ドルの崩壊

アメリカの金融危機と終了に追い込まれる日銀QE

ドルの崩壊

6月10日に、アメリカで5月のCPI(消費者物価指数)が公表されて以降、金融市場が騒がしかった・・。

直近のアメリカCPIは、

3月 8.5%
4月 8.3%

とやや低下して推移していたため、インフレピークアウト期待により5月も8.3%くらいやろ・・との事前予想だった。

ところが、8.6%とまさかの3月超えとなったため、金融引締めが加速する可能性が高くなったことを受けて、金融市場は大暴落となった。

とは言え、バイデン政権はインフレをプーチンのせいとやら船会社が運賃10倍にしてるせいとやら言っているだけで特段の対策をとっていない。

サウジにも増産を頼み込んだものの、塩対応に終わっている。

以下はWTI原油の日足チャートだが・・

20220615WTI原油日足チャート

原油価格は高値圏で推移しており、全く収まる気配がない。

なお、高騰は食糧・エネルギー・鉱石等全般に及んでおり、発端となったロシア制裁は見事なまでの逆制裁となっている。

こうした状況を踏まえると、インフレがピークアウトしているワケがなく、CPI事前予想が甘すぎただけと言え、昨年まで「一過性のインフレ」と言い張ってたのと同じくインフレピークアウトもただの願望に過ぎなかったと言える。

さらに、同日発表のミシガン大学消費者信頼感指数は、事前予想の58.8を大幅に下回る50.2となっており、アメリカの消費者マインドが著しく弱くなっていることが明らかとなった。

景気が悪くなっているのに金融引締めが加速する・・こんな状況を前にしたマーケットは阿鼻叫喚となった。

マーケットの流動性は著しく低下しており、買い手不在の状況となっていることが伺える。

また、ブルームバーグの記事では、ソシエテ・ジェネラルの米金利戦略責任者のラジャッパ氏の言葉として、

一部の顧客はこれほどの売りの理由が分からず困惑していたという。「この大きな動きの原因が何なのかを解き明かそうとしているが、はっきりとは分からない」と述べた。

とあり、買い手不在の中でパニック売りの連鎖が起こっていたことが伺える。

ダウ平均を見ると、CPIが公表された6月10日と翌営業日は800ドル級の下げとなっておりその下げ幅は半端ない。

20220614DJI日足チャート

なお、CPI公表日の数日前からダダ下がりとなっており、恒例の指標お漏らしも疑われるところ。

また、月足チャートでみると分かりやすいが、現在のダウは2020年末~2021年初頭の水準まで落ち込んでおり、コロナ後を見越していた2021年の上げは既に消失している。

20220614DJI月足チャート

もはや景気後退確実と言ってもいいような気がするが、イエレン財務長官は否定する。

さらに、イエレン財務長官はインフレ対策最優先としており、「景気後退してないし、どんどん金融引締めまっせ~」と意気込んでいるようにしか聞こえない。

ただ、インフレの原因については、コロナによるサプライチェーンの混乱とロシア制裁によるエネルギー等コモディティ高騰によるものなので、金融引締めて収まるものではないし、単に金融市場から資金が抜けて景気が悪化するだけだ。

つまり、現在の米政府・FRBの政策はスタグフレーション一直線となっている。

ともかく、イエレン財務長官の意気込みとCPI上振れ(とミシガンの結果)を受けて、既に史上最速ペースの金融引締めがさらに加速することを見込んだ市場では、「利上げ」の話で持ちきりとなっている。

先週までは6月と7月に50bp(0.5%)ずつの利上げがコンセンサスとなっていたが、CPIの結果を受けてさらなる利上げ論が急速に台頭している。

今週予定されているFOMCにおいて、75bp(0.75%)の引き上げとなる可能性が非常に高くなっているとか。

あのゴールドマン・サックスも75bpの利上げを予測を出しているほか、JPモルガンさんは75bpは確定でサプライズ100bp(1%)あるかも・・とする。

ただ、以前に「金融危機が見えてきたアメリカと日本バブル」で紹介したように、5月のFOMCでの50bp(0.5%)利上げは、ITバブルに沸いた2000年以来となる大幅利上げだった。

それをさらに上回る75bp・・そして100bp・・この利上げだけでアメリカ経済は逝ってしまいそうであだ。

なお、既に崩壊の端緒が見えているのが住宅市場だ。

直近のケース・シラー住宅価格指数(2022年3月分)は、中古住宅在庫の逼迫や木材価格の上昇により前年同月比19.5%の上昇となっているが、この堅調そうな住宅バブルに崩壊の気配が見えて来ている。

これは、30年固定の住宅ローン金利だが・・

202206住宅ローン金利

・・昨年12月には3.1%程度だったところ、現在は5.2%とコロナ前を上回る水準まで急激に金利が上昇している。6月・7月の利上げは確実なので、住宅ローン金利は7%を超えることが予想される。

この高金利な住宅ローンを組める人は減っており、住宅の新規購入・乗り換え需要は後退している。

さらに、サブプライム層の皆様の住宅ローン返済も懸念されるところだ。

2008年年のサブプライムローン破綻を契機に、住宅ローンの返済を猶予したり強制的な立ち退き禁止の法令が制定されたもの、大半の州で失効している。

つまり、住宅ローン返済で飛んでしまったサブプライム層の保有する中古物件が大量に出回ることになる。

住宅ローン金利上昇と住宅需要の減退、さらに大量の中古物件の市場放出により住宅の価格破壊が進むことが予想される。

住宅市場におけるバブル崩壊が懸念されるところであり、第二のサブプライムショック待ったなしの状況だ。

さらに労働市場の縮小が始まっており、大規模なレイオフや給与削減が横行し始めている模様だ。

コロナ給付金で生活してた人やコロナを恐れて引きこもっていた人が社会復帰したためだろうか・・労働市場は過剰気味の様子だ。

これで、「景気後退の可能性が低い」と言う方が無理だろう。

以前に「コロナ危機の終わりは金融危機と仮想通貨バブルへと繋がる」でも紹介したように、アメリカの金融市場はQE資金により支えられていた。

従って、QE停止だけでも金融市場は死にそうなのに、イエレン財務長官のインフレ最優先政策による史上最速ペースでの引締めはオーバーキルどころか死体蹴りレベルと言える。

こうした状況を受けて資金が流入しているのが、ドルであり、ドル以外は全部売れ状態になっているとか。

これを地で行っているかのように、ドル円は135円の節目に到達した。

以前のブログ記事で紹介したように、いよいよ超絶円高が始まるかと思ったがら結局は円安基調へと戻っていった。

20220615ドル円日足チャート

ただ、「ドル以外全部売れ」にしては大してドル円は上がっておらず、FOMC待ちの様子が伺える。

いずれにせよ、この急速な円安進行を受けて、財務省や日銀は対応する姿勢を見せている。

まあ、対策の具体的な中身は何も無いので、やってる感を出しているだけなのかも。

なお、「介入」の言葉も見受けられるが、インフレ対応最優先のアメリカはドル高を歓迎しているハズなので、日銀の円買いドル売り介入に賛同することは無い。

この記事の中で気になるのは、

神田氏は円相場の動向に関して「1日に何円も動いたりするのがファンダメンタルズに沿ったものかというと、そうではないという人が多いと思う」と述べた。

の部分だ。

今の円安は、必ずしもファンダメンタルズを反映していない・・とでも言いたそうな感じだ。

しかし、この円安の進行は、金融引締めに転じたアメリカとは逆に、日本が金融緩和による「通貨安政策」を継続しており、特に国債金利0.25%を死守ラインとした日銀の買入れオペは、金融緩和継続の強いメッセージとなっている。

また、アメリカの史上最速の金融引締めはドル高要因ともなっており、先に紹介したように「ドル以外全部売れ」状態となっているため、円安であると共にドル高ともなっている。

日足チャートベースでメジャー4通貨の強さを見ても、

ドル >> ユーロ > ポンド >> 円

となっており、最強ドルに対して円は圧倒的最弱通貨となっている。

また、急激な円安となっておりボラは大きいものの、「1日に何円も動いたりする」ような動きでは無く、ファンド勢による怒涛の円売りという感じでもない。

総じてファンダメンタルズどおりの値動きと言える状況であり、この「ファンダメンタルズ発言」はちょっと引っ掛かる。

それと関係があるかは不明だが、6月13日に日本国債10年の金利が日銀の死守ラインの0.25%を超えてきた。

チャートを見ると明らかだが、一時的に0.337%まで上昇している。

20220615日本国債日足チャート

この金利急騰に対して、日銀さんは買い入れ額を増額や購入債券の種類を増やすなどの臨時対応をしている。

この対応により金利は落ち着いたものの、日銀は「翌日に買い入れしまーす」とするなど緩和姿勢を強調しないように気を使っており、強い態度には出ていなかった。

しかし、この一件にはナゾが多い。

天下の日銀様が0.25%価格で買うと言ってるのにも関わらず、それより安値で売ったということであり、そこに経済的合理性は無い。

にも関わらず、この日を境に金利は0.25%を超え気味で推移している。

と言うことで、誰が、何の目的で・・と思っていたところ、ブルームバーグから面白い記事が出てきた。

一部の海外勢は、日銀の金利コントロール能力が長くは持たないと見ているようだ。

ブルームバーグの記事の最後にあるように、基本的には天下の日銀様の国債買い入れ能力に限界はないとの見方はあるものの、実際に一部の海外ファンド勢は日本国債ショートポジションを積み上げつつあるようだ。

この状況からは、実は日本の低金利は既に実態と乖離していることが懸念される。

今のところ、アメリカやEUと比べて日本の消費者物価指数の伸びは小さく、日銀が金利をあげる状況にはないとされる。

ただ、サプライチェーン混乱やコモディティ高騰でインフレになるのは世界共通であり、日本でも国内企業物価はガッツリ上がっている。

今年5月分は前年同月比で9.1%となっており、15ヶ月連続で上昇しているとか。

かつては「卸売物価指数」と呼ばれたこの指標の上昇からは、実は日本でもインフレが進行しているものの、消費者物価に転嫁されていないだけ・・となっている状況が伺える。

インフレとは物価高であると共に通貨安でもあることを踏まえると、インフレ分(=通貨価値が下がる分)は金利上昇させないと、貨幣価値はどんどん目減りする。

構造的にドルが強くなる一方で、円は「QEによる通貨安誘導」「インフレ放置による通貨安誘導」をしていることになり、先のファンダメンタルズの話に戻ると、本来ならもっと円安でもおかしくないと言う可能性もある。

いずれにせよ、本来はインフレしているべき状況(インタゲ達成)において日銀QE(国債買い入れ)が続いている可能性があり、海外ファンド勢はこの点に注目しているようだ。

ゼロヘッジさんは、ファンド勢が画策する日本国債売りに日銀は耐えられないと見ているようだ。

アジア通貨危機の時は、猛烈な円買いに対して日銀砲を炸裂させ、多くのヘッジファンドを葬ったとの逸話を持つ日銀だが・・その威光は既に無いのか。

もしかしたら、先日の国債金利の0.25%突破は、ファンドのお試しテストだったのかも。

この状況で思い出されるのは、1992年のポンド危機だ。

1992年当時、ポンドは欧州通貨とペッグしていたが、欧州経済が好調な反面、イギリス経済は低迷していた。

欧州通貨とのペッグを続けるため、イギリスは無理やり利上げしてポンド価値を維持していたものの、イギリス経済は冷え込んでしまい、結果としてポンドは経済の実力以上の価値を持ってしまっていた。

ここに目をつけたのが「市場は常に間違っている」が信条のジョージ・ソロスであり、分不相応な価値を持つポンドを猛烈に売りまくった。

イングランド銀行は利上げ・ポン買い介入したものの、数日で屈服して変動相場制へと移行した。

なお、同じ構造でアジア通貨危機も起こっており、経済の実力と通貨価値が乖離している場合は、ヘッジファンドのターゲットとなりやすいと言える。

もしも日銀がQEを放棄すれば、インフレ度合いに応じた国債金利の上昇と共に、過度な円安の修正により急激な円高に振れる可能性が高い。

特に今は円ショートがたんまり積み上がっているだろうから、円ショートのロスカットを燃料に怒涛の円高になりそうだ。

同時期のアメリカでは、過度な引締めにより金融危機によりドルがピンチとなっていることが想定されるが、QEを終了した日銀にドル買い余力は残っていないため、ドル崩壊の可能性が高まる。

もしかしたら、一時的に日本に資金が集中することになるかもしれない。

それが、このイルミナティカードの暗示なのか・・。

bank merger

ただ、以前にも紹介したように、日銀は国債金利を上げることで債務超過のピンチとなるため、一通り円高に触れた後は、デフォルト街道一直線となるだろう。

その後は、「ロシアの金・資源本位通貨は新世界秩序に向けたグレートリセット」で紹介したような展開となっていくのだろうか。

こうして見ると、全ての発端はインフレレベルを完全に見誤ったバイデン政権であり、グレートリセットの不可逆的な開始という役割をしっかりと果たしていることが分かるな・・。(ウクライナ情勢の転換と役割を終えたバイデン政権


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