元キャリア外交官の原田武夫氏が、自身のブログで語ってたことのうち「中東に関すること」を考えてみたい。※リンク先のブログは英語です。
原田武夫氏が語っていた中東に関することは以下のとおり。
- トランプの出した中東和平案にもとづき中東地域において戦争がはじまり、原油価格は急騰する。
- この「オイルショック」により、日本経済は「スタグフレーション」となり、日本銀行のQE(量的緩和)は停止
前回の記事では原田武夫氏の言う「トランプの中東和平案と中東地域における戦争」について考えてみた。
【原田武夫】トランプ和平案のせいで中東戦争?イスラエルは危機的状況に!?
今回は、中東戦争によって発生するオイルショックで日本がどのような影響を受けるのかを考えてみたい。
前回の記事では、中東の戦争の主役はイランとイスラエルであろうと考えた。正確に言うと、イラン陣営(イラン・イラク・シリア・レバノン)VSイスラエル陣営(イスラエル・アメリカ軍産)といったところか。
親米のサウジアラビアは、イスラエルの味方をしないと考えられる。
昨年イエメン内戦において、アメリカ製の防空システムで武装したはずのサウジは、イエメン・フーシ派からイラン製ドローンで油田を攻撃された。この事案は「アメリカはサウジを守りませんよ」というアメリカからのメッセージではないか。
こうしたこともあって、アラブ陣営の親米リーダー・サウジアラビアは参戦しないと予測する。また、ヨルダンやアラブ首長国連邦といった国々も、ヘタにイスラエル支援をすると国民が離反し王家転覆の恐れもあるので、イスラエルの味方はできない。
よってイスラエルは、事実上単独でイラン陣営の面々を相手にすることとなる。
最も、アメリカ軍産はイスラエルの味方となるだろうが、トランプはむしろイランに肩入れする可能性が高い。イスラエルから見れば、アメリカは実に頼りにならない味方だ。
おそらくは、早々にアメリカを見限ってイランと和解すべく、ロシア(イランのバック)かサウジアラビアあたりに仲介してもらって戦争終結を図ることだろう。
この時点で、すでにイスラエルはアメリカから離れているわけだが、トランプがこの和解を邪魔する可能性もある。「アメリカもイラン攻撃するから、まずはイスラエルからやれや」とでも言って、イスラエル右派を煽るんじゃないか。
いずれにせよ、石油価格の上昇を招く程度には戦争が継続すると見るべきだろう。
確かに、1973年に起こった「第一次石油危機(オイルショック)」は、中東戦争が原因だった。
アラブ石油輸出国機構(OAPEC)諸国は、イスラエルの占領地撤退を求めて石油価格を大幅に上げたことや、イスラエル支持の国々に石油禁輸措置をとったものだった。
日本は「石油禁輸対象国」には入っていなかったが、消費の低迷や公共事業の凍結・縮小を招いた。一方で、1974年の消費者物価指数は23%上昇する「狂乱物価」となった。
この大幅なインフレ抑制のために公定歩合(今でいう政策金利)が引き上げられたが、1973年4月に4.25%だったものが12月には9.00%になるという超ハイペースだ。
こうした石油危機だが、10年ほど前にも実は石油価格が高騰したことがあった。
2008年リーマンショック前後までに原油価格が高騰した。1970年代の石油危機と比較すると、ピーク時の価格は名目で3倍超、実質でも上回っているなど、まさに石油危機だった。
おかげで、飛行機の燃油サーチャージが導入されたぞ。今は石油が安いくなったのに、サーチャージシステムは残っているのが何とも言えないな。
この時に原油が高騰したのは、相対的に規模の小さい原油先物市場に、世界でダブついたマネーが集中したことが原因と考えられる。
この石油高騰事例は非常に参考になるところだ。
1月にイランでソレイマニ司令官殺害事件があった際は、バレル60ドルから65ドルに急騰したが、これも実需と言うよりは投機マネーが流れ込んだものだ。
となると、次の中東戦争ではホルムズ海峡封鎖など地政学的リスクから原油輸出が一定制限される実需面と、原油市場に流れ込む投機マネーのダブルパンチで原油価格は高騰する可能性がある。
アメリカのシェールは、国内優先で国外には出さないだろう。
日本の第一次オイルショックを参考にすると、ガソリン価格や石油製品を中心に、著しい物価上昇を招くことになる。
それに加えて、日本では元々高くなかった消費が、消費増税によって伸び悩むなど景気後退の入り口にいる状態だ。
原田武夫氏は、オイルショックにより、日本経済は「スタグフレーション」に陥ることを警告しているが、スタグフレーションとは、経済不況と物価上昇が同時に起こることを言う。
現状の消費増税と、原油高騰によるコストプッシュ型のインフレが日本を襲うのと同時に、消費はさらに落ち込こむことで「スタグフレーション突入」ということだろうか。
日銀のQE(量的緩和)は「2%インフレ」を目指していることから、石油危機により2%を超えるインフレが発生すれば、自動的に終了となろう。
そもそも、過去の石油危機は金融引締が混乱を収束したとする見方が強く、この教訓を踏まえれば日銀は速やかな金融引締(供給資金減、金利上げ)に転じることとなるハズだ。
だが、金融引締には問題が山積みだ。
そもそも日銀QEは、市場への資金供給により2%インフレを狙うが、通常はインフレ=金利上昇となる。
だが、金利が上がると企業がカネを借りたがらず、設備投資などに銀行融資が回らない。そこで日銀は資金供給と同時に、大量に国債を購入して低金利を実現しているのだ。
金利が上がれば、日本政府発行の1000兆円もの国債の利払いが苦しくなる。国家財政への影響が大きいが、それだけではない。
金利上昇は国債価格の下落を招き、さらなる金利上昇に陥る可能性もある。また、石油危機は株価の下落を招くだろう。
だが、その時には日銀はインフレにより金融引締に転じており、QE砲を打てず株式市場への資金供給はできない。
株価は、近年まれにみる大暴落となろう。
そして、日銀は国債以外に相当量の株式をETFの形で保有している。国債価格の下落に加えて株価まで下落すると、日銀のバランスシートを大きく棄損することとなる。なお、市中の銀行も自己資本比率の関係からリスク資産の投げ売りに走る可能性もある。
こうして日銀の財務が悪化すると、通貨「円」に対する信認に疑念を持たれることになり、非常に厄介だ。
怒涛の円売りによる円安が誘発されれば、原油国内価格のさらなる暴騰を招き石油危機の「狂乱物価」さながらのインフレが襲う。もっとも、景気は悪いのでスタグフレーションだが。
こうして、金利高騰やインフレは日銀のコントロール出来ない領域へと進む。
歴史からは「中央銀行の債務超過によるハイパーインフレ」という事例は見受けられない。
だが、未曾有の金融緩和によるQEバブルにある状況を踏まえると、中東での戦争を機に原田武夫氏が警鐘をならす「日本デフォルト」への道が開かれる可能性はある。
最後まで読んでくれてありがとう!