世界の金融システムが「破綻」に向けて大きく動きそうな状況となっている。
まずは金価格の動向だ。
以前に「バーゼルⅢで金と仮想通貨は爆上げ そしてドルは崩壊・・世界統一デジタル通貨へ」で紹介したが、来年(2022年)1月1日からバーゼルⅢ規制が完全適用され、金融機関による金などの貴金属売りに制限がかかることになる。
この規制は、EUでは6月末に適用されているが、金価格を牛耳るイギリス(ロンドン市場)では2022年1月1日から適用されるため、「金価格が上がるんじゃね」と言われている。
しかし、「金」は根源的な価値を持っている。
そういった意味では、信用で成り立つ「ドル」の対極にあると言え、その関係性は「金価格上昇」=「ドルの価値(信用)低下」となる。
つまり、金価格が過度に上がってしまうと、ドルの信用不安に繋がる可能性が出てくる。
ちなみに、コロナ危機により経済対策や所得補償の名目で、莫大なドルが実体経済に投入されている。実際に、アメリカ国内で流通するドル現金・預金量の推移(M1)がこれ。
1990年以降、QEの期間も含めて通貨の量にはあまり変化がなかった。
だが、コロナ危機が本格化した2020年以降、米国内で流通する貨幣量(現金+預金)がハネておりコロナ危機対策の名目で異次元レベルのカネが実体経済に投入されていることがわかる。
リーマンショック以降のQE(量的緩和)政策で市場に供給された莫大なマネーの大半は金融市場に留まっており、幸か不幸か実体経済に投入されておらずドルの価値は希釈されていなかったが・・。
そして、現在はインフレが止まらなくなっている。
【10秒回顧②】2021年🇺🇸インフレ
インフレはことしの金融市場、米経済のキーワードでした。歴史的なインフレがどこまで続くのか、FRBも含め、正確に見通せません。金融政策も左右するため、年明け以降も金融市場のホットトピックです pic.twitter.com/KardRTL5Rk— 後藤達也(日本経済新聞) (@goto_nikkei) December 24, 2021
これは、「世界で同時多発的にインフレの兆候 金融危機へのカウントダウン!?」などで紹介したようなサプライチェーンの混乱やエネルギー供給問題など「コストプッシュ」だけでなく、急激なドルの価値希釈も大きな要因となっている可能性がある。
FRBは、サプライチェーン混乱によるインフレ及びその長期化をようやく認めたが、もしかしたらドルの価値希釈を言いたくないだけなのか・・?
ただ、ドルの価値が希釈されているならば、不変の価値持つ金(ゴールド)はドルに対して爆上げしているのが本来の姿と言える。
で、金価格のチャート(週足)を見ると・・
リーマンショック以降、QEに伴い上昇したもののその後は停滞。2020年に入り、米国内の貨幣流通量の激増に合わせるかのように急上昇して2000ドル/オンスの大台を付けた後、1800ドル前後で落ち着いている。
とりあえず、全然爆上げしてない。
これは、QE資金で金先物を売ることで、金価格を意図的に抑制してきたことが強く疑われる状況だ。そして、来年1月1日以降はそれが困難となる・・・。
つまり、巷で言われるような金の爆上げが近い可能性があるのは間違いない。
金の日足チャートを見ると・・
11月上旬頃の上昇トレンドと同じように、ボリバン上限をはみ出しつつ移動平均もブルトレンドのパーフェクトオーダーとなるところであり、極めて堅調な動きとなっているのが分かる。
また、直近では1830ドル辺りと1900ドル前後にレジスタンスがあるように見受けられるので、この辺りを超えると再度2000ドルチャレンジが見えてきそう。希望は高く10000ドル位を期待したい。
「金がまたまた高値更新!そして、限界に達したドルの崩壊が見えた」で紹介したように、資産運用を手掛けるプライベートバンクの皆さんも金保有を推奨していたが、バーゼルⅢ規制により大口の金売り勢が消えるのを見越していたのかもしれん。
ただ、以前にも紹介したように、国際金融資本の皆様は、自分たちのチカラの源泉であるドルの信用低下に繋がる金価格上昇を黙って見過ごすことはない。
多分、金に流れる資金を「デジタルゴールド」たるビットコイン等の仮想通貨へと誘導することになるだろう。
その準備なのか、仮想通貨は全般的にかなり好調だ。
以下は仮想通貨の時価総額チャートだが、基本的に右肩上がりなのが分かる。
特に2020年末以降の上げ方が凄い。
また、仮想通貨は将来の「デジタル通貨」の広告塔としての役割もあることから、今後もしばらくは上昇が見込まれる。ビットコイン等の仮想通貨の保有は、当面の資産価値の希釈対策として有効かもしれん。
・・とこのように、金価格の上昇・仮想通貨上昇の裏側では「ドルの信用低下」がいよいよ表に出ることが懸念される状況となっている。
このドルの信用低下に連動して、中国・ロシアによりSWIFT(国際銀行間通信協会)を介さない貿易決済システムの利用を推し進める話が出てきている。
ロシアトゥデイ(国営放送)が報じたところでは、中国・ロシア首脳会談において、アメリカの経済制裁が強まっていることを受けて、ドルを使わない貿易
Kremlin reveals new independent Russian-Chinese financial systems https://t.co/kZoIkWo73w
— Jan Nieuwenhuijs (@JanGold_) December 15, 2021
ちなみに、SWIFTとはベルギーの民間企業ながら、世界の銀行をつなぐ唯一の決済システムであり、ドル建て決済が常識となっている中ではSWIFT以外の国際決済方法はほぼ存在しない。
そして、SWIFT送金は必ずアメリカ連銀を経由するためアメリカ政府に筒抜けであり、過去にもイランなどが閉め出されたようにアメリカ政府の一存で送金停止させられる。
つまりSWIFTとは国際決済通貨としてのドルの価値を担保しているだけでなく、国際決済体制を支配するアメリカ覇権を維持するためのツールとなっている。
なお、本拠地のベルギーはヨーロッパ王室の気配が強く、まんま国際金融資本や支配者層の威光が強いところだ。
さて、中国・ロシアのSWIFTからの独立の動きは、何かとアメリカから敵視されがちな両国がアメリカの制裁でSWIFTから追放された際の準備とされているが、それは違う。
イランなどと異なり、中国はアメリカや日本はじめ西側諸国最大級の貿易相手国だし、欧州はロシアの天然ガスに頼っている。つまり、SWIFTから中・ロを閉め出して困るのはアメリカや欧州自身だったりするからな。
同じことはブルームバーグも指摘する。
ロシアを国際的な決済システムから追放することは欧州に問題を引き起こす=ブルームバーグ https://t.co/YaGwH9dCOY
— Sputnik 日本 (@sputnik_jp) December 17, 2021
「てめーコラ、中国とロシア!お前んとこの銀行SWIFTから閉め出すぞ」と脅したところで、閉め出すことなど不可能なのが実態だ。
つまり、中国ロシアは、閉め出される恐れのないSWIFTから敢えて脱退しようとしていることになる。
なお、中国は独自の銀行間送金システムであるCIPS(クロスボーダー銀行間決済システム)を既に構築しており、一帯一路戦略に参加するアジア・アフリカ諸国に加えて日本も参加するなど、既に約90ヵ国が加盟する一大ネットワークとなっている。
このCIPSの決済額は公表されていないものの、参加規模などから考えると相当な額になっていると見られ、既にSWIFTの代わりとなり得るものだろう。
こうして見ると、中国ロシアはアメリカの制裁を恐れているのではなく、自らの意思でドル体制から離脱しようとしていることが分かる。
なお、この点についてはワシントンポストが、中・ロの3段階の脱ドル計画を指摘している。
China and Russia announced a joint pledge to push back against dollar hegemony. Good luck with that. I don’t imagine many will heed their call and rush to convert their money in Rubles or Renminbi https://t.co/Wvecv6mmhq
— Bill Browder (@Billbrowder) April 11, 2021
ワシントンポストによると、
第1段階は、中露間貿易で自国通貨の相互決済を優先してドル決済を減らす。
第2段階は、世界の30か国以上と相互協定を結ぶなど人民元決済を拡大、米国債とドルの保有量低減、デジタル人民元の利用拡大により人民元を国際化する。
第3段階として、中ロ連携により、SWIFT以外の国際銀行間送金システムを作る。
という脱ドル3段階計画だ。
これを見ると、どうやら今は第3段階の仕上げのようで、バーゼルⅢ完全適用によるドルの信用低下が見込まれる中で、国際決済通貨としてのドルの地位を脅かそうとしているかのようだ。
あるいは、来るべきドル崩壊・金融崩壊を見越した備えなのかもしれないが。
いずれにせよ、ドルの国際決済通貨としての役割低下により実需面から必要性が低下し、さらに信用低下となればドルの地位は安泰では無い。
さらに、「FRBはインフレ対策に本気だが、アメリカ政府はインフレを促進」で紹介したように、インフレ悪化を受けてFRBはテーパリングを加速する。
だが、FRBは米国債市場最大のビッグプレイヤーであり、金融市場への資金提供者だった。
FRBの資産の膨らみ方を見ても・・
国債買入れ規模は、いつ見ても凄い。
このFRBの国債の大量購入により米国債金利は抑えられてきたし、米国債も安定的に消化されてきた。
これでテーパリングにより資産買入れゼロになっても、ちゃんと消化されるのかは心配だ。また、市場に溢れるジャブジャブマネーの供給が減るため、株価下落などマーケットへの影響も心配だ。
折しも、バイデン大統領肝入りの1.7兆ドルの歳出法案(Build Back Better)は、身内の民主党から造反議員が出たことで仕切り直しとか。
これで法案が成立しなければ、期待はずれショックで株価暴落となる。これも、バーゼルⅢや中ロの動きと時期的に連動している。
また、成立の場合でも実体経済へのマネー供給によりドル希釈化が進む諸刃の剣。BBB法案公表の時点で詰んでいた。
また、アメリカの盟友のヨーロッパ勢の状況もかなり辛い。
以前にも紹介したように、アメリカが煽るウクライナ情勢のせいで、ヨーロッパの天然ガスが暴騰している。
これは、欧州天然ガスの週足チャート。
先週の暴騰から一気に急落したものの、それでも2021年初頭に比べれば5倍レベルとなっている。
アメリカが内政干渉レベルで煽るので、軍事的緊張はおさまらない。真冬だというのに、天然ガス価格は全く下がらない。
この点について、ゼロヘッジさんは「グリーンエネルギー政策」の弊害を指摘する。
European Firms Warn “Unbearably High Energy Costs” May Spark Wave Of Production Shutdowns https://t.co/VnCBIvUJj5
— zerohedge (@zerohedge) December 23, 2021
無分別なグリーンエネルギー政策により、エネルギー集約型企業は「バカ高いエネルギー価格」のために、操業停止に追い込まれる可能性があるとしている。
この他に、ドイツでは原発も稼働停止が相次いでおり、電力不足の大きな要因となっている。国民の過半数は再稼働を希望しているようだが・・。
また 鉄鋼、肥料、セメント、製紙工場関連の11団体は、マヂでヤバいっすと警告しているとか。
そして、ブルームバーグからは、天然ガス高騰を受けた電力価格高騰により、ヨーロッパ最大のアルミニウム製錬所が生産量を抑制していると報じられている。
Europe’s largest aluminum smelter has curbed its output after power prices surged https://t.co/KTaH77CiGG
— Bloomberg (@business) December 22, 2021
ヨーロッパでは、電気をドカ食いするアルミニウム以外にも、亜鉛工場、肥料工場が続々と休業に追い込まれており、在庫も逼迫しているとか。
「インフレ待った無し」な状況もさることながら、アメリカが煽ったせいで大変な目に合っている・・という状況から、欧州のアメリカ離れ(=ドル離れ)が加速する可能性が出てきている。
金の高騰による信用低下、国際決済通貨としての役割低下、欧州の離反・・コストプッシュインフレなどオマケに過ぎないレベルでドルの受難が始まりそうだ。そして、ドルは国際金融システムの根幹を支える基軸通貨であり、ドルの受難とは金融システム崩壊の懸念も孕んでいる。
さて、我が日本はと言うと、直近11月の消費者物価指数は0.5%と極めて低い伸びだった。
総務省が発表した11月の全国消費者物価指数(2020年=100)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が100.1と、前年同月比0.5%上昇しました。プラスは3カ月連続。原油高を背景に電気代などエネルギー価格が上がったことが主因です。https://t.co/TTchdV4dfm
— 時事ドットコム(時事通信ニュース) (@jijicom) December 24, 2021
しかし、食品等の値上げが相次いでおり、デフレの申し子の吉野家ですら並盛値上げしたのに・・統計に現れていない。
その理由が、ドコモのahamoに代表される携帯料金の値下げだ。
【情報通信・放送】
携帯電話事業者各社が提供する新料金プランへの移行状況携帯電話事業者各社が提供する新しい料金プランの契約数は本年11月末時点で約2,930万となりましたのでお知らせいたします。https://t.co/G6F0h5UMcP
— 総務省 (@MIC_JAPAN) December 24, 2021
格安プランの契約数は、5月末の1570万契約から11月末には2930万契約と倍近く増え、一般ユーザーの約2割が移行しているとのことで、携帯通信料は前年から5割以上も低下した。
この携帯料金の値下げは、消費者物価指数で1.48ポイント下げに寄与しており、実質的な消費者物価指数は2%ということになる。
なお、鈴木財務相によると、この2%の伸びは「直ちに悪影響は無い」とか。
物価上昇、日本経済に直ちに悪影響ない 市場動向を注視=財務相 https://t.co/KFKskZfyGk pic.twitter.com/XEf0C9eDze
— ロイター ビジネス (@ReutersJapanBiz) December 28, 2021
しかし、2%の物価上昇は日銀のターゲットとするところだったハズだが・・金融緩和をやめる話すら聞こえてこない。引き締めに転じている欧米とは対照的な対応だ。
また、日本では12月13日に2006年以降となるレポ市場における金利急騰が発生した。
BoJ Panics, Unleashes Short-Term Liquidity For First Time Since 2006 Amid Repo Spike https://t.co/ChpD02bKA8
— zerohedge (@zerohedge) December 13, 2021
およそ2年前にアメリカでもレポ市場の金利が高騰し、なし崩し的にFRBが資金提供するハメになった。
客観的には、信用度の低い銀行が短期資金を調達出来なくなりつつある事象だと思うが、突き詰めて見れば、金融界からの「日銀QE止めるな」のメッセージなのかも。
あるいは、日銀プレセンツのQE止めないための自作自演劇場という可能性も。
いずれにせよ、「いよいよインフレが本格化 そして日本デフォルトとデジタル円」「ツイッターCEOが語るハイパーインフレ 一番危険なのは日本か」で紹介したように、日銀は金融緩和を止めることはできない。
日銀は、日本国債市場において7割近くを購入する断トツでビッグプレイヤーであり、日銀無き日本国債市場では国債を消化出来ない。既に金融機関は日本国債を買わなくなっている。
それでも、日銀が国債買い入れ量を減らすテーパリングに舵を切った場合には、国債消化不良で価格が大きく下落することになるが、日銀は金融緩和を通じて500兆もの国債を保有し、国内の多くの銀行も相当額を保有している中で、大幅な評価損が出てくる。
日銀は簿価会計としても、銀行の皆様は時価会計だ。評価損が膨らむ国債を抱えて債務超過で死亡することになる。
また、簿価会計の日銀であっても、事実上の債務超過と見なされればヘッジファンド勢の餌食になりかねない。
日銀はインフレであっても、金融緩和を止めるワケには参らぬ状況に追い込まれている。
先日の原田武夫氏の動画では、台湾には簿外資産に関するものものがあり、安倍元首相はじめ歴代首相は、台湾にお金を無心しているとの解説があった。
頼みの綱のドル資産の価値も揺らぐなかで、日本は簿外資産に頼ろうとしているのだろうか・・。
だが、バーゼルⅢの策定やインフレ、ウクライナ危機などドルの信用低下に繋がる動きは、全て欧米勢により意図的に起こされたものであり、現行の金融システム崩壊により完全にリセットする・・との思惑が透けて見える状況だ。
そうしたシナリオに基づけば、日本だけ簿外資産で助かる道は無く、一度崩壊した後に簿外資産で再建・・とのシナリオが濃厚か。
最後まで読んでくれてありがとう!