ウクライナ危機

アゾフ連隊の活躍報道から見る戦況とドルの崩壊

ウクライナ危機

ウクライナの首都キエフに迫るロシアの戦車部隊を、アゾフ連隊がドローン攻撃により撃退したとか。

昨年のナゴルノ・カラバフ戦争と同様に、戦車に対するドローンの優位性がよく分かる映像だ。

ただ、この報道で重要なのは「ウクライナすげえ!アゾフ素敵!」ではなく、西側メディア(AP通信)がアゾフ連隊について報道した点だ。

アゾフ連隊とはウクライナの正規軍ではなく内務省管轄の「準軍事組織」であり、そのルーツは極右武装組織(私兵集団)「ウクライナの愛国者」に遡る。

今回の記事のポイントは、そのような極右武装組織のアゾフ連隊を「国家組織の中に位置付けられたロシアと戦う正義の部隊」としてメディアが報じ始めたことにある。

アゾフ連隊は、極右の武装組織ではあるが、欧米勢がウクライナを親欧米国家とする政治工作の実働部隊としてアメリカが訓練・武器援助していた部隊だ。

アゾフ連隊(当時はウクライナの愛国者)は、欧米の資金援助を受けて2014年の反政府デモ激化から内戦へと至らせ、親ロ派のヤヌコビッチ大統領を国外逃亡へと追い込むクーデターによって親欧米派政権を樹立した(マイダン革命)。

この後、選挙で選ばれた親ロ政権を武力クーデターした親欧米政権の正統性に反発した親ロ派を、親欧米政権は「ロシアが裏で糸を引いている」としてドンバスやクリミアを武力弾圧した。立場が逆なら、アメリカは「民主主義のピンチ」として武力介入する話だろうに・・。

クリミアは住民投票を経てロシア併合となったものの、ドンバスへはウクライナ軍+アゾフ連隊が投入され、メキシコの麻薬カルテルもびっくりの激ヤバ集団アゾフにより住民虐殺、そしてミンスク合意に至った。

この後、貧乏で汚職まみれの3流国家ウクライナは、憲法改正等を経て(表面的には)生まれ変わったものの、ドンバスに自治権を付与含めミンスク合意を履行せず、逆にアゾフをドンバスにうろつかせるなど迫害を続けた。

プーチンの言う「ウクライナの戦争犯罪」「非ネオナチ化」「ロシア系住民の民族自決」はこの辺りに求められる。

なお、ロシアとの融和を掲げていたゼレンスキー政権がまるで融和しなかったのは、ゼレンスキー大統領がアゾフ連隊や自身の取り巻きと言った欧米勢をコントロール出来なかったから・・と考えられる。

このように、ウクライナ政変の実働部隊としてアゾフ連隊は常に存在しており、今回のウクライナ危機を招いたのもアゾフ連隊と言える。

ちなみに、公安調査庁では、アゾフ連隊を「ネオナチ系のテロ組織」と位置付けている。

また、2018年の英ガーディアン紙の記事では、アゾフ連隊を、ナチズムを信奉する人種差別主義者の暴力集団と報じている。

アゾフ連隊は、ハーケンクロイツを掲げ近代装備に身を固めた武装兵集団であり、「ネオナチ」と言われるのはむしろ当然だ。

ただ、これまで「ウクライナの絶対正義」を報じてきたメディアは、ネオナチ(=アゾフ連隊)の存在を否定し、さらに「ロシアの陰謀」としてきた。

そんなメディアが、今になってアゾフ連隊を持ち上げ始めた・・・何故か。

その理由として考えられるのは、既にウクライナ正規軍の組織的抵抗能力が無くなっており、実質的にロシア軍と交戦しているのはアゾフ連隊・・という可能性だ。ウクライナ軍が充分に戦えるなら、ネオナチ非難していたアゾフ連隊を持ち上げる必要は無いし。

実のところ、ロシア軍とウクライナ軍の戦力差は大きいだけでなく、ロシアは財政面や中国・中東との関係構築など戦略面でも準備万端であり、さらに欧米勢は参戦しないため、ウクライナが勝てる見込みは最初からゼロだ。

この点を忘れて「ウクライナ優勢」と思うのは大間違いだ。

戦う前から負けが決まっているウクライナが取れる戦術は、ロシア軍を都市内部に誘い込み、市民に紛れて市民を盾に戦うしかない。そして、これをやれるのはアゾフ連隊だけだろう。

現実に、ウクライナ東部(ドネツク)の都市マリウポリでは、脱出した市民からアゾフ連隊への恨み節が聞こえている。

劇場はロシアが空爆したと報じられているが・・現地住民の声は違うようだ。

都市部やその周辺での戦闘の大半はアゾフ連隊vsロシア軍となっている可能性が高く、街中戦闘による被害をロシア軍のせいにする準備として、欧米メディアはアゾフ連隊を持ち上げることにしたのかもしれない。

なお、アメリカの元陸軍大佐さんは、ウクライナ戦況をこのように分析する。

メディアの「ウクライナ優位報道」は、大戦末期の日本軍大本営発表に近いものがあるな・・・。

なお、最初のアゾフ連隊を紹介した映像で、ロシア軍戦車は律儀に車道を進んでいたが、Dr.苫米地氏によると、これは市民への攻撃意図が無いことを示しているとのことで、アメリカ陸軍元大佐の見立てと同じだ。(長期化するウクライナ戦争で明暗が別れるドルとビットコイン

なお、ロシア軍は主要都市手前で進軍を止めているとか。

ロシア軍が進軍しない理由として、ロシア軍の士気低下やウクライナ軍の頑張りを挙げているが、実際には都市内部で市民を盾にするアゾフ連隊との直接戦闘を避けている可能性が高い。

また、TBSさんの記事に

ただ、ロシア軍は依然として大きな戦闘能力を保持したままで、キエフ周辺では砲撃部隊が前線に移動している動きを確認しているということで、警戒は緩めていません。

とあることから、ロシア軍は街中に突入せずに、アゾフ連隊の拠点施設(民間施設)にアウトレンジ砲撃していることが推測される。

以前にも紹介したように、ロシアはウクライナに対して、首相を親露派政党のボイコ氏に交代させた上で、ゼレンスキー大統領の留任を認めており、「長期化しそうなロシア侵攻にバチカンが動き出した」でも書いたように、ロシアはゼレンスキー大統領を「神輿」として安定させたいようなので、市民の虐殺や都市破壊を慎んでいると思われる。

さて、ウクライナ不利の戦況を見たアメリカさんは、武器支援(ドローンやジャベリン等)を拡大させるとしている。

ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事からは、簡単には支援出来ないと思われる。

ウクライナのポーランド国境付近にあった軍事訓練センターが、3月13日のロシア軍の空爆で破壊されて35人が死亡したと報じられている。

以前に紹介したLez LuTHOR氏もポーランド経由でウクライナ入りして現地をレポートしてたし、欧米からの人的・物的支援(義勇兵・武器)はポーランドを経由してウクライナに入るようだ。

となると、破壊されたのはポーランド経由でウクライナ入りした義勇兵の集結施設と思わる。死亡した35人の中には、ウクライナ入りしたばかりの義勇兵もいた可能性は高い。

以前に紹介した、ウクライナがNATOに飛行禁止空域の設定をお願いした件と合わせ、ウクライナの制空権はロシアが確保しており、欧米勢の人的・物的支援は国境を越えたところでロシア側に爆撃される・・と考えられる。

であれば、アメリカの支援武器もウクライナ軍に届かない可能性が高いし、義勇兵もウクライナ入りした端から殲滅されそう。

メディアがアゾフ連隊を持ち上げ始めたのは、欧米からの支援が届かないためアゾフ連隊しか戦うヤツがいない・・からなのかも。

そして、このような状況を踏まえたのか・・・ゼレンスキー大統領がロシアへの妥協を示唆し始めた。

NATOへの早期加盟を諦める・・としているほか、

ドイツ通信によると、ゼレンスキー氏の外交アドバイザーは8日の独公共放送ARDで、中立国化について話すことも否定しないと述べた。

とあり、ロシアの要求に従って、ウクライナの中立化(=欧米から距離を置く)も示唆している。

なお、ロシア系メディアのスプートニクでは、ゼレンスキー大統領が「NATO加盟は実現不可能」との認識を示したと報じている。

いずれにせよ、これまで強気を貫いてきたゼレンスキー大統領が弱気に転じているようだが、メディアが報じるように、ウクライナ軍がロシア軍と互角以上に戦っており国民の士気も高いなら、こうした発言は逆効果となる。

この点から、現実はロシア軍優勢でアゾフ連隊が都市部に立てこもっている状況であり、さらに、ゼレンスキー大統領は、取り巻きの欧米勢やアゾフ連隊により「降参するっす」と言わせてもらえない状況にあることが伺われる。

また、ウクライナ大統領府顧問さんは、5月までのロシアとの和解成立を予想しているとか。

和解する理由は「ロシアの軍事資源枯渇を見越して・・」とあるが、戦況を踏まえると「大本営発表」と言ったところか。

また、ロイター記事には

その上で、1─2週間内に和平合意が結ばれ、ロシア軍が撤退することになるか、例えばシリア軍がロシア軍に合流して戦闘が長引き、4月半ばから下旬に合意が後ずれするかの分岐点に現在あるとの認識を示した。

とあり、早ければ3月中にも和平合意に至る可能性もありそうな感じだ。

ただ、ゼレンスキー大統領が「降参するっす」と言わせてもらえないのに和解時期が示唆されている。

この理由として考えられるのは、以前に「ウクライナ情勢 アメリカ覇権の撤退とロシアのやる気が見えてきた」などで、ウクライナ危機の目的は「アメリカ覇権の縮小」「国際金融資本の凋落」があることを書いてきたが、その目的が概ね達成される時期・・ということになるだろうか。

先日の「ウクライナ危機は認知戦?インフレと金融システムの転換」で、少年予言者アナンド君の「4月にQEバブル崩壊予言」を紹介したが、それが成就するのかもしれない。

また、QEバブル崩壊以外にも、ドルの価値・信用低下へと繋がりそうな状況が加速しつつある。

まずは先日も紹介したゼロヘッジさんのこの記事。

準備通貨としていくらドルを蓄積しても、アメリカの意向一つで凍結されるし国際決済システムから追放される・・・ロシアへの金融制裁で明らかになったこの事実は、各国のドル離れを招く可能性が指摘されている。

元ソシエテジェネラルのストラテジストさんは、「中国は台湾侵攻の前に、米ドル脱却を優先する」としているとか。

つまり、ロシアも中国も、急速に米ドルから脱却していくし、他の国々も外貨準備をしてドルの蓄積を縮小する。この動きはドルの信用低下に繋がっていく。

さらに、ロシアがルーブルに金の裏付けをもたせる可能性が指摘されているが、こうした中で、ロシア・中国の「共同通貨構想」が出てきているようだ。

ロシア系メディアのスプートニクはが報じたものだが、記事中に

新たな通貨の価値は加盟国の通貨指数や商品価格指数とみなされる。

とあり、新共同通貨はドルのような「信用」ではなく、「モノの価値」・・金を含めた幅広いコモディティに基づく通貨システムとなるようだ。

つまり、通貨そのものに価値を持っていることになり、信用(モノが買える、みんな使ってる)に基づくドルの弱体化が加速する可能性が高い。

さらに、最大産油国のサウジアラビアが、中国に人民元建てでの石油販売を検討するとか。

原油高は中東混乱の前触れか 実はサウジアラビアが震源になるかも」で紹介したように、昨今のアメリカのサウジに対する姿勢はかなりヒドかった。そのせいか、サウジやUAEといった中東の親米諸国はロシア金融制裁に参加していない。

実のところ、サウジやUAEといった石油王たちは、アメリカ陣営からロシア・中国陣営への乗り換えを本気で検討している可能性がある。

また、先のロシア・中国の共同通貨構想を踏まえると、実際には人民元ではなく「新共同通貨」建てで売ることを見据えている可能性がある。

「信用」というファンタジーにしか基づかず、アメリカの意向一つで消し飛ぶドルよりも、「モノの価値」という確実な価値に基づく新共同通貨の方が、親米から非米になろうとするサウジにとって安心だ。

いずれにせよ、「石油が買える唯一の通貨(ペトロダラー)」というドルの価値は低下するし、さらに、ロシアへの金融制裁で「準備通貨」「国際決済通貨」としてのドルの価値も低下している。

このように、「みんなが使う・モノ(石油)が買える」という信用に基づくドルの価値が低下していく中での利上げ&QEバブル崩壊となると、ドルの信用が劇的に低下して「ドル崩壊」へと繋がる可能性は否定できない。

まさにウクライナ危機の目的に掲げる「アメリカ覇権縮小」「国際金融資本の凋落」が達成されることになる。

アゾフ連隊報道や5月までの和解報道は、ゼレンスキー大統領に対する「それまで降参しちゃダメよ」メッセージなのかもしれない。


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