんど無くなっており、銀行間の貸出競争が激化しているためだ。
そして、この「コベナンツ・ライトローン」と他の優良なローンをごちゃまぜに束ねて発行したCLO(ローン担保証券)は、高い格付けと高いリターンを誇っているため、カネ余りの状況にある世界中の投資家や金融機関が爆買いしている状況だ。
危ないローンでも「100集めれば1つ2つ倒産しても問題なし」という理論でリスクが低いとされ、CLOが買われまくっているが、2017年頃から欧米を中心に次の金融危機の原因になるのではないかと言われており、前FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長のイエレン氏も警鐘を鳴らしている。
ところで、このコベナンツ・ライトとCLOの構図に見覚えはないだろうか。
そう、2008年のリーマンショックの引き金を引いた「サブプライムローン」と全く同じ。信用度の低い人間(企業)を相手にカネを貸し、証券化して世界にばらまいているのだ。歴史は繰り返す、これは名言だな。
ここで、サブプライムについて少し復習してみよう。
2008年のリーマンショックの原因は、サブプライムローン債権を証券化したサブプライム証券だ。
サブプライムローンとは、無職や低収入など信用が低い人達(サブプライム層)に銀行が組ませた住宅ローンのことで、当然金利は高い(当初の数年間は低金利だが、その後は高くなる)。
当時のアメリカは住宅バブルで、金利が上がる頃に住宅を売れば儲かる状況だった。
こうして、銀行は融資しまくるとともに、これらのローンを証券化した。
銀行は10年で150,000ドル受けとる権利(債券)を証券会社に120,000ドルで売って換金する。証券会社はその債券を分割(=証券化)して、市場で売る。
こうすることで、銀行は10年待たずに運転資金を確保することが出来るほか、貸し倒れのリスクを負わずにすむメリットがある。最終的なリスクは証券を買った人が負う。
証券会社では、様々な銀行から持ち込まれたサブプライムローン債権を、他の優良債権と混ぜ混ぜして証券化し、格付け会社も(適当に)高格付けを乱発した。
この結果、サブプライム証券は高利回り・高格付けの「超優良証券」として世界中の投資家(ヘッジファンド、銀行、年金、証券会社など)が爆買いした。
そのような中で、FRBが金利を上げると同時に高騰しすぎた住宅価格が下落に転じた。ローン返済のため住宅は投げ売りされ大暴落。住宅売却によるローン返済モデルは崩壊した。
なお、アメリカでは日本と異なりローン残高や住宅価格に関わらず、銀行に住宅を渡せばローン完済扱いとなる、なんとも消費者よりの制度となっている。
これにより、サブプライムローンは回収不能で元本割れ。サブプライム証券も紙屑と化した。
さらに、どの証券にサブプライム債権が含まれているか、混ぜ混ぜし過ぎて誰にも分からかったため、無関係の証券まで大暴落した。
投資家たち(ヘッジファンド等)は運転資金を確保するため、手持ちの株やドルを売ったため株やドルまで大暴落した。証券→株→通貨と市場は繋がっているのだ。
そしてリーマンブラザーズはサブプライム証券を全力で買っていたため、業績が急激に悪化し破綻した。
ということでした。うーん、サブプライム証券と同じニオイしかしないな。
このCLOについて、以下のブルームバーグの記事を見て欲しい。
金融庁局長: 国内金融機関のCLO投資に強い関心、集中リスク警戒
金融庁は格付けの低い企業への融資を束ねて証券化したローン担保証券(CLO)などの海外クレジット商品への邦銀による投資について警戒を強めている。
日本銀行は10月に公表した金融システムリポートで、リーマン危機級のストレスが生じても信用リスク面での頑健性が高いと結論付ける一方、CLO投資のリスク分散効果が見た目ほど高くない可能性にも言及した。金融庁でも個別行でリスク分散されていても、市場全体で見た場合に偏った投資となっている可能性などを注視している。
森田宗男総合政策局長はブルームバーグとのインタビューで「日銀の分析は非常に参考にしている」とした上で、「個別行では分散が効いていると考えても、市場全体では同一セクターや債務者に集中していれば、何かイベントが起きた時に市場に大きな影響が出る」と指摘。こうした事態を防ぐ必要があるとの認識を示した。日銀によると、グローバルなCLO市場での邦銀の保有比率は約15%に達した。
中略
CLOなどの証券化商品の急速な市場拡大については、世界の金融規制当局が警戒を強めている。金融安定理事会(FSB)は19日のリポートで、CLO投資家の14%、その裏付け資産となるレバレッジド・ローン投資家の21%が特定できないことが分かったとし、潜在的なシステミックリスクの可能性を予測するのは難しいと警告した。
以下略
世界のCLOの約15%は日本の銀行が保有しているものの、CLOはヤバそうではあるがどの程度のリスクなのか、よく分からないということのようですな。
農林中金:CLO残高が6四半期ぶりに減少、8兆円割り込む-関係者
農林中央金庫の2019年9月末のローン担保証券(CLO)保有残高は、前四半期比で微減となり、8兆円を割り込んだもようだ。投資拡大を続けてきたCLO保有残高の減少は6四半期ぶりとなる。
非公開情報として匿名を条件に語った複数の関係者によると、減少は保有証券の償還によるもので、売却によるものではないという。具体的な残高についての言及は避けた。CLOが裏付け資産とする米レバレッジドローン指標のS&P・LISTAトータル・リターン指数が低下するなど市場環境は悪化しており、慎重な投資姿勢を取ったことで償還分が投資分を上回ったと見られる。
中略
ブルームバーグの試算によると、農林中金は今年夏頃まで6000億ドル(約66兆円)規模のCLO市場で圧倒的なプレゼンスを持ち、欧米では昨年10-12月期(第4四半期)に最高格付けのCLOの最大半分を購入していた。それが記録的な市場の成長を支えた半面、金融庁などの監視に拍車を掛け、同市場における農林中金の動向に関心が集まっていた。
利回りを渇望する投資家の人気を受けてCLO市場の活況は続いている。19年の発行額はすでに約1000億ドルを超え、過去最高だった昨年の1130億ドルに並ぶ水準となっている。
ということで、日本の農林中金(JAバンクと思ってくれ)が世界一CLOを購入しているようだ。農林中金が購入しているCLOはもちろん最高格付け(AAA)なのだが、サブプライム証券も最高格付けAAAだったことを考えると、格付けには意味がないと言えよう。
農林中金が8兆円規模、ゆうちょ銀行が1兆円規模、三菱UFJが2兆円規模で保有している以外にも、都銀・地銀問わずこのCLOをかなり持っている。
リーマンショックと同じ構図で農林中金ショックが起こりそうだ。
ところで、なぜ日本の金融機関がこんなにCLOを保有しているのか。
おじさんの見立てだが、アメリカが日本に買わせていると見ている。日本の銀行はリーマンショックのダメージが比較的軽く、世界の市場にカネを供給する力が相対的に高いことがその理由だ。
だが、結局のところ国が安易にアメリカの言うことを聞き入れ、日本人が稼いだ富が海外に流れていっているというだけだ。これまでも言ってきたように、ここでもアメリカに収穫されている。
ともかく、CLOは爆弾と同じだ。日本へのセットはほぼ完了した頃だろうか。
リーマンショックは、FRBが金利を上げ、同時に住宅価格が下がったことが起爆剤だった。かつての日本のバブルは、日銀が金利を上げ、同時に総量規制を実施したことが起爆剤だった。
次の起爆剤は何だろうか。最近騒がしいアメリカのレポ市場だろうか。
【原田武夫】アメリカのレポ市場が12月25日前後の暴落の引き金か!?
もしかして、原田武夫氏はクリスマス前後にCLO爆弾が起爆するような何かが起こることを予見していたのだろうか。
次の金融危機では、どの国もリーマンショック時のような金融政策を打つだけの余力は無い。そうなれば、いよいよデフォルトが見えてくる。デフォルトはアメリカからの独立を果たすチャンスだ!
最後まで読んでくれてありがとう!