今、原油がアツい。そして安い。
世界的な原油の需要減や価格下落を受けて、サウジアラビアとロシアの間で産油量の調整をしようとしたところ、ロシアがサウジの減産提案を蹴ったのが始まりだ。
その結果、サウジが開き直った。原油採掘コストが世界で最も安い(1バレル10ドル程度)というアドバンテージを活かして、他の産油国が倒れるまでバンバン掘ることにした。
こうして、サウジが産油量の増産&薄利多売に舵を切った結果、原油は1バレル45ドル前後から20ドル台前半まで急落した。
この状況で深刻なダメージを受けるのがアメリカだ。
アメリカ産シェールオイルの損益分岐点は1バレル50ドル前後だ。20ドル台だと完全な赤字だ。このため、シェールオイル発掘会社が倒産した。以下は時事通信からだ。
【ニューヨーク時事】シェールオイルを生産する米ホワイティング・ペトロリアムは1日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請したと発表した。米メディアによると、最近の原油価格の急落で主要シェール企業が経営破綻したのは初めて。
原油相場は3月、主要産油国のサウジアラビアとロシアの増産方針への転換や新型コロナウイルスの感染拡大による需要減退などを嫌気して急落。代表的な指標である米国産標準油種WTIは足元で1バレル=20ドル前後と、歴史的な安値水準が続いている。
以前にもブログで書いたことがあるが、アメリカのシェールオイルは通常の石油と比べて採掘コストが高い。
シェールオイルの油井は、採掘開始から数年程度で産油量が大きく減少する。通常は20年程度は産油量が維持されるので、シェール油性は短命だ。
このため、シェールの安定・大量生産するためには、新たな油田をどんどん採掘する必要があるし、そのための設備投資が日常的に必要となるため、必然的に採掘コストも高くなるのだ。
この設備投資費用は社債やローンで賄っている、自転車操業なシェール業界だ。今は超低金利なので多少のムリは効く。だが、折からのコロナショックにより金融市場が不安定化する中で、シェール社債の破綻などが起こると、そこから金融危機が発生する可能性がある。
このため、アメリカ・トランプ大統領が介入してサウジとロシア間の調整に走るなど、他の産油国も含めて減産について調整が行われた。
具体的にどこの国がどの程度の原油を減らすかでモメにモメ、メキシコがゴネるなどして破談寸前まで行きながら、どうにか合意した。以下は日経新聞からだ。
OPECプラス協調減産、日量970万バレルで最終合意 トランプ氏「米雇用救う」
【ドバイ=岐部秀光】サウジアラビアを中心とする石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」は日本時間13日未明、9日に続いてふたたび緊急テレビ会議を開いた。暫定合意した日量1000万バレルの協調減産への参加に難色を示していたメキシコに配慮し、協調の規模を日量970万バレルに引き下げ最終合意した。
わずかに減ったとはいえ、減産規模は世界の供給全体の1割に相当。過去最大の産油国による協調となる。減産の期間は5月1日からの2カ月間。
OPECプラスはこの合意をテコに米国など枠外の主要産油国に価格下支えで協力を求める立場だ。世界規模での異例の協調が実現する可能性が高まってきた。
新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済の成長には急ブレーキがかかり、足元では需要が日量2000万~3000万バレル消失したとみられている。
国営企業が石油生産のほとんどを担っている中東やロシア、アフリカなどの産油国と異なり、米国の石油生産は民間の会社が手掛ける。トランプ米大統領がこうした企業に生産の抑制を命令することはできない。ただ、市場から石油を買い取ったり、戦略備蓄を積み増したりすることは可能だ。サウジはこうした対応で実質的な供給削減に取り組むよう米国に求める立場とみられる。
メキシコは金融市場でオプション契約を結び、原油安のための保険としていた。そうした備えがなかった産油国と一律で減産を強いられたことに不満を表明していた。メキシコは日量40万バレルの減産を求められていたが、日量10万バレルの実行で受け入れられた。トランプ大統領はメキシコが減産できない分を肩代わりする可能性を示唆している。
サウジは基準となる日量1100万バレルから日量250万バレルを減産する。ロシアや米シェールと「価格戦争」を戦うサウジは現在、過去最高の日量1230万バレルを生産しているとみられ、実際の減少幅はもっと大きくなる。
1000万バレルという過去最大規模に加えて、アメリカも減産合意に加わるという歴史的な協調減産となった。
メキシコへの肩代わりについては、メキシコ油田は採算性の悪い深層海底油田なので、原油価格下落でメキシコが経済的に困窮すれば、メキシコ→アメリカへの難民が激増する懸念もあるだろうし、何かお土産を渡すようだ。
で、市場の反応は・・・下げてんじゃんか。歴史的な合意じゃないのかよ。
だいたいこういう時の理由は「オリコミ済み」とかなんだが、本当のところはどうなのか。
もともと原油の需要が下がりつつあるところに新型コロナで急落した。このコロナの終息には時間がかかるし、終息後には金融崩壊で超絶大不況となっている可能性が高い。結局、当分は需要が無い。
金融崩壊が最小限に抑えられたとしても、記事にもあるように現状の需要喪失の日量2000~3000万バレルに対して、合意した減産量が日量1000万バレルなので、まだまだ過剰供給だ。
しかも、日量2000~3000万バレルというのは、日量1200万バレルのロシアやサウジアラビアの合計と等しい規模だ。
となると、需給面からは価格上昇とはならない。アメリカ(や当然日本も)が原油備蓄を増やす旨の記述もあるが、そもそも貯蔵場所がないので備蓄にも限界がある。トランプ大統領は、沖に原油を積みっぱのタンカーを停泊させたままだと言っているくらいだ。
ということで、需給面を踏まえると価格上昇どころかWTIが10ドル台まで下がるのは時間の問題だ。
次に「合意」の信用だ。
これまでにも「歴史的減産合意」はあったが、数か月程度で抜け駆けするヤツが現れて振り出しに戻るを繰り返してきている。
しかも、コロナ終息後はこれまでの反動で需要が回復する可能性があるので、ここで正直に減産量を確約したら大損することもあり得る。
弱小国はそうそう確約を無視できないし、施設停止からの再稼働が一番早いのはアメリカだろうし、産油国は慎重になる。
しかも、新型コロナ対策で原油を売って現金化したい国も多い。
合意を守らずに抜け駆けして、どんどん原油生産してくるヤツもいるだろう。そうなれば原油価格も上がらないと考えるのが自然だ。
また、先ほどの需給ギャップの度合から、減産してもほとんど価格には反映されない。となると、価格を上げることよりもシェア重視の価格競争になると考えられる。
需給面からも合意の信用面からも、原油価格が10ドルを割る未来しか見えない。
結論から言うと、この合意からは価格を下支えしようとする目的は感じられない。
では、今回の一連の騒動の目的はどこにあったのか?
原油を巡る背景を見てみよう。
サウジが増産&薄利多売に踏み切ったのは、原油市場で一気にシェアを握るためで、それで原油は20ドル台まで下落した。
ここでトランプ大統領自らが調整役で出てきた目的は「シェール業界の救出」だ。
では、今回の合意はサウジやロシアがアメリカの圧力に屈したのだろうか。
サウジの原油採掘コストは1バレル10ドル。サウジと揉めたロシアは1バレル40ドル(予算価格)で、アメリカ・シェールは50ドルだ。
原油価格が50ドルにならないとシェールは救えないワケだが、この合意は役に立たないので原油価格は逆に10ドルを目指すことになる。
と言うことは、この合意はサウジへの圧力ではなく、トランプ大統領がシェール業界を助けようとするポーズだ。
前から述べているが、トランプ自身は、金融市場の崩壊によって軍産・国際金融資本勢力の没落を目論んでいると思われるので、現実に望んでいるのは、シェール業界破綻、シェール社債破綻からの脆弱な金融市場崩壊だ。
と言うことで、この一連の動きの真相は、トランプ黙認のサウジ・ロシアによるアメリカシェール業界潰しの協調増産・価格下落というのが真相と考える。
今の原油価格でもロシアは10年耐えられるようなので、シェールを潰すまで殴るのをやめないだろう。
だが、軍産・国際金融資本勢力も黙って殴られるばかりではない。
アメリカではFRBがジャンク級債券を買うことを決めた。どうやら、シェール業界を限界まで支える腹を固めたようだ。
なので、シェール業界の崩壊とロシアの降参とどちらが早いか分からなくなってきた。
また、サウジもイエメンとの泥沼紛争の軍事費など、国家財政は火の車だ。これら財政赤字を原油収入で補っている。サウジアラムコの上場も資金繰りのための苦肉の策なので、現状の価格はツライ。
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だが、サウジとて本気で合意した訳ではない。確実にアメリカのシェールを叩きにくる。
シェールにより、アメリカにとってサウジの重要性は低下しているだけでなく、逆にイランやロシアの影響力が増大している。
しかも、トランプが進んで覇権をイラン・ロシアに委譲している。
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今回の一連の動きは、サウジがアメリカを見限ってロシアやイラン、中国と仲良くするぞ、というメッセージなのだろう。
となれば、シェール企業の倒産が相次ぎ、シェール社債が破綻するまで原油は上がらない。
だが、シェール社債の破綻から金融崩壊につながり、実態経済もどん底になるので、しばらく原油は上がらない。
最後まで読んでくれてありがとう!