ペトロダラー崩壊

FRBの金融引締めは怒涛の暴落と円高、そして日本バブルへ

ペトロダラー崩壊

先日のジャクソンホールでFRBのパウエル議長の講演をきっかけに株価が急落している。

パウエル議長のスピーチは8分間という短さだったものの、「最優先はインフレ抑制や!景気を犠牲にしてもやったる!」という決意が詰まっていた。

この「景気よりインフレ」という方針が明確に示されたことにより、今年の6月のFOMC以降市場に漂っていた「今年は利上げだけど来年は利下げ」という楽観シナリオが崩壊した。

ダウの日足チャートを確認すると、直近では6月17日のFOMCを底値(29653ドル)として反転し、7月14日に2番底を付けたのを最後に上昇&ブルトレンド転換していた。

20220830ダウ日足チャート

6月のFOMCでは0.75%の大幅利上げとなったものの、事前に1%利上げ説もある中で市場の事前予想どおりだったことから「悪材料出尽くし」として株価上昇となった。

その後も、7月28日のFOMCでは利上げペースの減速が示唆された(と市場が受け取った)りして、株高&円高・ドル安のトレンドとなった。

だが、これは全て「市場の誤解」だった。

以前に「リセッション入りするアメリカはQTによりバブル崩壊へ」では

  • 米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁「インフレ目標2%から見て、インフレ率8.5%は高過ぎ。まだまだ利上げする」
  • 7月CPI低下は燃料価格の大幅低下によるもので、食品価格や家賃等は依然として上昇中
  • 食品価格は1979年以来43年間で最高水準・最速ペースで上昇
  • 住宅価格の上昇を受けて、CPI寄与度の高い家賃も上昇
  • CPIの状況は原油価格次第だが、原油は上昇しそう
  • GDP2四半期連続マイナスやレイオフが散見される中でFRBはリセッション入りを認めておらず、金融引締めを正当化して継続する魂胆があるかも

・・と言ったことを紹介したように、元よりFRBは金融引締めの継続が必要と考えていた。

今までは、関係者に気を使ってモゴモゴしていたところだったが、ジャクソンホールでついに言っちゃった・・とった感じなのか、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は株安を歓迎していることが報じられている。

カシュカリ総裁は、昨年まで最もハト派とされていた方だが、今ではタカ派中のタカ派に転向という異色の経歴を持っている。

カシュカリ総裁の見解については、マネースクエアさんの「カシュカリ総裁の「転向」が意味するもの」に詳しい。

タカ派の中のタカ派カシュカリ総裁閣下の御意は・・・

  • 株価の下落、大歓迎である
  • 6月FOMC以降の株価上昇には困惑しておった
  • 市場はFRBの考え方を誤解しすぎじゃ
  • 金融引締め過ぎによる景気のオーバーキル上等じゃ

という感じだ。

FRBがインフレ抑制を最優先とする背景には、1970年代に景気動向(株価)への配慮から引締めを躊躇してインフレ抑制に失敗した・・との苦い記憶があるようで、それが「インフレ抑制最優先やで。株価がどんだけ下がっても引締め続けるで。」との姿勢に繋がっているぽい。

カシュカリ総裁の発言と合わせると、FRBにとって株価下落はインフレ抑制ベンチマークなのかもしれなんな・・・。

いずれにしてもNYダウの直近安値(6月17日29653ドル)は軽くぶち抜くだろう。

なお、各地の連銀総裁さんからも、パウエル議長発言を後押しする発言が相次いでいる。

ニューヨーク連銀総裁さんは、現在マイナス圏の実質金利を中立に戻すため、金利は3.5%を上回るから来年の利下げは無いぞ、との見解を示しているほか、リッチモンド地区連銀総裁さんは「利上げは必ずしもリセッションにつながらない」とするなど、皆さんタカ派となっている。

さて、ここで日経さんが8月上旬に出した記事を紹介したい。

FRBがインフレ対策最優先で利上げを続けるため、円安が続くとの内容だが、ジャクソンホール前に書かれており先見の明を感じる。

この中で気になるのは、

米大統領経済諮問委員会(CEA)のファーマン元委員長はインフレ率を1ポイント押し下げるのに失業率を年5ポイントほど上げる必要があるとはじく。

とある点だ。

今の8%くらのインフレ率を4%に押し下げるとしても、失業率は5×4=20%くらいになる。

景気よりもインフレ抑制の方針なので、これくらいは許容範囲なのだろうか。

リッチモンド地区連銀総裁さんが「利上げは必ずしもリセッションにつながらない」と言っているのを紹介したが、実際にはどの程度のリセッションで済むか・・と言った感じなのか。

なお、FRBのパウエル議長は、80年代初頭に金融引締めしてインフレ抑制に成功したボルカー議長についても言及しており、ボルカーモデルを手本としたいようだ。

となると、利上げに留まらず、金融引締めの大本命となるQT(量的引締め・FRB資産の市場放出・市場からの資金吸収)にも本腰入れてくるかもしれない。

FRBは、6月~8月は月に475億ドル(米国債300億ドル+MBS175億ドル)規模のQTを実施するとしていたものの、「リセッション入りするアメリカはQTによりバブル崩壊へ」で紹介したように、MBS(不動産担保証券)を買い増ししているなど、予定どおりに進んでいない。

そうなると、パウエル議長が「インフレ抑制最優先、株価も景気も関係ねー」とワザワザ念押しした真意とは、9月以降に毎月950億ドル(米国債600億ドル+MBS350億ドル)に拡大されるQTを予定どおり実施するという・・

断固たる決意

・・ということなのではないか。

このダンコたる決意(QT)については、ブルームバーグさんも言及しており、既にリセッション(景気後退)入り疑惑があるほど弱い経済に、さらなる下押し圧力を加える旨の警鐘を鳴らす。

ブルームバーグさんは、QE(市場への資金バラマキ策)はリスク資産含めたあらゆる資産価値を膨張させたが、QTでは反対のこと(=あらゆる資産の収縮)が起こるため、株式・債券含め大変なことになるのに「投資家は無頓着スギ」とキレ気味に指摘する。

この点については、「金融危機が見えてきたアメリカと日本バブル」で紹介したように、QTとは株式・債券市場を支えるQE資金が一気に抜ける「非常事態」だ。

このジャブジャブ資金は、株式市場以外にも住宅市場やゾンビ企業の資金繰りも支えていたため、これが抜けると株価暴落だけでなくMBS(不動産担保証券)やCLO(ローン担保証券)の破綻など、アチコチの地雷が連鎖的に爆発し、リーマンショック以上の金融危機となりかねない。

ちなみに、「中央銀行による金融支配の終わりが近い!?」で紹介したように、リーマンショックの原因となったサブプラ証券の破綻は意図的なものだった可能性が高い。

サブプライムローン自体はハイリスクであるものの、サブプライム証券は10000本くらいの債券がまとめられており、さらに証券そのものはプレミアムも高いため、買った人が元本割れする確率は低く確率論的には安全(AAA格付け)だった。

そんなAAA格付けのサブプラ証券が破綻したのは、サブプラローンが「低所得者を騙して高金利ローンを負わせている」「サブプラローン危険」と報じられたためだった。

これによって、サブプラ証券大暴落→それを担保にしてたヘッジファンド死亡→リーマンも死亡→リーマン関連のデリバティブ崩壊→金融危機となった。

このように、理論上は安全な証券でも意図的に破綻させることは可能であり、何かしらの意図を持ってMSBやCLOを破綻に追い込むことも・・・。

なお、「コロナ危機の終わりは金融危機と仮想通貨バブルへと繋がる」でも紹介したように、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンは、これまでの歴史的な金融危機の原因は「中央銀行による市場からの資金吸収」と指摘している。

日本人だけが知らない戦争論(苫米地英人 著)

ミルトン・フリードマンは、経済とは「需要と供給」ではなく「貨幣の数量」により規定されるとしており、過去のリセッションは「金融引締めによるマネーサプライ減少」が原因としている。

つまり、過去の世界的大恐慌は、中央銀行が誘発したと言っているに等しい。

ミルトン・フリードマンの指摘に従えば、FRBによる金融引締め(特にQT)は金融危機へと繋がる可能性は高い。

しかも、現在はリーマンショック~コロナショックによるQEを経て、市場には天文学的な数量のマネーが溢れているので、資金吸収ペースも異次元のハイペースとなる。

これは、上がりきったところを叩きつけられる・・・

叩きつける

・・なんて状況になることを意味する。

FRBによる金融引締め(特にQT)は、意図的に史上最大級の金融危機を誘発するものである可能性は排除できない。

さらに、ブルームバーグからは、財務省短期証券の圧縮が始まるので「どうなるや分からんぞ」との警告記事が出ている。

この短期証券の売買動向は、銀行間の短期的な資金融通金利の指標ともなっており、売りが多ければ金利は上がる・・となると、2019年に話題になったレポ市場の混乱再び的な事態にもなりかねない。

あるべき時にカネが無ければ銀行とて破綻するが、そんなことになれば、金融危機一直線だ。

そして、もう一つ気になるのは「ドル高」だ。

ジャクソンホールで金融引締め継続が打ち出されたこともあって、思った以上の利上げ期待からドルが買われている状況となっている。

以下はドル円の日足チャート。

20220831ドル円日足チャート

ジャクソンホール前から、ドル円は7月高値(139.38)に迫る勢いで上昇しており、金融緩和継続の日本円を売ってドルを買う動きが再開しているが、ブルームバーグさんの記事によると、「有事のドル買い」と「円キャリートレード」が原因のようだ。

ブルームバーグさんの記事には、

シンガポール銀行のチーフエコノミスト、マンスール・モヒウディン氏はドルについて、安全逃避先として、またユーロやポンド、円など相対的に低金利の主要10通貨とのキャリートレードの投資先として買われるとの見方を示した。

とあり、低金利な円建てで資金を調達して、それを高金利なアメリカ市場で運用する動きが拡大しているワケだ。

だが、安易なドル円ロング追随は危険だ。

先に紹介したように、FRBパウエル議長の「ダンコたる決意」によってアメリカ金融市場はキナ臭くなってきている。

そもそも、インフレとは物価高であると共に通貨安でもあることを踏まえると、高インフレ通貨のドルよりも低インフレ通貨の日本円の方が価値が高くなってもおかしくはない。

しかも、アメリカでは空前のドル高にも関わらず高インフレとなっていることから、ドルは「超過剰評価のバブル状態」となっている可能性が高い。

この壮絶なギャップは、FRBのダンコたるQTをきっかけとしたドルバブルの崩壊(=超絶円高)という形で是正されるかもしれない・・という点には留意したい。

なお、2007年にサブプライム問題が本格化し始めると、ドル建て資産を中心に売りが相次いで世界的株安となっただけでなく、円キャリートレードの手仕舞が加速してドル安(=円高)が急速に進行した。

ドル円の月足チャートを見ると、リーマンショックの1年前から急速に下落(円高)に転じていることが分かる。

2007USDJPY

世間は「リーマンショック」で大騒ぎになったが、市場ではその1年前から動きは出始めていた。

当面はドル円ロングでいいかもだが、ジャクソンホール以降は全然上値が伸びない点も気になるところで、クジラさんは撤収を始めているのかもしれない。

上げが高いほど下げも深いからな・・。

と言うことで、FRBパウエル議長のダンコたる決意からは、アメリカの金融危機+超絶円高のニオイがしている。

そして、この超絶円高の見込みからは「ロシアの金・資源本位通貨は新世界秩序に向けたグレートリセット」や「フィリピンでのマルコス王朝復活と金融システムの転換」で紹介した簿外資産の日本流入の話を思い出す。

原田武夫氏の動画はこれとか・・

これ。

原田武夫氏によると、「簿外資産」とは人類を未曾有の厄災から救うための大規模資金=人類資金であり、その投入時期が近づいているとか。

これらの動画で語られているポイントをまとめると・・

  • 簿外資産の受け皿となる日銀は、莫大な額を円転する必要があるため、今のところは円安誘導を続けている。
  • 日銀が莫大な額の簿外資産を円転するほか、「世界中の人が円を持たなければならない状況となる」ため、強烈な円高となる。
  • 日本に流入した資金により、株式や不動産などは壮絶なバブルとなる。
  • ただし、人類資金ともいえる簿外資産は日本には滞留せず、事前に決まっている世界の様々なプロジェクトに回されることになる。
  • 日本は、壮絶な円高・バブル局面を経て後にひっくり返ることになる。

・・とこんな感じだ。

円安については、「ヘッジファンドの日本国債売りは、円安誘導のため!?」で紹介したように、ヘッジファンドや元財務官が煽ってきたものの、そろそろ頭打ちとなっており、さらにアメリカのQTによって超絶円高が見え始めた・・・と言うことは、簿外資産投入時期が近いのかもしれない。

いよいよ来るか、日本バブル。


最後まで読んでくれてありがとう!