アメリカとロシア

ウクライナ情勢 ロシア優位となりアメリカが手を引く可能性

アメリカとロシア

ウクライナ情勢を巡り、ついにアメリカが東欧に軍の一部隊に派遣命令を出した。

この派兵、ウクライナ情勢を巡ってロシアへの圧力・・と言うよりは、アメリカの存在感を示すような意味合いが強そうだ。

何せ、

アメリカ政府高官は、「ウクライナでの戦闘には参加しない」としています

と報じられており、あまり緊張感を感じない。

そもそも、ロシア軍はウクライナ国境に10万オーダーで展開しているのに、2000人派兵したところで何か出来るワケもない。

本件については世界のメディア各社も報じている。例えば、イギリスのガーディアン紙。

この派兵については、これまでの米ロ間の和平交渉失敗の帰結としており、かなり深刻に受け止めている様子はあるものの、バイデン大統領とストルテンベルグNATO事務局長が、「NATO軍がウクライナに入ることはない」と明らかにした旨を報じている。

緊張感が高まってるのか高まってないのか・・・煮え切らない感じだが、とにかくアメリカの派兵規模はロシア軍とは比にならない少なさで、口先の強気ほどのやる気は感じられない。

仮にロシアがウクライナ侵攻しても、アメリカ人に何か不利益があるワケでもなく、ましてNATO加盟してないウクライナの国内紛争に、欧米諸国が率先して軍事介入する理由は薄いから仕方ないか。

また、先日の「混沌とするウクライナ情勢 ロシアを挑発するアメリカの狙い」で紹介したように、資源大国ロシアへの経済制裁は、まんま欧米諸国への経済制裁となる。

特に、ロシアの天然ガスに頼る欧州がロシアに強気に出られるワケがなく、アメリカに追随したくないというのが本音だろう。

さらに言うと、この20年、ウクライナの政局に強引に干渉し政情不安を煽り続けたのはアメリカだし、その結果としてウクライナ東部(ドンバス)のロシア系住民に多大な不利益が及んでいることを踏まえると、アメリカの強硬姿勢に正義は無い。

こうした観点を踏まえて、昨今のウクライナ情勢から見えてくるアメリカの目的は、「欧州・東欧からのアメリカ覇権撤退」と「欧州(特にドイツ)の資源メジャー(国際金融資本・グローバリスト)の凋落」ではないだろうか。

実は、カタールの対応からその一端が見えてくる。

アメリカは、ロシアが欧州向け天然ガスを止める事態を想定して、各国に「欧州に天然ガス回しちくり~」と頼んで回っており、その依頼を受けたカタールの対応は、露骨にアメリカ離れ(国際金融資本離れ)したものだった。

カタールは欧州に「カタールが優遇して回してやった天然ガスは、ちゃんとEU内で使え。転売するんじゃねーぞ」と言って「天然ガスの転売禁止」を飲ませようとしている。

この背景事情として、ロイターの記事に

関係者は「(転売制限が)実行されなければ、EUに対する緊急輸出がEU外で収益を上げるための現物として転売される恐れがあり、基本的にEUのエネルギー不足が長引くことになる」との認識を示した。

とあり、ロシアがガスを止めていると言うよりは、ドイツの資源メジャーの存在を仄めかしている。

ドイツの資源メジャーは、ロシアから格安で調達した天然ガスを転売しており、昨今の欧州天然ガス価格高騰で苦しむ国民とは対照的に、相当儲けたであろうことは想像に固くない。

カタールの転売禁止要請は、そのような一握りの資源メジャー(国際金融資本)がガス価格を吊り上げ、国民から富を吸い上げ荒稼ぎする構図に釘を刺すことになる。

さらに、ロイター記事には

関係者によると、カタール側はEUが長く調査を続けるカタールのガス長期契約問題についても、解決の必要があると述べたという。

とあり、カタールがEUに対してとか「適正価格で、長期安定的にカタールから天然ガスを買え」と要請しており、「適正価格での長期契約」を飲ませようとしているようだ。

これに対して、EU側は難色を示しているようだが、そもそも論として、基本的なライフラインである天然ガスを、長期安定的に調達可能とする長期契約は基本中の基本であり国益に沿うものだ。

カタールの要請は両方とも実に妥当と言えるが、EUが難色を示しているのは、国民ではなく資源メジャー(国際金融資本)を向いていることの証左だろう。

しかし、カタールのこのあまりに真っ当な要請は、カタール自身の利益欲しさによるものなのか、それともアメリカが言わせたものなのかは気になるところ。

ウクライナ情勢緊迫化の背景に、資源メジャー凋落と覇権撤退の方向性があるとすると、カタールが「言わされた」可能性は否定できない。

また、アメリカさんは、日韓にまで「欧州に天然ガス回してくれ」と頼んでいるとか。

日韓は天然ガスの産出国ではなく輸入国なので、日韓が調達した天然ガスを欧州に(格安で)回せということになるが・・日本の天然ガスの1割はロシア産だ。

つまり、日本がこの要請に従うとすると、ロシア→日本→EUという迂回供給となってしまうが、ロシアがEUへの天然ガス供給を止めた場合に、それが許されるものなのか。

日本政府は、「ロシア産以外の天然ガスをEUに回します!(その分ロシアからの輸入増やすから許してロシアさん)」という対応となるだろうが・・ロシアからの天然ガスの輸入が止まり、日本国内のガス料金高騰という笑えない事態になりかねない。

韓国とて状況は同じだろうから、日韓両国とも、アメリカ親分から強烈な踏み絵を迫られていると言って差し支え無いだろう。

ウクライナ情勢の背後に覇権撤退と資源メジャー凋落の方向性があることを踏まえると、「近いうちに日韓からも撤退するよ。どうしてもアメリカについてくるなら下僕扱いするよ~」とのメッセージに見えてくる。

いずれにせよ、アメリカのあまり意味の無さそうな派兵や、カタール・日韓への天然ガス融通要請の状況を踏まえて、ロシアのウクライナ侵攻や着地点が見えてくる。

今後の展開として、ウクライナが東部(ドンバス)に自治権を再付与してロシア人の迫害をやめる(紛争停戦)ことや、欧米勢がウクライナを取り込まない保障など、ロシア・プーチンの要求を受け入れることになるのではないか。

この帰結として、ウクライナは自然とロシア覇権下に入り、ロシア隣国の対欧米緩衝地帯としての位置付けに戻り安定することになる。

・・とこんな決着を想定すると、ロシアがウクライナに侵攻せずに実現する平和的解決パターンでは、何も無いのに欧米勢がロシアの要求を丸飲みする形となる。

いくら裏でシナリオが出来ていたとしても、ちょっと無理筋。また、戦争無しにロシアは天然ガスを止めないだろうから、資源メジャー凋落の機会が無さそう。

平和的パターンは難しそうだ。

となると、やはりロシアがウクライナ侵攻するパターンが今後のシナリオとして有力になるだろうか。

その場合、ロシア(ROC)も参加する北京冬季五輪終了前後で、ロシアがウクライナに侵攻せざるを得ない状況に追い込まれ、局地的限定的な戦争となる可能性が高い。

ロシアが「侵攻せざるを得ない状況」としては、ウクライナ東部のロシア人武装勢力に対して、ウクライナが(欧米勢にそそのかされて)本格的な殲滅を図ろうと動き出す状況が考えられる。

「ロシア人武装勢力」と言っても所詮は民兵(武装市民)なので、2014年と同じくウクライナ国内問題に過ぎず、欧米勢が介入する正当性はあまり無い。

このため、アメリカンヤンキーが「一部ロシア軍の侵攻を確認」と言いがかりをつけて本格参入(のポーズを)する可能性が高い。

街中でヤンキーに絡まれるレベルの無理筋な茶番だが、ロシア側から見れば同胞が殺られていくのを見過ごせば、ロシア国民の支持を失いかねない。

やむを得ずロシア軍侵攻となり、欧州への天然ガス供給も止まるだろうが、欧米勢は本気でロシアと戦わないと思われる。

実のところ、2014年のウクライナ紛争においても、ロシア・ウクライナ国境でロシア軍越境の形跡が確認されているが、欧米側の公式見解は「ロシア軍参戦は確認出来ず」となっており、本格的な戦争に発展しないよう欧米側が揉み消した疑いがある。

また、そもそもウクライナはまだNATO加盟国ではない。欧米諸国に対ロ戦争に参戦する義務など無く、その点からも戦線は拡大しない可能性が高い。

つまり、ウクライナと資源メジャーは梯子を外されることになる。

実のところ、全く同じ構図なのが、中東におけるサウジアラビア(イエメン)とフーシ派の争いだ。

原油高は中東混乱の前触れか 実はサウジアラビアが震源になるかも」で紹介したように、イエメン内戦では何故かイエメン駐留のアメリカ軍や大使館が総撤退したため、サウジが内戦に介入する羽目になった。

その後、サウジがアメリカ製の武器でイエメン国民を虐殺しているとか、サウジが国境封鎖しているため、イエメン国内は食糧・医薬品が不足する地獄絵図との報道が出てきた。直近でも、人権団体からの告白が続いている。

この結果、アメリカ・バイデン政権では、サウジに売却する武器については、防衛兵器に限定するとの方針に転換した。

防衛兵器でも充分じゃね・・とも思うが、実のところ、サウジにとっては全く無意味だ。

2019年9月に、サウジ国内のアブカイクにある大規模製油施設がフーシ派からのドローン攻撃を受けたが、フーシ派のドローンは、イエメン国境から1000キロ以上に渡りサウジ領内を飛び続けたにも関わらず、アメリカ製の防空システムは反応しなかった。

サウジにとっては、カネだけ取られてガラクタ押し付けられたくらいの感覚であり、「アメリカ、知りませんから」とのメッセージなのかも。

サウジは、うっかり手を突っ込んだイエメン内戦について、アメリカ抜きで解決を図る必要性に迫られている。

今後は、フーシ派親分のイランに仲裁を頼むことになり、サウジ・イランの関係改善が進むことになるとともに、中東におけるアメリカの存在意義は薄くなり、覇権はイラン等へ委譲されていく。

この流れがウクライナでも起こる可能性は高く、梯子を外されたウクライナ敗北で終わることになり、その過程で、ウクライナによる東部(ドンバス)住民虐殺疑惑等が報じられる展開も想定される。

そうなれば「ロシアの要求丸飲み」の流れとなっていく。

なお、ウクライナ東部(ドンバス)がロシアに割譲されるオプションも想定されるが、元々ロシア領だったクリミアと異なり、ロシアにとっても自国領とする正当性に欠けるためハードルが高い。可能性は低い。

また、アメリカの強硬姿勢に付き合わされた欧州も、アメリカと距離を置くことになるかもしれず、そうなればNATOも弱体化する。

その点でも、ロシア周辺国へのロシア覇権が強まっていく。

前に紹介した、バイデン大統領が「小規模な侵攻なら欧米諸国の対応も小規模にとどまる」可能性を示唆した件。

ウクライナ激おこですぐに撤回されたが・・アメリカ側の本音は「何もしないから、さっさと侵攻して終わらせろ」だろう。

この流れに備えているのか、衛星画像によるとロシア軍の増強が確認されており、やる気マンマンの様子。

さらに、ベラルーシにもロシア軍3万を配備するとか。

こいつには、やると言ったらやる・・・

凄みがある

北京オリンピック終了後、軍事演習からのうっかり侵攻とかもあるかもしれん。ドンバスのロシア系住民が殺られてましたなど、理由は後付けできるだろうし。

可哀想なのは、ウクライナ国内で欧米勢の傀儡として権力を握っていた偉い人たちだ。役割を終えれば失脚確実だろうからな。

そうなると、ウクライナがアメリカのロシア煽りにキレたこの件・・

失脚確実なウクライナの偉い人たちの「オレ達あんなに協力してきたのに、切り捨てっすか!?マジ勘弁さてくださいよ!!」との心の声だったのかも。

・・と、ロシア侵攻前提で考えてしまったが、もちろんこのままグタグダが続くパターンも想定される。ただ、資源や穀物系銘柄、商社株なんかを仕込むのもいいかもしんない。


最後まで読んでくれてありがとう!