現状のウクライナ侵攻を巡る報道は、基本的に「ウクライナの絶対正義」をベースとしているが、何やら少し変わってきた感じがする。
まずは産経新聞のこの記事。
露軍爆撃の劇場から130人救出 なお多数生き埋めかhttps://t.co/80xWtZ2K2l
劇場には数百~1千人以上が避難していたとみられるが、露軍の攻撃が救出作業を阻んでいるという。
— 産経ニュース (@Sankei_news) March 18, 2022
激戦が続くマリウポリの劇場が爆撃・破壊され、地下に避難した人たちが取り残されていたところ、130人が救助されたというもの。
まあ、劇場の地下シェルターの上に瓦礫が堆積しているというものなので、「生き埋め」と言う表現には違和感を感じるが・・。
この記事の中で重要なのは、
アゾフ連隊は2014年のウクライナ東部紛争の勃発を機に結成された民族主義派の民兵組織「アゾフ大隊」が母体で、後にウクライナ軍に組み込まれた。ロシアは親露派への攻撃を主導してきたとして敵視してきた。日本の公安調査庁はアゾフ大隊を「ネオナチ組織」と認定している。
の部分だ。
ロシアの主張という形ではあるが、アゾフ連隊が親ロシア派への攻撃を主導してきたことや、日本の公安がアゾフ連隊をネオナチ認定していることが紹介されている。
ネオナチ・アゾフ連隊による親ロシア系住民への攻撃を仄めかすものであり、ウクライナ&アゾフを絶対正義とする構図が崩れはじめているのではないか・・と思ったら、同じフジサンケイグループのフジテレビさんは、めざましテレビも思いきった映像を出してきた。
あぞふやん pic.twitter.com/J7L5aF4zAR
— kokeshu🇯🇵 (@dhBGGFoCRYyPo4u) March 28, 2022
あくまでロシア国防省が公表した映像とした上で、マリウポリでロシア軍が食料配給する様子や、避難した女性の「敵はロシアではなくウクライナ部隊(テロップ上はアゾフ)」とする訴えを紹介する。
女性はウクライナ軍と言ってるのに、わざわざテロップを「アゾフ」としているのは、ロシアがウクライナ侵攻した目的が欧米傀儡のアゾフ排除ということを暗示しているのかと気になるところ。
コメンテーターの皆さんは「ロシアのプロパガンダ」と一蹴するが、これまで報じることすら許されなかったタブーに踏み込んできているとの印象を受ける。
さらに、テレ朝ニュースさんも微妙な表現をする。
【独自】ロ軍が敵視する「アゾフ連隊」司令官が語る https://t.co/0XsAJgLIUo
— テレ朝news (@tv_asahi_news) March 27, 2022
この報道は、全体としては「ロシアと戦う大正義アゾフ」となっているが、端々に転換を感じさせる内容となっている。
例えば、ロシア大統領府ペスコフ報道官の発言として、ロシア軍の目的はマリウポリからアゾフ連隊を排除することや、マリウポリ市民の「アゾフ連隊に盾にされた」の発言、欧州各国から「アゾフ連隊はネオナチ」との声があることが紹介されている。
さらに、アゾフメンバーは元々フーリガンであることが紹介されているが、ご乱行で有名な欧州フーリガンがアメリカ製の最新兵器で武装すればどんな結果になるかは想像に固くない。
産経のこちらの記事も。
1週間内にマリウポリ制圧 ウクライナ親ロ派部隊 https://t.co/KqOCQW3409
ロシア軍の支援を受ける東部ドンバス地域の親ロ派「ドネツク人民共和国」部隊筋は26日、ロシア側が包囲し猛攻を加えている南東部の港湾都市マリウポリを「あと1週間で制圧できる」と述べた。
— 産経ニュース (@Sankei_news) March 26, 2022
ウクライナ東部(ドンバス)の親ロシア系武装組織が、「マリウポリは後1週間くらいで制圧できるっす」と語ったことを紹介した記事だ。
この記事の中で、
マリウポリはドネツク州の主要都市の一つ。侵攻前はウクライナ政府の支配下にあり、反ロシアの民族主義武装集団の拠点になっていた。
としており、アゾフが反ロシアの民族主義者であることや、マリウポリがアゾフ連隊の拠点になっていることが報じられており、ロシア軍がアゾフ連隊排除を目的としていることを示唆する内容となっている。
特に、欧米からディスられているロシア通信が報道した内容を掲載している点は意外だ。
さらに、産経の記事では・・
親ロ派部隊の報道官によると、武装集団はウクライナ最大の富豪とされるリナト・アフメトフ氏がオーナーの製鉄工場の敷地内に立てこもって抵抗を続けているという。
・・わざわざリナト・アフメトフ氏の名前を出している。
リナト・アフメトフ氏に関しては、昨年秋に報じられたウクライナのクーデター未遂事件にその名が出てくる。
ウクライナ大統領、「ロシア人とウクライナ人がクーデター企図」と発言 https://t.co/HxCXjn3Sr4
— cnn_co_jp (@cnn_co_jp) November 27, 2021
CNNの記事では、リナト・アフメトフ氏がクーデター首謀者の仲間であることが仄めかされている(本人は否定)。
リナト・アフメトフ氏はウクライナ国内で多くの事業を手掛け、推定資産75億ドルという大富豪オリガルヒだが、マフィア的な黒い噂が絶えないことでも知られる。
そして、このアメフトフ氏がアゾフ連隊と組んでクーデター未遂を起こし、ゼレンスキー大統領に対ロシア強硬政策を続けさせた可能性がある。
なお、クーデター未遂はロシアの策謀とする向きもあるが、以前にも紹介したように、ロシアは首相を親露派のボイコ氏に交代させた上でゼレンスキー大統領の留任を認めていることから、ゼレンスキー親ロシア政権を成立させたそうなので、わざわざクーデターなどしない。
この時期のゼレンスキー大統領は、腐敗撲滅とロシアとの融和を掲げて当選したものの、側近の汚職やゼレンスキー自身がタックスヘイブンを活用する大金持ちなのが発覚したほか、批判してたアゾフに媚びて対ロ強硬派に転身したこともあって支持率は低迷していた。
そして、クーデター未遂が発覚したのは、ゼレンスキー大統領が支持率挽回のために、リナト・アフメトフ氏をターゲットにした一連の改革を実行しようとした時期だった。
恐らくはこのタイミングで、本来的にロシアとの融和を望んでいたゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻が現実になりそうになって日和ったのだろう。
そう考えると、このクーデター未遂はアメフトフ潰し&ロシア融和転換と重なっており、「反ゼレンスキー」で利害が一致するアフメトフ氏と欧米傀儡ロシア敵視のアゾフ連隊による、ゼレンスキー大統領への「ロシアと和解すんな、腐敗撲滅すんな」との脅しだった可能性がある。
そうなると、わざわざアゾフ連隊がアフメトフの製鉄工場に立てこもっていることを報じているのは、暗にアゾフ連隊とアメフトフ氏の繋がりを示唆するものだろう。
また、アゾフ連隊を疑問視する報道はドイツでも出てきている。
ドイツ国営メディアDW News(Deutsche Welle)は、マリウポリを防衛しているのは「欧州の過激派と関係のある極右武装勢力アゾフ連隊」と報じている。
Some of the fighters defending the Ukrainian city of Mariupol — which has a population of 500,000 — belong to the Azov Battalion, an ultranationalist militia with ties to extremists across Europe.
What do we know about it? https://t.co/B8jagLrElj
— DW News (@dwnews) March 22, 2022
さらに、アゾフ連隊について、
- マリウポリには、民族主義者と極右過激派で構成されるアゾフ連隊の本拠地がある。
- ウクライナにより国家組織に組み込まれ、アゾフの政治部門が形成された。
- アメリカ議会でアゾフをテロ組織に指定する動きがあった。
- 海外の極右組織との繋がりが維持されている。
・・と報じられており、「アゾフは侵略者と戦う戦闘員」と結ばれているものの、その内容はネオナチ・アゾフを印象付けるものとなっている。
こうした報道姿勢の変化・・ネオナチ無法者集団アゾフ連隊を国家組織に組み込むウクライナ・・から推測されるのは、日本とEU(特にドイツ)は対ロシア制裁を継続したくないんじゃないかということだ。
その理由として、一つには「ウクライナ危機でロシアに寝返るサウジとUAE 黒幕はイスラエル」で紹介したように、いわゆる「資源国」がロシア側についていることが挙げられる。
日本は原油の約7割をサウジ・UAEから、約5%をロシアから輸入しているほか、天然ガスはロシア(サハリン)産が1割を占めている。
EUに至っては、天然ガス必要量の半分近くをロシア産に頼っており、ロシア資源が買えなければ即死する。
こうした中で、ロシア陣営に寝返りつつある中東の資源国の挙動からは、ロシア産資源を禁輸した場合の代替先となることを渋っているように見受けられる。
先日、林外相が原油増産を求めてUAEを訪問したが、実のところは「ウチら、アメリカ野郎の子分に見えるかもですけど、実は中国父さんとはマブダチなんすよ!増産しなくていいから日本には安く石油売ってくだちゃい」と言いに行ったものかもしれない。
そして、日本やEUを悩ますのが、プーチン大統領が非友好国(欧米や日本)に対して「ウチのガス代はルーブル払いでヨロ」と言い出したことだ。
プーチン氏、「非友好国」へのガス販売をルーブル建てに変更 https://t.co/dQt5c3fEz6
— ロイター (@ReutersJapan) March 23, 2022
ロシアへの金融制裁では、ガスプロム傘下の銀行を対象から除外してロシア資源を買えるようにしてたところだが(ご都合主義)、資源大国ロシアからの逆制裁によりドルやユーロが使えなくなってしまった。
フランスのマクロン大統領は、「ルーブル建てでは買えぬ!」と言い放ったようだが・・
仏大統領「天然ガスのルーブル払い不可能」、ロ大統領と電話会談 https://t.co/e8YiZY9YHf
— ロイター (@ReutersJapan) March 29, 2022
そもそも、フランスが買わなくても中国が買うという売り手市場なので、「じゃあ買わなくていいです」と言われて終わりそう。マクロン大統領の叫びは屁のツッパリにもならない。
頼みの綱のサウジやUAEはフーシ派の攻撃で産油設備が損傷したことを理由に増産しないだろうし、アメリカからのLNG輸入量は雀の涙・・4月1日からのルーブル払いを前にEU諸国の選択肢は限られる。
ロシアが「ルーブルしかアカンで」と言ってるのでルーブル建てで買うしかないものの、多分に政策的なロシアの金融機関が素直に「ルーブルどーぞ!」と応じるかは不透明だ。
また、ロシアがルーブルに金や資源の裏付けをもたせるつもりなら「今さらドルやユーロの紙切れなど不要」となるかもしれない。(ロシア制裁はルーブルの金本位性とドル離れに繋がる)(コロナとウクライナ危機による物価上昇、そして食糧危機)
日経さんも、ロシアの金本位制について記事を出してきた。
ロシア中銀、金の購入開始 市場に金本位制採用の思惑https://t.co/rlHcWqqpQx
— 日経電子版 マーケット (@nikkei_market) March 30, 2022
ソースはツイッターというのは気になるところだが。
と言うことで、日本や欧州にとって唯一の安パイは、ロシアへの制裁を止めて「非友好国」認定を解除してもらうことしかないと言える。
実は、日本はこの路線で行きそうな感じになっている。
ロシアメディアのRTが報じたところでは、2月下旬にG7で各国にあるロシア資産を没収することになったところ、日本は鈴木財務相が「ロシア資産ボッシュートは法律でムリぽ」としているとか。
金融制裁そのものが戦争行為との疑いもある中で、資産のボッシュートだけ法律でムリという理論建てにはムリがある気がするが・・・何としてでもロシアと絶縁したくない決意の表れだろうか。
日本が対ロシア融和に舵を切りそうなのは、円安進行に打つ手がなく、輸入資源価格の上昇という現実に直面していることが考えられる。以下は、ドル円の月足チャート。
2014年秋頃にもアメリカQT転換を受けて怒涛の円安となったが、今の円安は水準・ペース共に当時を上回っておりルーブルもびっくりの「下り最速通貨」となっている。
なお、超短期では125円をつけて調整局面となっているが、どうやら121.5円辺りのサポートが固そうな感じになってきた。
この円安とロシア側に寝返った中東勢による原油価格高騰の放置プレイにより、円安&貿易赤字のループに陥りかけており、ロシアに経済制裁したと思ったらいつの間にか経済制裁されていた。
どうやら、日本はロシアに対して経済戦争の敗北を認めたようだ。
ちなみに、ロシアルーブルは既にウクライナ侵攻前の水準まで戻している。以下はルーブルドルの日足チャート。
こんなルーブルとは対照的に円はどんどん安くなっている。
実のところ、円安は金融引締めに転じたアメリカと緩和を続ける日本の金利差拡大に求められるところが大きいが、困ったことに日本は金融緩和を終了させられない。
以前にも紹介したように、日銀は日本国債市場におけるダントツ最大の買い手であり、日銀が「国債買うのやめるわ」となれば国債は暴落(=金利急騰)し、500兆円もの国債を抱えた日銀は事実上の債務超過となり、そもそも赤字国債前提の日本財政も立ち行かなくなる。
つまり、日銀は債務超過を避けるために、ブレーキ踏むべきところでアクセルを踏むしかなく、ファンド勢から足元見られた買い手不在の円はダダ下がりしてる状況と言える。
さらに、日銀は国債金利を0.25%に抑えるために全力を尽くす姿勢を打ち出してきた。
日銀が国債オペ「総動員」、2兆円超を通告 金利低下でも円高に https://t.co/4wPoZHxa3r
— ロイター (@ReutersJapan) March 30, 2022
日銀は、国債の無制限買いで金利上昇を防ぐことに全力を尽くすこととしたようだが、一方で「金利さえ抑えれば円安も景気もどうでもええ」という日銀の姿勢が明確になっている。
また、食糧やエネルギー等を輸入に頼る日本にとって、円安は物価上昇(インフレ・スタグフレーション)要因であり、物価安定を役割とする中央銀行の職務放棄と見なされる可能性もある。
日銀の片岡審議委員は、スタグフレーションリスクについて「現段階では考えていない」「円安による輸入物価上昇の影響も非常に小さい」としているが、企業物価指数は2月速報値で9.3%と急上昇中だ。
企業が利益や社員給与を抑えて消費者物価への波及を止めているのは明白であり、既にスタグフレーションに突入していると言える。
このように、日銀が物価安定を放棄する中で、ロシアや中東の資源を買えないとなればインフレ(スタグフレーション)は待ったなしだ。
こうした日本の金融経済が急速に弱体化していることに加えて、プーチン大統領から日本へのラブコールともとれる発言も。
「アメリカが虐殺行為を行ったと説明せず、真実を無視」プーチン大統領が日本批判https://t.co/OOwWYG6jLI#ロシア のプーチン大統領が、日本の歴史教科書について「誰が原爆投下したかを言わず、真実を無視」と述べ、日本はアメリカに追従し、西側諸国は歴史認識を歪曲しているとの持論を展開した
— ニコニコニュース (@nico_nico_news) March 26, 2022
プーチン大統領は、「原爆や空襲で何十万人もの無辜の市民を虐殺されたのに、いつまでアメリカのポチやっとんねん(意訳)」としている。これは「今なら日本は許したるわ」とも取れる発言だ。
あと、アメリカも安泰ではない・・という理由もありそうだ。
アメリカではQE停止や利上げにより、米国債金利は上昇の一途(=価格は下落)だ。以下は10年米国債金利の日足チャートだが、極めて緊張なのが分かる。
さらにアメリカでは、2019年8月以来の2年物国債金利と10年物国債金利の逆転が生じている。
米2年債と10年債の利回り逆転、2019年以降で初-景気後退シグナルか https://t.co/gC6tQyuODu
— ブルームバーグニュース (@BloombergJapan) March 29, 2022
これは確度高めの景気低迷指標とされており、2007年~2008年に逆転した後はリーマンショックが、2019年8月の後にはコロナショックとなっている。
「ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル」等で紹介したアナンドくんの予言のとおり、アメリカにおけるQEバブル崩壊の可能性は高まっている。
また、以前に「3京円の世界債務がもたらすインフレーションとデフォルト」で紹介したように、リーマンショックからコロナ危機を経て膨らみまくった資産額は過去最高となっており、これが弾ければリーマンショックを凌駕する金融危機となることは強く危惧される。
そのタイミングで、サウジが人民元建ての石油販売に踏み切れば、「ロシア制裁はルーブルの金本位性とドル離れに繋がる」「ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル」で紹介したように、ドルの価値は大きく棄損されて金や資源の裏付けを持つ通貨しか価値が無くなる可能性もある。
実のところ、日本円よりドルの方が崖っぷちとも言え、このイルミナティカードが暗示する未来となる可能性も。
そのようなバブル崩壊を踏まえると、事前防衛という点において緩和継続は悪いことではないし、ロシアより先にアメリカ親分が潰れる可能性もある。
いずれにせよ、資源に乏しい日本やEU(特にドイツ)はロシアの逆制裁に耐えられそうになく、既に経済戦争には敗北しているし、ロシアは今なら日本を多めに見てくれそうだし、アメリカも崖っぷちっぽいし・・・日欧はロシア制裁から離脱することを考えていて、それがメディア報道姿勢に表れ始めているのかもしれない。
また、ドルが潰れてロシアと融和が進めば、「ウクライナ危機という経済戦争で崩壊するドル、そして日本バブル」で紹介した形で日本バブルが起こる確率は高くなるかもしれない。
ただ、バブル&インフレによって日銀は強制的に金融緩和を終了させられることになりそうで、バブル後の日本は厳しい状況に追い込まれることにもなるかもしれない。
最後まで読んでくれてありがとう!