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ノルドストリームの破壊とグレートリセットを推進するアメリカ

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ここのところ「ウクライナ戦争の真のターゲットはEU ユーロは崩壊へ」や「ウクライナ軍のハルキウ奪還で確実になるEUの崩壊」、「ロシアの部分動員令と戦争のエスカレートを望むアメリカ」等で、ウクライナ戦争の真のターゲットは欧州勢であることや、戦争が激化・長期化するほどに欧州勢はエネルギー危機・経済危機・金融危機のトリプルアタックで崩壊する可能性が高くなること、この戦争はアメリカが企図したものである可能性等を紹介した。

そんな中で、新たなEU崩壊の加速となりそうな事件が起こった。

それがこれ。

既に話題になっているが、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」が損傷し、パイプラインが敷設されている海中より大規模なガス漏れが発生しているとか。

メディア各社の報道を見ると、3本のルートで運用されているノルドストリームが、同じ日に3本とも損傷したことが報じられており、事故というよりは人為的なものである可能性が高い。

また、パイプラインの損傷が発生した海域に近いデンマークやスウェーデンは「大規模なエネルギー放出」を確認しており、爆破された可能性を指摘している。

AFPの記事に・・

スウェーデン国立地震ネットワーク(Swedish National Seismic Network)がガス漏れの直前にデンマーク領ボーンホルム(Bornholm)島沖の現場付近で2回の「大規模なエネルギー放出」を観測したと説明。「これだけ大きなエネルギー放出を引き起こせるのは、爆発以外にはほぼない」との見解を示した。

・・とあるように、今回のパイプライン同時損壊は「人為的な爆破事件」である可能性が高いことが明らかになっており、海中で自然に起こった事故と考えている人はいなさそう。

確かに、海中パイプラインは水圧に耐える外壁とガス圧に耐える内壁を持つ頑丈構造なので、自然破損の可能性は低く、また民間人が破壊するのは不可能に近い。

となると、どこかの海軍所属の潜水艦による破壊工作の可能性が高いと考えるのは妥当であり、「犯人はだれ?」ということになる。

なお、先のAFPの記事あるように、ウクライナさんは特に証拠も無く「ロシアのテロや」と断定している模様だが、何と、パイプライン破損現場の海域付近でロシア海軍の艦艇や潜水艦がウロついていたことが報じられている。

CNNでは、ガス漏れが確認された9月26日と翌27日に、現場海域付近でロシア海軍の艦艇が散見されることを「欧州の安全保障当局者」が確認したことを報じており、「犯人はやっぱロシアっしょ」的な記事となっている。

ただ、

デンマーク軍の当局者は、ロシアの艦船はこの海域を日頃から航行しており、そうした船が存在してもロシアがパイプラインを損傷させたことを示すとは限らないと語った。

としており、パイプラインが損壊したその日その場所にロシア海軍艦艇がいたのは事実だが、日常的に航行しておりロシアを犯人と断定する材料にはならないとする。

ということで、メディアのトーンとしては「誰かが破壊した、ロシアで間違いなさそうだけど証拠がない」と言った感じになっている。

ただ、ロシアにはノルドストリーム1、2を破壊するメリットは皆無であり、動機が無い。

そもそも、欧州へのエネルギー供給を止めることが目的ならロシア側の元栓を閉めるだけで事足りるし、ギリギリ公海上となるポイントを狙って潜水艦を送り込むよりも遥かに簡単だ。

また、パイプラインは稼働の可否に関わらず存在するだけで「ガス止めちゃうよ~」という交渉カードになるため、それを進んで破棄するなど全く理にかなっておらず、この点からもロシア犯人説には無理がある。

さらに、ノルドストリーム1、2の巨額の建設費用(合わせて約230億ユーロ)はドイツ・ロシアが折半しているので修理代も折半となるだろうし、当分の間ガスは売れなくなるし、そもそも修理不可能との話しも出てきているレベルだ。

海底を通るパイプラインの修理は難しいようで、兆円単位のカネをかけて建設したパイプラインを使用不能にする動機はロシアには無いだろう。

さらに、このパイプラインの破損(爆破)個所は極めてレアなポイントとなっている。

特にデンマーク領海を通過するノルドストリーム1で顕著だが、破損個所はデンマーク領海のギリギリ外側の公海上となっているようで、このツイ主さんは「領海侵犯ならんように巧妙に計画されてるで」と指摘している。

地図で拡大してみると、爆破海域に近いボーンホルム島はロシアからかなり距離があるだけでなく、デンマークやスウェーデン、ポーランドといった反ロシア諸国の睨みが効く海域であることが分かる。

ノルドストリーム周辺地図

仮にロシア艦艇がノルドストリームパイプラインを破壊しようとすると、反ロシア急先鋒のポーランドはじめとするNATO諸国に見つからないよう3カ所を破壊して無事帰還する高度な能力が必要となる。

さすがにロシア軍に・・と言うか、世界の軍事レベル的にそこまでのステルス能力があるとも思えず、この点からもロシア軍犯人説には無理がある。

まとめると、ロシアにはノルドストリームを破壊するメリットは皆無どころかデメリットしかなく、さらに能力的にもロシア海軍の仕業とは考えるのは無理があると言える。

なお、テレグラムではノルドストリーム爆破海域の周辺で、アメリカ海軍の艦艇が確認されたとの投稿が話題になっている。

アメリカ犯人説を仄めかすものだが、テレグラムによると確認されたのは強襲揚陸艦で、パイプラインの爆破工作に向いているかと言われれば・・潜水艦の方が適任だろうし、ボーンホルム島にはアメリカ軍が駐留しているハズなので、周辺海域で米海軍鑑定がいてもおかしくはないが・・・。

さらに、ロシアからは「ノルドストリームの爆破海域は、アメリカの手先が管理しとるとこや」として、アメリカの仕業なのは明らかと釘を刺す声明が出てきた。

先のCNNが報じていたように、26日のガス漏れ発生時にロシア海軍が現場周辺海域をウロついていたことが公表されたのは29日であり、欧州の安全保障当局なる部門がロシア海軍の存在に気が付いたのは、爆破工作後しばらく経ってからだった。

これは、デンマーク領海間際のボーンホルム島周辺海域でロシア海軍が爆破工作してのに、近隣のデンマークやポーランド、スウェーデン、そしてボーンホルム島に駐留するアメリカ軍の誰もが全く気が付かず、数日経過してから「あれ?ロシア軍おったやん」となったことを意味する。

そんなマヌケな話があるはずがない。

・・・と言うことで、ロシアはアメリカに「露骨すぎやぞ」とクギを刺した感じになっており、アメリカ犯行説の可能性を仄めかしている。

さて、アメリカ犯行説で思い出されるのは、今年の2月にアメリカABCニュースが報じたバイデン大統領のインタビュー発言。

これもGoogle先生に翻訳をお願いするとこうなる。

バイデン:「もしロシアが侵略すれば、ノルドストリーム2はもはや存在しないだろう。私たちはそれを終わらせるだろう.」

レポーター: 「しかし、どうやってそれを行うのですか?なぜなら、このプロジェクトはドイツの管理下にあるからです?」

バイデン氏:「約束する、私たちはそれを成し遂げることができるだろう。」

何と、アメリカはドイツ・ロシアの管理下にあるノルドストリーム2を「終わらせる」予告を出していた。

アメリカABCニュースが報じた時点では、ロシアはウクライナに侵攻していなかったので、あくまでロシアに対する警告的な意味合いがあったと思われるが、今になって見返すとアメリカはノルドストリーム2の破壊予告を出していたと見なされてもおかしくはない。

さらに、ロイター(海外版)は、夏の段階でアメリカCIAからドイツにノルドストリーム1・2への攻撃に対する警告が発せられていたことを報じている。

先のバイデンインタビューと合わせて考えれば、アメリカからドイツに「そろそろやっちゃうんでヨロ」と言っているように見受けられる。

また、このロイター報道の元ネタは、ドイツのニュース週刊誌「シュピーゲル」が報じたものだが、シュピーゲルはNSA(米国家情報局)によるメルケル前首相の携帯盗聴疑惑を先駆けて報じたり、エドワード・スノーデンのリーク情報を大々的に報じるなど、国家権力が黙殺しがちなネタを扱うメディアとして知られている。

ロイターが、相性最悪のシュピーゲル記事をわざわざ引用して報じる意図は何処にあるのか。

なお、ロイターさんは、さらにぶっ飛んだ記事を出している。それがこれ。

Google先生に翻訳をお願いしたところ・・

速報: ドイツは、Nordstream パイプラインへの攻撃が NATO 第 5 条を引き起こしたと言いますが、それは米国によるものだったので複雑です。

としている。

NATO第5条とは、NATO加盟国への武力攻撃は全てのNATO加盟国への攻撃と見なして相互に集団防衛する義務を負うとするものだが、攻撃したのがNATOリーダーのアメリカだったので「ドイツ困っちゃう」となっている様子が報じられている。

・・と言うか、本来ならアメリカがやったとしても「ロシアやろ」で終わるのが普通だが・・今回はなんか違う。

さらに、シュピーゲルは米軍関与を疑うロシアメディアの報道も紹介している。

シュピーゲルによると、パイプライン損壊場所付近で、米軍のMH-60R多用途ヘリコプターが9時間(モスクワ時間で9 月25日19時30~9月26日4時30分)に渡って旋回していたとか。

当初はシュピーゲルも、ウクライナが自国を経由するパイプラインの価値を上げる目的で破壊した可能性や、ガス価値を高騰させる目的でロシアが破壊した可能性を報じていたが、少しずつアメリカ犯人説を仄めかしつつある感じだ。

状況証拠や動機からは、ノルドストリーム2に未練たらたらのドイツが寝返らないようアメリカがやった可能性が高く、ドイツ勢がそれに反抗している様子が伺える。

と言うのも、ノルドストリーム1、2の破壊によって最も大きな被害を受けるのは欧州勢(特にドイツ)だからだ。

IEA(国際エネルギー機関)のWebサイトを見ると、欧州では来年 1月に民間へのガス供給が困難となり、3月までにストックを使い果たす見込みとなっていることが分かる。

これはIEAのWebサイトに掲載されているグラフだが・・

欧州のガス貯蔵量の予測

・・年明けには危機的状況となる予測となっていることが分かる。

欧州・・特にドイツでは「暖房用の燃料が足りないっす」に留まらず、安価なロシア産ガスを前提にした産業・経済、農畜産業など全てが止まることになる。

ドイツ経済は安価なロシアガスがあって初めて成り立つのであり、高価なアメリカ産のLNGなどは代替にはならないことを踏まえると、ドイツは年明け早々にも地獄に突入することになる。

以前にも紹介したように、ノルドストリーム1、2共に西側技術で建造・メンテナンスされているが、制裁を理由に部品がロシアに返還されず故障箇所も修繕されないため、ノルドストリーム1は稼働停止している。

言わば、欧州勢は自らノルドストリーム1の稼働を止める「セルフ制裁」となっている形だ。

一方のノルドストリーム2は、パイプライン自体は完成しているものの、アメリカの圧力に屈したドイツが稼働承認していない新品未使用品で、さらにパイプライン内にはガスが満たされ稼働スタンバイ状態になっていた。

実のところ、欧州勢(ドイツ)がその気になればガス輸送は再開可能であり、特にノルドストリーム2は直ぐにでも稼働出来る状態だったので、ドイツ国民からはノルドストリーム2稼働を求める声が高まり始めていた。

しかも、ロシアは制裁解除しなくても天然ガスを求められたら提供する意向を示していた。

そう、年明けにはガス備蓄が枯渇し、エネルギー・経済・金融のトリプル危機が待ったなしの欧州勢は、ロシア制裁を解除せずとも天然ガスを調達できる見込みがあった・・が、修理不能レベルでパイプラインが破壊されたことでその可能性は潰えた。

ウクライナ戦争の真のターゲットはEU ユーロは崩壊へ」や「ロシアの部分動員令と戦争のエスカレートを望むアメリカ」で紹介したように、ウクライナ危機とはグレートリセットに向けた大戦略の一環として欧州勢を潰すために、アメリカが仕掛けたものだ。

また、ロシアは新たに編入した領土への攻撃に対しては核をチラつかせるほど強硬姿勢を見せているのに、ノルドストリーム・パイプラインへの攻撃に関しては非難程度に留めている点を踏まえると、アメリカと共にグレートリセットを推進している様子が伺える。

こうした流れの中で、ドイツのシュピーゲルやロイターがアメリカ犯人説を報じるのは、アメリカの露骨な動きに潰されそうなドイツがブチギレモードに入ったとの印象を受ける。

ドイツがキレるのも当然で、アメリカはノルドストリーム以外にも欧州のトリプル危機対応策を潰しているからだ。

その一つが、イラン核合意の枠組み(JCPOA)再建だ。(イラン核合意は原油価格の高騰と中東戦争の引き金になる

何せ、世界三大天然ガス産出国と言えば、ロシア、カタール、イランであり、欧州にガスを(比較的安価に)供給出来るのはイランしかいないため、ノルドストリーム破壊はJCPOA再建が加速する可能性を感じさせる。

JCPOAが再建されればイランは大手を振って国際社会に復帰することになり、欧州勢は正々堂々とイランから天然ガスを購入できる・・・のだが、目下のところジャマなのがアメリカだ。

イラン核合意の枠組みについては、「イラン核合意は原油価格の高騰と中東戦争の引き金になる」で紹介したように、オバマ政権(副大統領はバイデン大統領)がイランを中東の覇権国家とするために進めていたものだった。

そのイランは既に中東で覇を唱えるまでに成長しており、実のところイランはJCPOA再建をあまり必要としておらず、再建に当たり欧米に過大な要求を吹っ掛けている状況だ。

当然ながらアメリカは「は?ふざけんな(怒)」となっているが、実のところはアシュケナージ・ユダヤロビーに気を使っている可能性が高い。

こうして見ると、欧州勢が期待するノルドストリームもJCPOA再建もアメリカがジャマしており、どちらも封じられそうな欧州勢は対米離脱を進めてJCPOA再建へと進むことになりそう・・・かと思われるところだが、ここで新たな壁が発生してしまった。

その壁と言うのが、イランで女性の頭髪を覆うヒジャブ(スカーフ)のかぶり方で当局に拘束された女性が急死した事件をきっかけに発生したデモだ。

クルド人が多く居住する地域で発生したデモは瞬く間に全土に拡大する展開を受けて、イラン政府は背後にアメリカの存在を指摘し非難している。

デモのきっかけとなったマフサ・アミニ氏はイラン西部のクルド人であり、過去のカラー革命同様にアメリカが背後で糸を引いている可能性は極めて高い。

が、当面問題なのは、アメリカやEUがイランが人権弾圧しているとして、制裁を課す構えを見せていることだろう。

ドイツ外相さん曰く「EUはイランに制裁することを望む」とか。

エネルギー・経済・金融のトリプル危機を前に、イランとの関係を見直す必要性に迫られている国の言葉とは思えないが、ノルドストリームに続いてJCPOA(イラン核合意)の再建までもがアメリカに妨げられている状況となっている。

さらに、ウクライナ情勢も混迷の度合いを深めている。

ロシアがウクライナ国内の占領地域4州を正式に併合することとなったが、これに対して欧州勢は激しくロシアを非難している。まあ、当たり前の反応だが。

いずれにしても、欧州勢はロシア制裁を止めることは完全に出来なくなり、今冬のトリプル危機発生の可能性はますます高くなってきた。

なお、ウクライナ国内の親ロシア住民居住地域を併合して、戦争も目的を一通り達成した(?)ロシアからは、「和平交渉してもエエで」との言葉が飛び出してきた。

欧州市民はウクライナ支援疲れを起こしているため、このプーチンの呼びかけに応じろという世論が形成されても全くおかしくない状況となりそう・・なところ、阿吽の呼吸でウクライナはNATO加盟申請を持ち出してきた。

日本の「お役所申請」のように、申請時点で事前協議済み(加盟確定)なのかは分からないが、戦争中のウクライナの加盟はご遠慮いただきたいというのがNATO各国の本心なので、すんなり加盟出来るとは思えない。

だが、ロシアと停戦したとなればNATO各国で「加盟させたれ」との世論が強くなる可能性が強くなる可能性が高い。

となればロシアは停戦するわけにはいかなくなる・・と考えると、ゼレンスキーのこの行動はロシアの停戦交渉再開案を引っ込めさせることでウクライナ疲れ欧州勢の持つ停戦期待を打ち砕き、さらなる負担を強いるためのものと言えよう。(ゼレンスキー大統領はロシアのスパイ説を考える

トリプル危機の可能性はますます高くなり、回避策はますます少なくなってきた。

EUは、エネルギー安全保障への攻撃に対して「断固たる対応」をとる旨の声明を発表した。

一体誰からの攻撃を念頭に置いているのか・・もしかしたら、欧州勢とアメリカの決別へと繋がる動きになるかもしれないが、それは欧州勢がトリプル危機に襲われるまで待たなければならないのかもしれない。


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