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自滅するEUの分裂と対米離脱、そして中東戦争へ

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先日の「NATOと全面戦争するかもしれないロシアと欧州の対米離脱」で、エストニアに逃亡したダリア・ドゥギナ氏爆殺犯の引渡し要求をきっかけに、NATO(アメリカ・欧州)vsロシアの全面戦争が懸念される展開となり得ることを紹介した。

ただ、エネルギー価格の高騰・不足に苦しむ欧州勢がロシアと戦争出来るような状態ではなさそうなのも事実であり、ロシア・プーチン大統領は、欧州勢が冬を前にウクライナ支援を断念することを期待しているとか。

ロイターは・・

European governments have sought to increase resilience to energy pressures this winter by seeking alternative supplies and pushing through energy saving measures, but few energy specialists believe they will be able to cover all their needs.

(google翻訳)欧州各国の政府は、代替供給を模索し、省エネ対策を推し進めることで、この冬のエネルギー圧力への回復力を高めようとしていますが、エネルギーの専門家は、すべてのニーズをカバーできると信じている人はほとんどいません。

・・と、ロシアの天然ガスに代わる給水源は無いし、省エネ努力程度では冬までにガスの備蓄は不可能だから、かなりヤバくなりまっせと報じている。

さらに、ウクライナ戦争が長期化することで、エネルギー価格の高騰だけでなく、欧米勢が分裂するリスクが高まることも報じられている。

But the longer the war dragged on the greater the risks of Western divisions over Ukraine become as higher fuel, gas, electricity and food prices bite.

(google翻訳)しかし、戦争が長引けば長引くほど、燃料、ガス、電気、食料の価格が上昇し、西側の分裂がウクライナをめぐるリスクが大きくなる。

天然ガスの高騰・不足に耐えきれなくなった欧州勢が、ウクライナ支援継続派・中止派に分裂する・・ということか。

なお、EU諸国の状況については、「NATOと全面戦争するかもしれないロシアと欧州の対米離脱」で紹介したように、7月末から天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」がメンテナンス等を理由に2割稼働(0.3億㎥/1.67億㎥)となっており、さらにメンテナンスを理由に完全停止する状況となっている。

既に電気・ガス代が暴騰しており国民は節約生活を強いられているほか、金属精錬工場が稼働停止する状況も出てきているなど、国民生活や経済が壊れつつある。

かつて、ロシア(ソ連)に攻め込んだナポレオンやヒトラーは冬の寒さで壊滅したが・・間接的にロシアに攻め込んだ欧州勢も同じ末路を辿りそうな感じになっている。

ちなみに、海を渡ったイギリスの状況だが、イギリスでは今年の6月に、ロシアからのエネルギー資源の輸入量が月単位で初めてゼロになったことが報じられている。

CNNの報道では「ロシア制裁の成果!ワシらの勝利!ロシアざまあ!」的なトーンで報じられているが、現実問題としてイギリスでも電気・ガスは高騰しており、直近では10月1日から80%増となることがブルームバーグより報じられている。

80%増て・・5000円が9000円になるレベルでっせ。

ブルームバーグさんのサイトではイギリスの電力卸価格の推移が掲載されているが・・

イギリス電力卸売り価格の推移

ウクライナ危機前の10年間は、40~50ポンド/MWh程度で推移していたところ、直近では571.1ポンド/MWhと10倍以上となっていることが分かる。

また、イギリスの電力関係者の電話会議では「緊急事態」「不足」とのワードが飛び交っており、業界関係者の認識ではイギリスのエネルギー危機は起こるか否かではなく、いつ起こるかという段階来ているようだ。

この他、ブルームバーグに危機的状況を語ったブラス氏によると、電力供給の危機的状況は業界幹部や政府が言うより深刻で、冬までに価格・供給不安に対応出来ないため、欧州各国は国民に「ヤバイっす」と正直に言えと警鐘をならしている。

ロイターやブルームバーグの報道を総合すると、冬には欧州勢(イギリス・EU)がエネルギー危機に陥るのはほぼ間違いなさそうで、プーチンが「欧州さんもう限界だと思う」と期待するのも頷ける。

ただ、欧州勢のエネルギー危機はロシアの逆制裁(報復制裁)だけが原因ではなく、欧州勢の自滅的な動きも大きな原因となっている。

そもそもロシア天然ガスの代替は存在しないのに対ロシア制裁に踏み切り、制裁によりロシア側は稼働制限せざるを得なくなり、ドル・ユーロの使用制限しつつロシアのルーブル払い要求を断ったり、経済的観点を度外視した脱炭素施策が裏目に出ている。

ロシアの逆制裁(報復制裁)とは無関係に、エネルギー危機的は起こっていた可能性が高い。

こうして見ると、欧州勢のロシア制裁は行き当たりばったりで稚拙過ぎるのだが、この点について、ゼロヘッジさんから「EU解体」という記事が配信されているので紹介したい。

ゼロヘッジさんは、欧州で深刻化するエネルギーの高騰・不足の原因はロシアではなく、EU自身による「意図的な自滅策」と指摘する。

ハンガリーはロシアと新たな天然ガス購入契約を締結していることからも、ドイツやイギリスは自滅的にエネルギー危機に陥った・・と言えるだろう。

さらに、EUはロシア・ウクライナの和平仲裁にほとんど手を出しておらず、ウクライナ危機の長期化(=危機的状況の長期化)を望んでいるように見受けられる。

こうした点から、EUは意図的に自滅しようとしてるように見えてくる。

この「意図的な自滅」について、ゼロヘッジさんは、オランダ政府が打ち出した、畜産頭数3割減の方針にも触れている。(オランダの畜産制限から見える食糧危機の本質

ちなみに、オランダでは各州による強制的な農場買い上げを通じて、国内農場の2割に当たる11000もの農場が閉鎖されることになっているとか。

オランダ政府は、環境施策最優先で財産権等はガン無視という共産主義もびっくりの展開となっており、仕事が無くなりそうな農民や危機感を覚えた市民による抗議デモが頻発している。

なお、この抗議デモはドイツ等にも広がっているとか。

オランダ政府の動きは「意識高い系のアホ」そのものだが、ゼロヘッジさんは「本当はもっと上手くやれたんと違うか」と指摘しており、オランダ政府による意図的な自滅策との可能性を仄めかす。

こうして見ると、欧州勢は「極悪ロシアを倒す」という正義感や「環境保全が最優先」という正義感から自滅に向かっていることは明らかで、各国民から「キレイ事ばかり言ってんじゃねーぞ!」の声があがるだろうことは容易に想像出来る。

なお、こうした声は既に顕在化しつつあり、フランスでは6月にマクロン与党が敗北を喫している。

勢力を伸ばしたのはルペンの国民連合(ナショナリスト)と、不服従のフランス率いる極左連合であり、いずれもインフレ抑制最優先なので、ロシア制裁・ウクライナ支援の停止に舵を切りそうだ。

また、ドイツではガス不足を見越した住民が薪ストーブ用の薪集めに奔走しており薪の供給が追いつかず、木材の盗難事件も起こっていることを、ロシアメディアが報じている。

さらに、先のゼロヘッジさんの記事には、EUの自滅策によって不足が見込まれる物資が羅列されていた。

Someone made a list of what EU won’t get anymore with the Russia boycott.: “nat-gas, rare earths, inert gases, potash, sulfur, uranium, palladium, vanadium, cobalt, coke, titanium, nickel, lithium, plastics, glass, ceramics, pharmaceuticals, ships, inks, airplanes, polymers, medical and industrial gases, sealing rings & membranes, power transmission, transformer and lube oils, neon gas for microchip etching, etc., etc.”

And that’s not all. Fertilizer!! Why they do it, I don’t know. Do they WANT to kill their own economies? It makes no sense. And this will not be over soon.

(Google翻訳)誰かが、ロシアのボイコットで EU がもはや得られないもののリストを作成しました。 、ガラス、セラミックス、医薬品、船舶、インク、飛行機、ポリマー、医療用および産業用ガス、シーリングリングおよびメンブレン、送電、変圧器および潤滑油、半導体用のネオンガスなど。

それだけではありません。肥料!!なぜ彼らがそれをするのか、私にはわかりません。彼らは自分たちの経済を殺したいですか?意味がない。そして、これはすぐには終わりません。

こうした状況では、電気・ガスどころか経済・金融危機になりかねず、脱ロシアどころではない。

なお、このような欧州の困窮をよそに、ロシアでは余剰天然ガスを焼却しているとの報道が出ている。

毎日新聞の記事では、売り先が無いから仕方なく焼却という「ロシアざまあ」的な見方となっているが、過剰噴出分は焼却処分が効率的というだけな気がするが・・。

いずれにせよ、元ネタはイギリスBBCがわざわざ報じたていることから、「ロシアはガス余ってんの、早くロシアからガス買えって声上げて」という欧州各国からのメッセージと見るべきだろう。

こうした状況を踏まえると、「国民からのご要望」を錦の御旗に「意識高い系政策」を見直して、ロシアの天然ガス購入(=ロシア制裁解除・ウクライナ支援停止)へと舵を切る国が出てきそうだ。

なお、ウクライナ支援の停止については既に準備段階に入っているようで、ドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」が、ウクライナ国際義勇軍司令官のクソエピソードを報じている。

シュピーゲルによると、国際義勇軍に参加した外国人兵士は、ウクライナ国内で家具や家電、貴重品類の盗難や支援なき戦闘を強制されるなど、ウクライナ国際義勇軍の司令官の腐敗を訴えているとか。

また、この司令官は元犯罪組織のメンバーなのだが、何故か軍の管理職についていることも報じられている。

ドイツ・シュピーゲルの報道は、ウクライナ支援の正統性を失わせるには充分であり、ウクライナ支援の終わりの始まりと言えそうだ。

ただ、反ロシアが国是のポーランドやバルト三国は反対するだろうから、EU内部で西欧組と東欧組の間で意見の相違が顕在化する。

ロシアの影響を恐れてEU加盟する東欧組は、ロシア制裁を止めるEUに見切りをつける可能性が高く、結果としてEUは分裂へと進むことになりそう。

また、この動きは対米離脱とNATO崩壊にも繋がるもので、アメリカ覇権の撤退・縮小という方針に沿ったものでもあることから、欧州の自滅的政策にはアメリカも一枚噛んでいる可能性が高い。

確かに、欧州のロシア制裁はアメリカに強制されている面もあるだろうから、欧州勢の面々は・・

もー我慢できん

となっているかもしれん。

自滅させられるのは嫌やもんな・・。

冒頭に紹介したロイター記事では、ロシア・プーチン大統領は、欧州勢が冬を前にウクライナ支援を断念することを期待しているとあったが、現実となりそうだ。

こうした中で、EU分裂・対米離脱・NATO崩壊に向かう欧州勢の背中をもう一押ししそうなのが、イラン核合意だ。

イラン核合意は原油価格の高騰と中東戦争の引き金になる」では、

  • 欧州はロシアの代替としてイランの石油・天然ガスを希求している
  • 核合意の枠組みが再建されてもロシア陣営のイランがEUに石油・天然ガスを流すかは微妙
  • イランを仇敵と見なすイスラエルとの関係についても課題アリ

と言ったことを紹介した。

この時は核合意再建は難しそう・・との分析を紹介したものの、EU分裂や対米離脱を前提とすると、実は核合意再建は充分にあり得る話だ。

エネルギー安全保障で反省するEUがイスラエルを切り捨てて、イラン&ロシアと関係改善してEU分裂に至る・・というのはありそうだからだ。

なお、アメリカの世界覇権撤退・縮小の文脈から見ると、アメリカもイスラエルに

さいならっきょ

する可能性は高い。イスラエルロビーも鬱陶しいし。

そうなってくると、アメリカ・EUに見捨てられる前に、イスラエルがイランの石油施設を叩いて中東戦争が勃発する可能性が見えてくる。

その際の構図としては、

イスラエル(アメリカ・イギリス)

vs

イラン(ロシア・中国・EU・その他中東勢)

となるだろうから、久しぶりに欧米勢が分裂する戦いとなりそうだ。

また、中東勢はイスラエル軍機の領空通過を認めないかもだし、イスラエルの北側からシリア軍やレバノン・ヒズボラが進軍してくるかもだし、パレスチナのハマスも暴れだすかもなので、イスラエルは苦戦を強いられる。

ちなみに、イスラエルは2006年にレバノンの武装勢力ヒズボラと対戦しているが、ヒズボラに勝てずに停戦となっている。

あの原田武夫氏は、この動画の最後でロシアの核兵器使用を仄めかしていたが・・

核兵器使用という一線超える役割は、イスラエルに託されたのかもしれない。

イスラエルには、亡国の危機に際してあちこちに核ミサイルをぶっぱなす「サムソン・オプション」なる選択肢があると言うし・・。

そして、核の使用により、核の傘というアメリカの軍事覇権を支えた第二次世界大戦以降の秩序は崩壊し、各地域ごとのミニ覇権勢力が連携する形での世界秩序が形成されることになりそうだ。

また、こうした状況を踏まえると、石油・天然ガスと言ったエネルギー資源の価格高騰は継続が見込まれ、下手すれば第三次オイルショックからの金融危機になるかもしれん。

全ての事象はグレートリセットに繋がる・・・。


最後まで読んでくれてありがとう!