10月21日の金曜日深夜、日銀(財務省)が円買い・ドル売り介入した。財務省は介入の有無についてノーコメントを貫いているものの、あまりに急激に動いたことから介入は明らかだ。
円、対ドルで急騰 一時144円台 日本当局が介入実施か https://t.co/HPmBq118fG
— ロイター (@ReutersJapan) October 21, 2022
150.1円付近からスタートした10月21日のドル円レートは、17時のロンドンタイムになると急伸し始め、21時半過ぎには151.94まで上昇した。
前一週間の値幅は約5円幅となったことで、財務大臣が言い続けていた「過度な変動」に該当したようで、21日23時半ごろからドル円は急落し始めて、高値から5.7円安となる146.18円まで下落した。
なお、上記ロイター記事には、
円は一時144.50円まで急騰。ニューヨーク時間に入る前に付けた32年ぶりの安値151.94円から7円以上上昇した。
とあり、インターバンクでは一瞬かもしれないが、144.5円までの下落となったようだ。実に7円幅・・・。
以下は21日のドル円30分足チャートだ。
こちらはインターバンクではないので、最安値は146.18円だ。念のため。
それでも、わずか足3本(90分)で5円幅の暴落となっていることが分かる。
先日のブログ記事で日銀のステルス介入疑惑を紹介したところだが、今回の介入は9月22日以来となる誰の目にも明らかな大規模介入だったようで、何と300億ドル(約4.5兆円)もの資金が投下されたとか。
日本は先週、円買い介入に300億ドル余り費やした公算大-報道 https://t.co/oLlHyVDkaW
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) October 23, 2022
前回の介入が200億ドル規模だったので、今回は1.5倍規模の介入となる。先週辺りのステルス介入疑いも含めると・・
と言ったところか。
ただ、今回は150.4円を超えた辺りからの上昇ペースは「ここで介入せんでいつするんや」的な早さだったことから、介入を予測していた人は多かったようだ。
上の30分足チャートを見ると、高値更新(151.94円)した21時30分以降は、151円スレスレ~151.6付近をウロウロしている。先にも触れたが、前一週間の値幅が5円を超えており「過度な変動」に該当する可能性が出てきており、撤退利確した人が多かったことが伺える。
土日のポジション持ち越しを嫌う人もいただろうし。
と言うことで、予測可能な介入だったもののその効果はかなり高く、上で紹介したロイター記事に、
TDセキュリティーズのイッサ氏は、ロンドンのトレーダーが週末に向けて帰宅する「非常に流動性が低い時間帯」に介入が行われたと指摘。「投機筋に対し可能な限り多くの痛みを与えるよう設計されているようだ」と述べた。
とあるように、介入タイミングの絶妙さもあって、ファンド勢へのダメージはかなりのものとなったと絶賛さるている。
そもそも、ヤンキータイムに突入した23時台に介入さく裂しているが、あまりに意外なタイミングと言える。
と言うもの、9月22日の円買い・ドル売り介入はもちろんのこと、2012年の円高局面で実施された円売り・ドル買い介入も全て「東京タイム」に実施されているからだ。
元モルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)の日本支店長にして伝説的ディーラーとして名を馳せ、最近ではオオカミじいさんとしても名を馳せる藤巻健史氏も、日銀(財務省)介入は基本的に東京市場において実施される旨を指摘している。
介入では他人のテリトリーに土足で踏みこむことはしない。日銀の介入(財務省の決断とお金)は通常、東京市場のみで行われる。他国市場での介入は委託介入だ。ドル売り介入ならFED に委託しての介入だ(もちろんお金は財務省保有のドル)(続)
— 藤巻健史 (@fujimaki_takesi) October 13, 2022
日銀がヤンキータイムに介入しようとする場合には、アメリカ様にカネを渡しての介入委託となるため、アメリカの協力が無いと介入出来ないため、基本的には東京市場での介入となるとか。
つまり、今回のヤンキータイム介入は、前回(9月22日)の介入と異なりアメリカが介入に極めて協力的であり、ある意味で「国際協調」な部分が見受けられるものとなっている。
ただ、アメリカ・バイデン大統領はドル高で何も困っていないやで・・と発言をしていること、
ドル高「懸念していない」 - 米大統領、円安要因の可能性もhttps://t.co/CwYSu4OYCd
— 共同通信公式 (@kyodo_official) October 16, 2022
そして、この発言が日本を念頭に置いたもので、「円安は日本のせい」「アメリカはドル高が良い」「介入するな」と言っているだろうことは「日銀の金融緩和政策が終わってバブルに?」で紹介したとおりだ。
なので、ドル円ロングに突っ込んでいたファンド勢にとって、そもそも介入事態が「まさか」なのに、それがヤンキータイムだったことで二重に「まさか」だったと言える。
ファンド勢は、東京市場で151円に迫る勢いで上げても介入が無かったため、調子に乗ってロンドンタイムで152円手前まで吊り上げたところ、ヤンキータイムでまさかの5円(7円?)幅の暴落を食らった。
ロイターが絶賛するように、ファンド勢の中には週末持ち越して大損を抱えたやつもいるだろうし、介入は東京市場だけでないことを学んで疑心暗鬼になっただろう。
そして、日米協調的な介入の可能性が高い点を踏まえると、ドル高ペース(円安ではない)が鈍化する可能性が出てきていることは留意すべきか。
以下はドルインデックスの日足チャートだ(10月21日終了時点)。
前回(9月22日)の介入時と比べると、今回のドルインデックスは安値引けしているほか陰線の実体も大きくなっており、かなりの「ドル安」となったことが伺える。
なお、10月21日終値ベースでメジャー通貨の強さ比較をすると・・
円 >> ポンド ≧ ユーロ >> ドル
となっており、日銀介入や利上げ鈍化報道によって、円高となっているだけでなく、ドル安の展開となっていたことが分かる。
さらに今回のドルはコモディティに対しても弱くなっている。以下は金ドルの日足チャート(10月21日終了時点)だ。
ここ最近のドル高に押されていたものの、日銀介入と共に息を吹き返している。
前回(9月22日)の介入時は、気持ち陰線となっており「ややドル高」ですらあったところだが、今回は明らかに「ドル安」となっていることが分かる。
また、利回り高騰が続いていた10年米国債も少し落ち着いた感じになっている。以下は10年米国債利回りの日足チャート(10月21日終了時点)だ。
9月22日の時は米国債利回りは大きく上昇しているものの、今回(右端)は安値引けしており、米国債への売り圧力が緩和されている(利回りは下落)様子が伺える。
さらに、ダウ(10月21日終了時点)も大幅に上昇しており、31000ドル付近のレジスタンスを試しに行く展開となっている。
ダウについては、前回介入時も上げていたが、今回の上げはかなりデカい。
これまでドル買いに向かっていた資金が、米国債や米株に戻っていることが伺えるものだ。
「日銀の金融緩和政策が終わってバブルに?」で紹介したように、日銀の金融緩和については、日銀の黒田総裁の退任と共にYCC(イールドカーブコントロール)などは終了しそうな感じになっていることを踏まえると、アメリカは日銀介入を利用して、「ドル安」転換させたがっている・・との印象を受ける。
実は、介入と同日の21日に、12月に利上げペース鈍化する可能性を示唆する観測記事が、ウォール・ストリート・ジャーナルから配信されている。
Fed officials are preparing to raise rates by 0.75 point next month and debate whether and how to slow the pace of increases after that https://t.co/mNts15JCYG
— The Wall Street Journal (@WSJ) October 21, 2022
記事の概要としては、11月のFOMCでは、75bp(0.75%)の利上げをする議論だけでなく、12月の利上げ幅を縮小する議論がされるかも・・というものだ。
ただ、「FRBの金融引締めは怒涛の暴落と円高、そして日本バブルへ」で紹介したように、パウエル議長はハイペース利上げや毎月950億ドル(米国債600億ドル+MBS350億ドル)規模のQTを予定どおり実施する・・
として、「インフレ抑制最優先で、株価も景気も関係ねーぞ」の方針を強く打ち出している。
パウエル議長には、1970~80年代にインフレ収束前の利下げによってインフレが酷くなり、政策金利20%まで上げざるを得なかったという苦い経験則が頭にあると言われている。
にもかかわらず、直近の雇用統計やCPIがインフレ鈍化を示していない中で、WSJから利上げペース鈍化記事が出てきたことを踏まえると、パウエル議長の真意は「金融引締めたくないっす」なのかもしれない。
なお、前々から紹介してきたように、昨今のインフレはコロナを契機としたサプライチェーンの混乱やウクライナ危機(ロシア制裁・セルフ制裁)による資源高・物資不足による「コストプッシュインフレ」であり、QEマネー氾濫による通貨価値の下落ではないため、金融政策によるインフレ抑制は困難だ。(金融危機が見えてきたアメリカと日本バブル)
つまり、パウエル議長は「コロナ・ウクライナ危機に起因するコストプッシュインフレを、金融政策で抑制するのは不可能」との意見を持っていることになる。
ちなみに、ゼロヘッジさんが指摘するように、FRBではリバースレポ(金融機関からの資金吸収)も同時に進めている。
おそらく今日の金融界で最も重要なチャート pic.twitter.com/WSUApmVq5R
— zerohedge jpn (@zerohedgejpn) October 22, 2022
以前に「FRBのリバースレポはインフレ対策??」で、FRBが保有する(短期)国債と引き換えに金融機関からカネを吸い上げる「リバースレポ」を実施していることを紹介した。
金融機関の当座預金に積み上がったカネを回収していくもので、FRBの財布にはリバースレポ資金が貯まっている・・はずだが、実際にはリバースレポ資金の増加ペースは鈍化しており、時には減少している。
この増減については、以前に日経さんから記事が出ており・・
「銃声が鳴ったら買え」の賞味期限(NY特急便)https://t.co/OeeAhYpqrs
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) February 26, 2022
リバースレポ資金残の減少は、リバースレポ資金が株式市場の買い支えに使われたからとしている。リバースレポ資金の大半は使い勝手の良いMMFなので、再投資は当然の話だが。
と言うことで、FRBパウエル議長は、利上げ・QTを進めつつも、リバースレポ資金を市場に供給し続けており、株価や債権の下支えを継続している。
こうした中で、日銀介入を利用してのドル安誘導は、「市場には潤沢にドル供給しているのに、何でみんなドル買いしかしとらんのや・・」という思いがあるのではないか。
パウエル議長がドル高是正に動く一つの理由は、クレディ・スイスの破綻懸念にあるのかもしれない。
クレディ・スイスは1兆2000億円の資本不足に直面-ゴールドマン https://t.co/FbTkjf3oT7
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) October 11, 2022
クレディ・スイスの破綻懸念が出ているのは、FRBの利上げ・QTを受けた国債利回り急騰など、資金調達コストが激増していることが原因となっている可能性が高いが、FRBは潤沢なリバースレポ資金を市場に供給しているため、(今のところ)大きな金融不安が起こる状況ではない。
なので、今回の協調的な介入を許したFRBの真意としては・・
という市場に対する注意換気であり、ドル買いに集中する資金を米国債に振り向けたい・・といったところにあるのかもしれない。
本日の市況を見ると、ドル円は149円代まで戻しているほか、コモディティ・仮想通貨も弱含みとドル全面高な展開だが、パウエル議長の御意を踏まえるとこのドル高は巻き戻される可能性もあるため注意が必要だ。
だが、黒田総裁が金融緩和を続ける限りドル円ロングの勢いは止まらず、間接的なドル高も止まらない。
「日銀の金融緩和政策が終わってバブルに?」では、日本の金融緩和政策に対する圧力は日増しに高まっていることを紹介したが、世論調査でも「はよ緩和やめーや」が過半数を占めていることが報じられている。
黒田日銀に逆風、世論調査で過半数が金融緩和「変更すべきだ」https://t.co/wKTVTkYuqK
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) October 24, 2022
緩和をやめると、日銀の債務超過や財政破綻懸念によって日本国債・日本円は死ぬことを理解した上での回答なのかは疑問だが、黒田総裁への圧力となっているのは間違いない。
また、日経さんによると日本国債の利回り理論値は1.5%だとか。
円安増幅、危うい国債「管理」 財政・金融拡張でひずみhttps://t.co/Z87P4SALjd
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) October 22, 2022
現状で日銀が抑え込んでいる0.25%との差が円安を加速させている・・との分析が報じられており、これまた黒田総裁への強い圧力となっている感じだ。
また、10月24日のドル円チャート時間足を見ると、介入を疑わせるような動きがチラチラ見える。
疑心暗鬼になったファンド勢が要人発言に振り回されているのかもしれんが、もし介入だとすれば、財務省(日銀)は介入への躊躇が無くなっている感じだ。
アメリカの許しを得たことで遠慮が無くなったのか・・それとも無理やりやらされているのか。
今のペースで介入を続ければ、財務省(日銀)は介入資金(外貨準備の中の現金部分)を早晩使い果たすことになりそうで、どのみち金融緩和の継続は困難となる。
これとパウエル議長のドル高抑制の御意を踏まえると、もしかしたらドル円の上限値が設定されており、日本はそこを超えないように言われているのかもしれない。
以前に「財務省と日銀は為替介入に意味がないと知りつつも介入する」で紹介したように、原田武夫氏が日銀・黒田総裁は日本への簿外資産の流入を妨げている・・としていたことと無関係では無さそう。
さらに、原田武夫氏は、
やはり本日23日に進んだ。今連絡があった。
次は来月初旬。そして来月末には…世界が一気に変わる。私も。#iisia #GnosticRevolution #決戦は来月初旬— 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) (@iisia) October 23, 2022
との意味深ツイートをしており、いよいよ簿外資産の投入時期が近いことを彷彿とさせる。
日銀が緩和終了時期を明示するなど、何らかの形で簿外資産の受け入れ表明をすることになるのかもしれない。これまでの巻き戻し(円高・日本バブル)なるか!?
最後まで読んでくれてありがとう!