天然ガス

欧州はエネルギー危機により破綻に追い込まれる

天然ガス

以前に「本格化するロシアの報復制裁により対米離脱を迫られる日本とドイツ」で紹介したように、日本はサハリン2の天然ガス権益を喪失する見込みが高くなっている。

日本がサハリン2から調達している天然ガスを他から調達するのは難しく、仮に調達できたとしても2兆円規模の費用負担が生じることになるため、今年の冬にかけてはエネルギー不足or価格高騰を覚悟する必要が出てきている。

ただ、日本がサハリン2から調達す天然ガスは、全体の1割にも満たないため、どこまで影響が出るかは微妙なところ。

それよりも、ロシアのエネルギーを大きく依存するドイツでは、すでにエネルギー危機的に片足を突っ込んでいるようだ。

ドイツ第二の都市ハンブルクでは、深刻なガス不足により給湯制限を検討をしていることや、産業の停滞から経済危機に直面する危険性が報じられている。

また別の記事では、ドイツ国内では「ガスの使用を節約して冬に備える」ことがコンセンサスになっているようで、様々な施設で給湯制限に加えてエアコンの温度管理、街灯の照度低下などの省エネ努力が行われているとのこと。

温水プールの閉鎖はともかく、冬場の暖房の設定温度を17度にする話も出ているようで、寒さの厳しいドイツにとっては涙目展開となっている。

ドイツで深刻なガス不足となっている原因は、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」を経由してロシアから送られてくる天然ガスの量が、6割以上も減少しているためだ。

表向きの理由は、経済制裁によりロシアにパイプラインの修繕部品が無いというものだが、実際にはロシアからの逆制裁(報復制裁)なのは言うまでもない。

こうした状況を受けて、ドイツでは電気代がめちゃくちゃ上がっているとか。天然ガスは火力発電の燃料でもあるしな。

以前に「経済戦争で苦境のドイツ EUはアメリカ陣営から離脱する」で、今年4月の時点でドイツの電気代は前年比+60%となっていることを紹介したが、ゼロヘッジさんの記事に掲載されているドイツの電気料金の推移グラフを見ると・・・

ドイツの電気代の推移

今年の6月以降にさらに急騰して4月から見ても1.5倍になっており、前年同月比では5~6倍くらいになっていることが分かる。

ゼロヘッジさんの記事によると、今のところ4人家族で年間3800ユーロ(約52万円)の追加負担となっているとのことだが、実のところ52万円で済むかどうかは微妙だ。

何とも間の悪いことに、アメリカ・テキサス州のLNG輸出ターミナルで大規模火災が発生したようだ。

このフリーポートターミナルから輸出されるLNGは、アメリカの輸出量の2割を占めており、さらにほとんどが欧州向けだとか。

そして、この火災事故を受けてターミナルは閉鎖され、再開時期は早くとも10月、遅ければ1年後の可能性もあることが報じられている。

本格化するロシアの報復制裁により対米離脱を迫られる日本とドイツ」で紹介したように、欧州が輸入する天然ガスは、ロシア産よりもアメリカ産の方が多くなっており、この事故の影響はかなり深刻なものとなりそう。

ただ、先日も紹介した、第32代アメリカ合衆国大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトのこの言葉。

  • 世界的な事件は偶然に起こることは決してない。そうなるように前もって仕組まれてそうなると。私はあなたに賭けてもいい。

自らも国際金融資本の傀儡として日米開戦へと導いた人物の発言の重さを踏まえると、アメリカのLNGターミナル火災には何らかの意図を感じずにはいられない。

さらに、ノルドストリーム1を経由した天然ガス供給が完全に絶たれる可能性も指摘されている。

CNBCさんによると、ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」が7月11日~21日の予定で定期点検に入っており、稼働を停止している。

そして、ドイツやフランスはこのまま二度と再稼働しないんじゃないか・・と戦々恐々としているという。

確かに、今でもロシアは整備部品不足を理由にガスを6割も絞っていることを踏まえると、「部品が無くて必要な整備が出来んから動かせんで」と言いそうではある。

また、ロシアはインド等への絶好調な原油販売で過去最高の黒字となっているし、インドは天然ガスも喜んで買うだろうから、欧州向け天然ガスを止めても何も痛くはない。

一方のドイツは電力の確保すらままならなくなり、市民生活だけでなく産業も即死するので、実体経済破綻からの金融破綻まで見えてくる。

なお、原発大国のフランスでは半分近くの原発が停止しており、ドイツから電力融通を受けている。

この状況でロシアが天然ガスを停止したらドイツやフランス経済は即死しかねず、経済破綻の連鎖は欧州全体に波及しそうだ・・。

それにしても、ロシアへの経済制裁(=経済戦争)を開始してからわずか数か月しか経っていないのに、早くもドイツは追い込まれており「贅沢は敵だ」の状況となっているが、先の戦争では贅沢もせず欲しがらなかった方が負けたのは言うまでもない。

このような状況を踏まえると、金融システムのグレート・リセットは、QT継続によるアメリカの金融崩壊と、エネルギー不足による欧州の経済破綻の並行発生が発端となる可能性が見えてきた。

また、こうした苦境に追い込まれているドイツでは、対ロ制裁やウクライナ支援の継続に対する国民の理解が無くなりつつある。当たり前だが。

そもそも、ロシアのウクライナ侵攻を招いたのは、ウクライナによるドンバスのロシア系住民の虐殺が大きな要因だが、これについて数年前までは世界が一斉非難していた。

ウクライナは国内で虐殺行為をしていただけでなく、財政規律も緩くてIMFの常連だったし、ヒドイ政治腐敗も非難されていた。

こうした過去は忘却の彼方に消え去っているようだが、本来ならNATO加盟どころかEU加盟すら門前払いされるレベルだ。

ドイツ始めEU諸国民の多くは、エネルギー不足による経済・金融危機を招いてまでウクライナを救う必要性について疑問に思っているのは間違いない。

そして、ウクライナはドイツ人の感情をさらに逆撫でするようなことをしている。

つい先日、ドイツが「ノルドストリーム1」の部品をカナダの工場に送ってメンテナンス依頼したところ、ウクライナはカナダに「部品を返すな」と要請したのだ。

ウクライナに言わせると、部品が戻ればドイツはロシアから天然ガス輸入を継続するから・・ということで、悪質なイチャモンだ。

ウクライナの真意としては、代替LNGとノルドストリーム1の稼働でウクライナ国内を経由して欧州に続くパイプラインが不要となってしまうと、ロシアがウクライナパイプラインの稼働を停止する可能性を恐れてのことだろう。

ウクライナの欧州に対する態度がデカイのも、ロシアからの天然ガスパイプラインがウクライナ国内を経由している(=ウクライナの裁量で止められる)ことや、実はウクライナも資源大国ということが背景にはある。

ただ、ウクライナの石油・天然ガスはドンバスや黒海周辺に集中しており事実上失陥しているため、ウクライナが欧州に対する優位性を維持するために、ノルドストリーム1の再稼働を止めたかった・・との思惑が見える。

まあ、ウクライナが心配しなくても、ロシアは欧州へ送る天然ガスをどんどん減らして行くだろうから、この件は単にドイツ人の対ウクライナ感情を悪化させただけとも言える。

合わせて、この戦争がロシア優位のまま終わった場合、欧州からウクライナへの復興資金の援助は(国民の大反対で)不可能となり、ロシアが保護国化せざるを得なくなる見込みが強くなった。

と言うことで、ドイツ始め欧州では日本に先行してエネルギー危機や経済破綻を迎えそうな状況となっている。

怒涛のユーロ安は、このピンチを反映しているんだろう。

欧州勢がこのピンチを打開するには、対米従属政策をやめてロシアと和解するしかないが、それはNATO解体を意味するだけでなくグレートリセットを阻害するものでもある。

先日の「安倍元首相の暗殺は歴史が大きく動く合図か」では、安倍さんの殺害は、安倍さんが対ロシア融和のキーパーソンであり、グレートリセットを阻害する可能性があったことを紹介したが、その末路を見た欧州勢が対ロシア和解に踏み切るのは難しいだろう。

なお、直近で不審な死亡事例はもう一つあって、OPEC事務局長のバーキンド氏が任期目前で死亡したことが報じられている。

実はこのバーキンド事務局長、イランやベネズエラの石油を市場に戻してエネルギー危機に対処しようとしていたことが報じられている。

長年の制裁によりカネの無いイラン・ベネズエラの反米2カ国は喜んで石油を出すだろうから、バーキンド事務局長の提案が実現すれば、石油価格の高騰やインフレは抑えられる可能性は高い。

たが、それだけでは済まない。

両国とも制裁解除や、エネルギー開発投資の促進を求めてくるのは間違いなく、特に中東における緊張は緩和する。

しかしながら、アメリカさんはイランに対して因縁を付け始めている。

イランはドローン兵器をロシアに供給するとか。

ゼロヘッジさんからも、バイデン政権がイランと戦争する可能性について記事が出ている。

ただ、イランと戦争すると言っても、イスラエルを支援する形での代理戦争となるだろうから、ウクライナと同様に長期化が見込まれる。

つまり、アメリカはウクライナ戦争に加えて、中東でも一悶着起こそうとしているようなのだ。

ウクライナだけでもインフレ激化要因となっているのに、油田が集中する中東で戦争となれば・・・猛烈なインフレ加速になりそうだ。

そして「豊富な資源を有するロシア・イランチーム」vs「資源に乏しい欧米チーム」の構図は一層明確になり、エネルギー危機からの経済・金融危機というグレートリセットへの流れを加速するものと言える。

こうした状況を踏まえると、OPEC事務局長の提案は、エネルギー危機を回避&イランを国際社会に復帰させて戦争回避=グレートリセットの阻害となる。

そう考えると、OPEC事務局長は安倍さんと同じ理由で消された・・のかもしれない。

また、「金融危機が見えてきたアメリカと日本バブル」でも紹介したように、アメリカでは住宅指標が急激に悪化している。

この記事を翻訳すると住宅価格が過去最低になった的な感じの文章になるが、ゼロヘッジさんが参照するGS Housing affordability indexとは、「おうちの買いやすさ指数」であり、この指数の低下は、家を買うことが極めて難しくなったことを意味する。

家が買いにくくなったのは、住宅ローン金利の大幅な上昇に加えて、インフレにより住宅価格が下がらないからだ。

5月の中古住宅販売は4ヶ月連続で減少するなど、アメリカの不動産バブル崩壊が迫っているが、FRBがQTで不動産証券を大量放出することも踏まえると、近日中のリーマン超えの金融危機の発生を予感させる。

こうして見ると、欧州では解決不能なエネルギー危機による経済・金融危機が迫っており、アメリカでは住宅市場崩壊による金融危機が迫っているなど、米国債・米ドルを中心とした金融システムの崩壊(=グレートリセット)へと向かって世界は動いている。

こうした中で日本を見ると、サハリン2権益喪失によりエネルギー供給に黄信号が予測されるものの、欧米と比べれば遥かにマシと言える。

・・もしかして、欧米からの資金の受け皿となり得る条件は整いつつあるのか?やはりバブルは来るか!?


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