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NATOと全面戦争するかもしれないロシアと欧州の対米離脱

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ウクライナで続く戦争が、NATOとロシアの全面戦争に発展するかもしれない。

先日、ロシアにおいてプーチンの精神的支柱とされるアレクサンドル・ドゥーギン氏の娘のダリア氏が暗殺される事件があった。

爆発した車の脇で悲嘆にくれるドゥーギン氏の姿が確認されていることから、ドゥーギン氏を狙った可能性は高いと言われている。

日本のメディアではドゥーギン氏を「思想家」としているが、実はプーチン大統領の精神的メンター兼ウクライナ侵攻の精神的指導者であり、娘のダリア氏もタカ派のジャーナリスト/コメンテーターとして欧米の制裁リストに名を連ねる重要人物だ。

この事件について、真っ先に疑われそうなウクライナ側は関与を否定しているほか、ロシア国内で活動する反プーチン組織のNRA(国民共和国軍)から犯行声明が出されている。

しかしながら、ロシアはこの犯行声明やウクライナの「ち、違う・・」の声をガン無視して、ウクライナがやったと断定しているとか。

ロシアFSB(連邦保安局)の発表によると、

  • 標的はドゥーギン氏本人
  • 犯人はウクライナ特殊機関のナタリア・ウォウフで、エストニアに逃亡
  • ウォウフは、先月入国してダリア氏と同じアパートを借りていた。
  • 事件当日、ドゥーギン氏とダリア氏はモスクワ郊外の祭り会場を訪れていた。
  • ウォウフが使用した車は、カザフ・ウクライナ・ドネツクのナンバープレートを使い分けていた。

・・と言った感じのようだ。

犯人について、ロシア側は当初「不明」としていたが、事件からわずか1日で特殊機関の工作員の足取りの詳細まで報じられるスピード感は凄い。

しかし、この情報には違和感を感じるところ。

何と言っても、この情報が正しいとするなら「敵国のスパイを野放しにしてFSBは何やっとんねん」となり、プーチン直々にビンタの刑に処されかねない。

また、ドゥーギン親子は「祭り」に参加し親子で車で帰るところ、何故かドゥーギン氏は乗車せずダリア氏だけが乗車して爆殺されている。

さらに、ウォウフが使用したとされる車は、ウクライナで転売されているとか。

ウォウフ引渡しアゾフなのか否かは置くとして、エストニアに逃亡後、わずか数日でウクライナで車を転売とは・・これ如何に?

なお、ロシアのTASS通信によると、ウォウフの車のナンバープレートは、ロシアに入国する際にはドネツク人民共和国「Е982ХНDPR」、モスクワではカザフスタンの「172AJD02」、逃亡時はウクライナの「AH7771IP」を付けていたとしている。

最後の逃亡時に付けていたとされるナンバー「AH7771IP」は、上記のミニクーパーのナンバーと同じなので、本当にエストニアに逃亡したのかは疑問だし、そもそもロシア経由でのエストニア入国が可能なのかも疑問なところだ。

こうなるとウォウフ実行犯説は疑わしく、仮にウォウフが殺ったとしても実は標的はダリア氏で、さらにFSBやドゥーギン氏も了解事項だった可能性は否定できない。

NRA(国民共和国軍)とウクライナ側が共闘しており、爆弾をセットしたのはNRAだった可能性もあるが、いずれにせよFSB黙認の元でやったと見ていいだろう。

・・とすると、その目的は何か。ウクライナ戦争へのロシア軍戦力増強の理由とする・・のは無さそうだし。

この点について、ゼロヘッジさんは、ダリア氏殺害を第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件になぞらえ、ロシアはエストニアに逃亡したウォウフの身柄引渡しを求めることで、NATOとの直接戦争に発展する可能性を指摘する。

ゼロヘッジさんによると、EUの司法裁判所は、ロシアによるウォウフの身柄引き渡し要求に応じなければならない判例を出しているようだ。

ちなみに、当該判例法が成立した裁判は、ラトビアに対して麻薬密売犯のエストニア人をロシアに引き渡すものだったとか。

この判例法に従うと、EU加盟国は、引渡し要求の対象者がEU市民であるか否かを問わず、EU非加盟国の引き渡し要求に応じる義務がある。

EU加盟国のエストニアは、引渡しに応じなくてはならない。

ただ、FSBの発表内容等を踏まえると、本当にウォウフが実行犯なのか、そもそもエストニアにいるのかの2点で争う余地がありそう。

さらに、エストニア始めバルト三国は、その歴史的経緯から反ロシア感情が強く引渡しは難しいことから、ロシアとエストニアでバチバチなりそう。

そして、エストニアはNATO加盟国なので、ロシアとの紛争に発展すれば、NATO加盟国に課せられる相互防衛義務によりNATOvsロシアの全面戦争になりかねない。

こうした情報を総合すると、ダリア氏爆殺事件とはロシア側がNATOを戦場に引きずり出すための偽旗作戦だった可能性が出てくる。

ちなみに、イギリスのデイリー・ミラー紙によると、イギリス軍は兵士に「ウクライナに行くかもしれんから、家族や愛する人と準備しとけ」と言っているとか。

世界史の黒幕イギリスは、既にNATOvsロシアを見据えているのかも。

とは言え、ミラーは大衆紙紙だし、準備しとけと言った将校も准尉だし・・イギリス軍の総意かどうかは微妙かも。

さて、全面戦争になるとしても、実のところ欧州勢はエネルギー危機の状況に陥っている。

昨今話題の欧州天然ガス(週足チャート)価格を見ると・・

20220824欧州天然ガス週足チャート

ここ2ヶ月くらいで爆上げしているのが分かる。

直近安値は6月6日の週に80ユーロくらいだったところ、今では270ユーロと実に3.3倍以上となっているのが分かる。ちなみに、昨年同時期は約45ユーロだった・・・。

ロシアのウクライナ侵攻を機に急上昇した天然ガス価格だが、その後はある程度は落ち着いていた(と言っても昨年の4倍くらい)のに・・、6月頃から再上昇してお盆休みには高値更新・高値引けし、今週に入っても上昇に歯止めがかからない。

お陰でドイツの電気・ガス代はこの数ヵ月で2倍になっており、市民はお怒りモードに突入しているとか。

この天然ガス価格の高騰は、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」がメンテナンス等を理由に2割稼働(0.3億㎥/1.67億㎥)となっていることがある。

さらに、欧州では猛暑・干魃により川の水位が低下するなど、石炭水上輸送や原発稼働に支障が出ており、エネルギー需要が増加する中で天然ガス火力に頼らなければならない状況となっていることも天然ガス価格の高騰に拍車をかけている。(イラン核合意は原油価格の高騰と中東戦争の引き金になる)(欧州はエネルギー危機により破綻に追い込まれる

そして、直近では2割稼働のノルドストリームが、メンテナンスにより完全停止することになったとか。

ロシアによると、ロシア側施設のガスタービンの定期検査のため停止したとしているものの、市場の動きは「明らかに逆制裁よね」と言っている感じだ。

このような状況になると、ドイツ始めEUではロシアの代替となる新規購入先を開拓する話が出てくるが、世界的に天然ガス争奪戦となっている中で、新規購入先など皆無だ。

先日の「イラン核合意は原油価格の高騰と中東戦争の引き金になる」で紹介したように、EUはイラン核合意(JCPOA)再建にワンチャン賭けているようだ。

また、イスラエルのガンツ副首相兼国防大臣が、アメリカでサリバン大統領補佐官に「核合意しちゃイヤよ」と言いに行くとか。

なお、ガンツ国防大臣は木曜日にアメリカ、金曜日に日本という強行日程だが、来日の目的は公表されていないようだ。

何故に日本・・?

ともあれ、急遽イスラエルが訪米することを踏まえると、イラン核合意(JCPOA)再建は近いのかもしれない。

ただ、ロシア・中国陣営にどっぷり浸かるイランの協力を得るは「イスラエルと手を切らんかい」との踏み絵を迫られるだろう。

ホロコースト問題を抱えるドイツの試練は続く・・が、背に腹状態のドイツは、実利面のイランを選ぶ可能性もあるか。

いずれにせよ、今回停止したガスタービンの再開は不透明だし、稼働再開したとしても9割減だろうし、イラン核合意が上手くいっても直ぐにブツが入っては来るワケない。

また、欧州における光熱費爆上げは、市民の日常生活だけでなく、産業面にも影響を及ぼしているようだ。

欧州では電力消費の激しいアルミや亜鉛の精錬業者が続々と稼働縮小・停止しているようで、需給がタイト化して価格が跳ね上がっているとか。

欧州の天然ガス需要は冬に向けて増加するので、事態は一層悪化することを踏まえると、ノルドストリーム1停止は絶妙なタイミングの「踏み絵」であり、「ホントに戦争して大丈夫?」というロシアからのメッセージとも言える。

ロシアからもイランからも踏み絵を提示され(そうな)る欧州が、これ以上のエネルギー危機を乗り越えるのは不可能だろう。

と言うことで今後の展開想定だが、

  1. ロシアからエストニアにウォウフ引渡し要求
  2. エストニア拒否、バルト三国やポーランド等は賛同
  3. ドイツ・フランスは引渡しを強要

となりそうだ。

あるいは、ウォウフの車がウクライナで売りに出されていたことを踏まえ、ウォウフは既に(最初から?)エストニアにいないパターンも想定されるが、それだと・・

エストニア「本当にいないんすよ、信じてくださいよ(涙目)」

ドイツ・フランス「お前、隠すのもいい加減にしとけよコラ(マジギレ)」

ロシア「もういいよ、勝手に捜索するわ。ついでに資源全部止めといたから。」

イギリス「ひゃっはー」

・・と言った感じで紛争勃発前夜となる可能性もある。

エネルギー危機に瀕するドイツ・フランスの参戦は、これまでと同様にアメリカ様の意向に従う形となりそうだ。

で、そのアメリカと言えば「リセッション入りするアメリカはQTによりバブル崩壊へ」で紹介したように、金融引締めモード継続によるリセッション入りが見込まれている。

FRBはソフトランディングを主張するものの、大半の全米エコノミストさん達は信じていないとか。

先日のCPI(消費者物価指数)の発表以降浮かれてた市場も、ジャクソンホールを前に金融引締めマインドを思い出したようで、株安・債券安が進む展開となっている。

また、直近の7月の新規住宅販売件数を見ると、予想58.1万件に対して結果51.1万件と下振れ、さらにPMI(購買担当者景気指数)も下振れした。

なお、住宅件数の下振れについては、コストプッシュインフレに伴う住宅価格の急騰(史上最高値)やローン金利の急騰によるものだが、アメリカの不動産バブル崩壊前夜を思わせる状況となっている。

こうした中で、アメリカのウクライナ支援は99億ドル(1兆3600億円)にのぼっているとか。

これだけカネを使えば、ダブついた兵器類は一層されて軍産の皆様もホクホクだろうし、EUにエネルギー資源をたんまり売り付けたし、リセッションで国民の不満が高まる中で対ロシア戦に参戦することは無さそう。

さらに、中東などにおける覇権縮小・撤退の動きからしても、これ以上アメリカが欧州情勢にクビを突っ込むことは考えにくい。

また、トランプやファウチ関連で名前が挙がるランド・ポール上院議員(共和党)は、「NATOの相互防衛義務は憲法違反じゃね」と言っていたとか。

11月中間選挙では上下院とも共和党勝利が見込まれる中で、NATOの相互防衛義務をアメリカが履行する可能性は低い。

・・となると、ドイツ・フランスは対ロシア戦争しない方向に傾くだろう。

そうなれば、バルト三国など反ロ欧州勢は「こんな使えねぇ組織に入って損したわ」となって、NATO崩壊(=対米離脱)へと繋がりそうだ。

と言うことで、ロシア側の偽旗作戦で誘発されるNATOvsロシアの全面戦争は、NATO崩壊・欧州の対米離脱を誘発する可能性が高い。

これはアメリカの世界覇権の縮小・撤退方針の一環と思われ、EUは対米離脱により独立独歩の精神を注入されると共に、ウクライナ危機についても東部(ドンバス)をロシアに割譲する方向で決着をつけさせることになりそうだ。

まあ、今のままグダグダな戦争状態が継続しても同じ結果になっただろうから、ロシアの偽旗作戦により終わりが早まったと言えるかもしれない。

そうなると、ロシアが決着を急ぎたい理由も気になるところだ。

実は、ダリア氏が死亡する前に、ドゥーギン氏はSNSに「長期化するウクライナ戦争に勝つために、クレムリンの改革が必要じゃ」とメッセージを出していたとの話が出ている。

クレムリンの改革を言い出したから、プーチンに「このバカチンがぁ」とやられた可能性も無きにしも非ずだが、この「改革」の言葉は簿外資産(ゴールデン・リリー)との関連を疑ってもいいかもしれない。

ウクライナ危機については、前々より原田武夫氏がロシアが簿外資産もらえないことが開戦理由としていたが・・何故貰えないのか。

ロシアは1917年に共産革命でソ連となり、そのソ連も1991年に歴史的役割を終えて消滅、その後のエリツィン政権下のロシアには国際金融資本が押し寄せた。

ただ、エリツィンの後任として台頭したプーチンと対立したオリガルヒは潰されていった。

このような変遷を辿ったロシアは、表向き民主・資本主義国家になったものの、肝心な所ではソビエト共産党支配と何も変わっておらず、その点では「歴史の逆流」と言える。

これまで歴史を大きく動かしてきた「人類資金」とも言うべき簿外資産の性質を踏まえると、歴史の逆流には「ビター文渡さねぇ」となっているのではないか(想像)。

こうした中で、欧州におけるアメリカ覇権が縮小・撤退してNATOが崩壊して、EUがロシアと関係回復し、ロシア・プーチン大統領がNATO首脳会議に出席した2002年のような状況となれば、現在のようなソビエト共産党的なロシアである必要性は無くなり、ロシアの歴史は動き出すことになる。

ダリア氏爆殺はこのような未来に繋がっているのかもしれない。

とは言え、第二次大戦の日本がアメリカに石油を止められて開戦した(させられた?)ことを踏まえると、EUが本気の大戦争に踏み切って、EUもプーチンも滅亡に追い込まれる未来もあるかもだ。

そうなると、核兵器使用が現実味を帯びることになるか・・。


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