前回の記事で、アメリカがシリアから撤退した代わりに、ロシアがきて問題のトルコやクルド人の問題に一定のケリをつけた形となったことをまとめた。
【世界構造の変化】アメリカのシリア撤退により、中東はロシア・イランの影響下に入る
今回は、その後の展開だ。この件は、本当に展開が早いので、ちょっと以下にまとめてみた。前回の記事の中で書いた、シリアに関する展開のまとめ。
- クルド人勢力(YGP)は、アメリカの後押しもあって、シリア・トルコ・イラン・イラクにまたがる独立国家の設立を考えていた。
- このため、トルコではクルド人独立問題は国家レベルの問題であり、YGPはテロ組織として指定されている
- シリアの内戦にトルコが反政府勢力側についたのは、アサド政権とクルド人勢力(YGP)が対ISで手を結んでいたから。
- クルド人勢力(YGP)は、トルコと国境を接するシリア北部の都市を事実上支配していたが、ISで共闘したこともあってアサド政権は黙認
- この処置にイラついていたトルコは、アメリカの撤退と同時にシリアに越境しクルド人勢力に向かって侵攻
- アメリカに代わり入ってきたロシアが、シリア軍と一緒にクルド人が支配する都市へ入り、トルコから守ることで話をまとめた。
アメリカがシリアに駐留していた時、アンチアサド政権の姿勢ははっきりしていたが、クルド人勢力を持ち上げるあまりトルコとはうまくいっていなかった。
アメリカの意図としては、トルコやシリアなどに散らばっているクルド人が独立国家を建国することで、イスラエル建国時のように、中東地域でのさらなる混乱を引き起こすことにあったのだろうか。武器もいっぱい売れることだし。
いずれにせよ、アメリカとともにシリア反政府勢力についていたトルコとクルド人の間にあった問題については、全く纏めることが出来ていなかった(その気も無かった?)。
で、その後さらにこんな展開となった。
トルコとロシア、シリア北部のクルド人勢力退去で合意
[ソチ(ロシア)/アンカラ 22日 ロイター] – トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は22日、ロシア南部ソチで会談し、ロシア軍とシリア軍がシリア北東部のクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」をトルコ国境から30キロシリア側に離れた地点まで退去させ、退去後の「安全地帯」をトルコとロシアが共同で警備することで合意した。
一方、米国とトルコが先に合意したシリア北部の停戦合意はこの日1900GMT(日本時間23日午前4時)に期限を迎えた。トランプ米大統領が2週間前にシリア北部からの米軍撤退を発表し、その後すぐにトルコが同地域でクルド人勢力の掃討を掲げて軍事作戦を開始するなど、シリアの情勢は目まぐるしく変化している。
トルコとロシアの合意によると、23日GMT0900(日本時間23日午後6時)にロシア軍警察とシリアの国境警備隊がシリア北部に入り、YPGの退去を始める。YPGの人員と武器などの移動に約6日間かかるとしている。
6日後からは、トルコ国境から10キロ圏内の地域をトルコとロシア軍が共同で警備し、トルコにとどまるシリア難民の安全な帰還についても両国が取り組むことで合意した。
シリアとトルコの国境沿い地帯は何年もの間、米軍がクルド人勢力の協力を得て警備してきたが、今後はこれに代わり、ロシアを後ろ盾とするシリアのアサド政権軍が再び勢力を得ることになる。
エルドアン大統領はプーチン大統領との共同記者会見で「今回の合意は、YPGなどのテロ組織をこの地域から撤退させ、シリア難民の安全な帰還を円滑に進めることを目的としている」とし、「こうした取り組みはシリアの領土保全と政治的な一体性を保証するものとなる」と述べた。
プーチン大統領は今回の合意は「シリアとトルコの国境での極めて緊張した状態の解消に向け、非常に重要」と強調した。
トルコとロシアの合意では、YPGに退去を迫る国境沿い地帯の範囲は、米国とトルコとの停戦合意の対象範囲の3倍以上となった。
一方、前週に停戦合意の交渉に当たったペンス米副大統領は、YPGを主体とする「シリア民主軍(SDF)」の司令官から書簡で、合意した地帯から撤退したとの通知を受けたと明らかにした。報道官によると、ペンス氏はYPGの撤退などの合意内容が履行されたと見なしているという。
SDFの高官は、停戦で合意した地帯からSDFが撤退したことを司令官が確認したと述べた。
プーチン大統領との会談を前に、エルドアン大統領はシリア北東部の国境沿いの地帯に何百人ものクルド人武装勢力が撤退せずに残っていると述べていた。
トルコ民放NTVによると、エルドアン氏はプーチン大統領との会談後も、米国が停戦合意の「約束を完全に果たしていない」と不満を述べていた。
トルコはシリアとの国境沿い440キロに安全地帯を設置することを求めてきた。
ロシア、シリア北部のクルド勢力退去に着手 トルコの作戦終了か
[モスクワ/アンカラ 23日 ロイター] – ロシアとトルコが22日にシリア北部のクルド人勢力の退去で協力することで合意したことを受け、23日はロシア憲兵隊がクルド人勢力の要衝の1つであるコバニに到着した。ロシア政府はクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」に対し、シリア北東部の国境地帯全域から退去しなければ、トルコによる一段の軍事作戦に直面すると警告している。
トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は前日、ロシア南部ソチで会談し、ロシア軍とシリア軍がシリア北東部のYPGをトルコ国境から30キロシリア側に離れた地点まで退去させ、退去後の「安全地帯」をトルコとロシアが共同で警備することで合意した。
ロシア憲兵隊に続き、シリアのアサド政権の国境警備隊もコバニ入りする。ロシアによると、トルコはコバニに軍を派遣しない。
YPG退去には6日かかるとみられているが、退去後はロシアとトルコがトルコ国境から10キロ以内の地帯を共同で警備する。この地帯には長らく米軍が駐留していた。
ロシアとトルコの前日の合意について、クルド人勢力はまだ反応を示していない。また、クルド人勢力の退去を具体的にどのように進めるかについても明らかになっていない。
トルコ国防省は、軍事作戦を実施した地域からYPGが退去を完了したと米国から報告があったことを明らかにし、現時点では対象外の地域で新たな作戦を展開する必要はないとの見方を示した。これにより、10月9日に始まったトルコによるシリア攻撃は終了した公算が大きい。
ロシアが入ってきたことで、シリア・トルコ・クルド人の間にあった問題が一気に解決した。
簡単にまとめると、
- クルド人勢力(YPG)はトルコとの国境近くの都市から撤退する。
- 撤退する範囲は、トルコが米国と合意していた範囲よりもさらに広範囲。なお、アメリカはトルコとの合意を履行せずだった。
- トルコ国内のシリア難民が安全に帰国できるよう、両国が取り組む。
と言うことで、長年のこのエリアの懸案が一気に解決した。
改めて振り返ると、この件はアメリカ・トランプ、ロシア・プーチン、トルコ・エルドアン、シリア・アサドの間で、トルコ国境の都市からクルド人勢力を撤退させるまでをワンセットとして事前に合意が出来ていたのではなかろうか。
もっとも、アメリカでは撤退に反対する人も多いので、ほぼトランプの独断によるものと思われる。
- アメリカがシリア撤退
- そのタイミングでトルコがクルド人勢力へと侵攻
- この侵攻は、クルド人をビビらせてトルコ国境の都市を放棄させるため。
- ロシアが入ってトルコを一旦は静止。
- クルド人勢力には、早く出て行かないとマジでヤバイ旨を伝える
- クルド人撤退
このような形で、長年のクルド人問題については解決の方向性が示された。クルド人国家構想はイスラエル建国時のように、長期に渡る戦乱の元凶になるのでナシだ。シリアやイラン、イラクなど各国内で国民として生きて行くこととなる。
ロシアとイランも関係が良好であり、中東エリアの大部分はロシア・イランの影響下に入った。
今後、ロシア・イラン勢力下に入りそうなのがエジプトだ。
エジプトでは、2012年6月にアラブの春の流れで民主的な大統領選挙が実施され、その結果「ムスリム同胞団」からモルシが当選し、大統領となった。
ムスリム同胞団は、名前だけ聞くとテロ組織と勘違いするかもしれないが、かなり穏健的な団体だ。昔は過激派だったけどな。今では慈善活動などを軸としていて、エジプトだけでなくヨルダン等でも民衆の支持を背景に勢力を拡大しているぞ。ちなみに、親分はハマスという、ちょくちょくイスラエルへのロケット砲攻撃をやってる組織だ。
なお、ハマスもムスリム同胞団もイランと仲が良い。というか、イランの後押しを受けている。
さて、エジプトのモルシだが、選挙で選ばれたにも関わらず1年ほどで軍によるクーデターで政権を追われることとなった。なお、アメリカはこの動きを歓迎した。アラブの春とは何だったのか…。
その後、ムスリム同胞団は弾圧され今に至っている。
しかし、エジプトではデモが頻発している。
エジプトでまた反政権デモ、大統領支持者によるカウンターデモも
このデモで、現政権が倒されるようなことになると、エジプトに再びムスリム同胞団の政権が復活する公算が高い。この民主化の流れが波及するとエジプト外にも飛び火していき、各国にいるムスリム同胞団の力が強くなる。ムスリム同胞団の背後にはイランがいるので、事実上イランの影響の及ぶエリアがかなり広がる。
現状のイラン・イラク・イエメン・シリア・レバノン加え、エジプトやパレスチナ自治区にも影響力が拡大していくだろう。当然、イランと仲が良いロシア・中国の影響しかりだ。
こうして、中東はサウジアラビアやイスラエルといった親アメリカ国家中心から、イランはじめロシアとの結びつきの強い国家が中心となっていく。
イラン・ロシアを中心とした方が、クルド人問題一つとっても現実的に解決していくので、中東は今よりもずっと安定し持続的に発展していく可能性が高いだろう。
中東から、急速にアメリカ覇権が撤退している。
これまでの記事にも書いてきたが、この背景には「ドル崩壊」があるんじゃないだろうか。
基軸通貨ドルを使用する「ドル経済圏」を縮小し、今後予想される「金融危機」の影響を最小に抑えるとともに、ポストドルの新しい世界を早期に立ち上げるためではなかろうか。
元キャリア外交官の原田武夫氏によれば、マーケット暴落(=金融崩壊?)は11月下旬ごろから始まりそうだ、ということに加え、日本のデフォルトも予測している。
今後は株や債券さらには現金といったペーパー資産は、真っ先に崩壊していく資産だろう。資産という点では、基本に立ち返り、有史以来、常に価値の基準となっていた金(ゴールド)を備えておくことが必要だと考えているぞ。
各国の中央銀行も、金(ゴールド)の保有量を増やしている。過去記事を参考にゴールドを備えることを検討してほしい!