日本の金融危機

石油備蓄の協調放出は意味なし 世界的インフレは止まらない

日本の金融危機

世界的なインフレ要因の一つとなっている原油高を緩和するための措置として、アメリカのバイデン大統領主導により、アメリカ、日本、中国、インド、イギリス等の各国が協調して石油備蓄を放出をすることとなった。

原油消費の多い国々が、みんなで石油を買わずに備蓄で回せば、さすがのアラブの石油王たちも資金繰りが厳しくなって値下げすることを見越した「不買運動」というワケだ。

原油価格は、協調放出の話が出た19日頃から下落に転じたとか。

どの程度下がったのか、チャートで確認したい。以下は原油の日足チャートだ。

20211125原油

うーん・・・下落はしているものの超長期線を割り込んでおらず、強い上昇トレンドの中の「一時的な調整」程度しか下がっていないように見える。メディアの取り扱いが大きい割に、大したことはない感じだ。

しかも、20日には既に反発に転じており、日本が備蓄放出を決めた23日に至っては大きく反発している。

結局のところ、備蓄放出はせいぜい200日程度が限界の捨て身作戦に過ぎず、いくらでも供給を絞れる産油国の方が圧倒的に有利な状況に変わりはない。

さらに、これから冬にかけては暖房需要が増えるため価格抑制は限定的なことや、備蓄による持続的な供給が難しい上に、備蓄が尽きれば原油価格は産油国のフリーダムになる。

バイデン大統領主導で・・と手柄の強調が凄いが、結局のところほとんど効果は無いようだ。

そもそも、シェール革命によりアメリカはサウジアラビアを凌ぐ産油国なので、本気で原油価格を下げるつもりならシェール増産宣言するくらいの気概があってもいいハズだ。

ただ、以前に「【革命防衛隊幹部殺害】アメリカの目的はイランへの覇権委譲のためのシェール維持か」でも触れたように、シェールオイルの採掘コストはバカ高い。

通常の油井なら産油量は20年程度は変わらないところ、シェール油井は採掘開始から数年程度で産油量が大きく減少するため、シェールオイルを安定的・継続的に大量生産するには新たな油井が次々に必要で、常に巨額の設備投資が必要となるからだ。

このところの世界的なコストプッシュインフレにより、ゼロ金利・超低金利時代が終わりそうな中で、シェールの資金調達は難しくなることが見込まれることから、シェールを継続するには採掘コストに見合うレベルでの原油価格の高値安定が必要不可欠だ。

そう・・実はアメリカは原油価格の高値安定を望んでおり、今回の協調放出はガソリン価格に敏感なアメリカ国民のガス抜き程度の位置付けと見るべきだろう。どうりで、バイデン大統領の手柄を強調してるワケだ。

何なら、この協調放出は産油国も事前調整済みで「協調」していたと考えて差し支えないだろう。

なお、あのゴールドマン・サックスも、協調放出は「意味ないで」と評している。

これはこれでド正論だが、単に原油価格高騰を当て込んでのポジショントークなんじゃ・・。とは言え、今のインフレを絶対止めないとの強い決意を感じる。

なお、日本も備蓄放出の動きに追随しており、岸田首相が原油価格安定に向けた決意を語っている。

だが、アメリカが本気じゃない以上、日本はあくまでお付き合い・・との本音を萩生田経産相がうっかり答えている。

萩生田経産大臣はメディアの取材に対して、備蓄している油の種類を入れ替える「通常の行為」であり、さらに売却量はたったの数十万キロリットル(国内消費量数日分)であることを強調している。

優しく見れば石油備蓄法に違反してないことを強調したかったのかもしれんが、協調放出がほとんど無意味なことを強調しただけになってしまっている。

確かに、各国が石油備蓄の協調放出を本気でやれば、現物保管のタンク料などのコストがかかることを嫌う投機マネーへの牽制にはなる・・が、アメリカへの「お付き合い」程度で原油価格に与える影響は皆無だろう。

そもそも、日本のガソリン価格が高くなっているのは、産油国が供給を絞ったことによる原油高だけでなく、大幅に円安が加が進んだことも大きな理由となっている。

以下は、ドル円の週足チャートだ。

20211125ドル円チャート

チャートから一目瞭然だが、2021年1月後半以降、ちょいちょい下げながら上げ続けるという、典型的な上昇トレンドとなっている。

この一年を振り返って見ても、時間足単位の短期決戦以外でドル円をショートするタイミングはほとんど無かった。日本のインフレの観点からは、円安は相当深刻な影響を与えていると言えよう。

ともかく、この協調放出の動きに対して、OPECさんサイドは増産停止の構えを見せているとか。

今回の協調放出が出来レースとは言え、産油国サイドから見れば当然の対抗措置だろう。しかし、ただでさえ無いに等しい協調放出の成果は雲散霧消しそうだ。

さらにOPEC勢は、この増産停止の根拠として来年早々にも原油が供給過剰になる旨の予想を出してきている。

協調放出により原油供給が過剰になる・・だと・・?

確かに供給過剰なら原油価格が暴落して産油国は大損害を被るだろうから・・言いたいことは分かる。

だが、協調放出はあくまでも「やってるフリ」。それは全然下がらない原油価格が現しているとおりで、本当に供給過剰となるとは考えにくい。

となると、あくまで原油価格は下げない・・どころか、むしろ上げるのが現段階でのグローバルアジェンダなのか。

であれば、日本がガソリン価格を何とか出来ようハズもない。

この流れは既に規定路線だったようで、11月初旬に開催されたFOMCの議事要旨では、ハト派のパウエル議長もインフレを背景にしっかり利上げの話に踏み込んでいたことが明らかに。

適当過ぎる原油備蓄の協調放出政策み見られるように、インフレを抑える気などさらさら無く、さらに昨今の金融政策の展開の速さを踏まえると、既にアメリカでは利上げ秒読み段階に入ったと見るべきだろう。

そもそも、「世界で同時多発的にインフレの兆候 金融危機へのカウントダウン!?」で紹介したように、世界同時多発的に発生したインフレ要因は、世界超大国オールスターズで協調した結果だ。インフレによりQE(金融緩和)を終了させ、米国債を頂点とする金融システムを崩壊させる・・それまでインフレの手を緩めることは無さそうだ。

当面は日米金利差拡大による円安ドル高は止まらず、日本のインフレ(スタグフレーション?)はさらに亢進する。

そして、「いよいよインフレが本格化 そして日本デフォルトとデジタル円」で紹介したように、この世界的インフレにより最初に血祭りにあげられるのは、日本である可能性が高い。

現在の日本は、日銀が片っ端から国債を債権吸い上げているから低金利に抑えられ、財政運営も何とかなっている状況だ。

そんなことを続けてきた日銀は、抱えこんだ500兆円を超える国債が足かせとなり、インフレ引締めのような政策オプションを採用することは出来ない。

そもそも、日銀は国債市場においてダントツ最大の買い手なので、物価目標達成を理由に日銀が国債購入から手を引けば国債価格は暴落(=金利急騰)するのは間違いなく、そして、それは事実上の財政ファイナンスの終了と日銀の事実上の債務超過を意味する。

つまり、日銀はアメリカのように金融緩和をやめて市場から資金吸収したり、インフレに合わせた利上げは出来ず、中央銀行の本来業務である「物価安定」政策を果たす能力は既に無い。

結局のところ、日本はインフレスパイラル(スタグフレーションスパイラル?)へと突入する流れが確定しつつある。

せめて、インフレ率を上回る所得引き上げが出来れば「健全なインフレ」と言えるかもしれんが・・絶対に無理やろなぁ。

日銀が事実上の債務超過となるタイミングで、海外勢からの怒涛の円売り(日本売り)の前に円の価値は地に落ちる。

なお、あの原田武夫氏によると、日本が積み上げた国債償還からバックレるにはデフォルトしかなく、デフォルトするのは基本中の基本とのことだ。

ただ、デフォルトするにはルールがあるとのことで、

  • 財政調整(無駄な支出の切り詰め)
  • 保有資産の売却

の二つをデフォルト前にやる必要があるとのこと。

このうち、「財政調整」は民主党政権下で行われた事業仕分けであり、既に終了しているとのこと。

残る「保有資産の売却」については、これから資産バブルを起こして極力高く資産を売却するとのこと。

まあ、アメリカがテーパリングからの利上げ局面となれば、金融緩和を続ける日本に一時的に資金は集中しそうではあるが、原田武夫氏によると簿外資産が活用されるとか。

いずれにせよ、極端な円安・インフレからのバブル局面を経て、日本は(事実上の)デフォルトすることになる。

その後に出てくるであろう新日銀が発行するデジタル日本円については、「価値の保存機能」のないデジタル通貨が予想されていることは紹介した。(いよいよインフレが本格化 そして日本デフォルトとデジタル円

そういえば、デジタル通貨と言えば、先日WBSで日本の民間企業版のデジタル通貨が特集されていた。

74の企業や自治体で構成するデジタル通貨フォーラムが、新たなデジタル通貨の実証実験を年明けにも行うとのこと。

企業の銀行預金に基づき、同価値のデジタル通貨を企業に供給する仕組みとか。単なる日本円テザーな感じもするが、企業価値に基づく通貨という点では新たな通貨の候補にはなるのかもしれない。


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