ウクライナ危機

ウクライナへのミサイル攻撃の裏で経済・金融戦争は次のステージへ

ウクライナ危機

ロシアは、10月10日の早朝に、キエフを始めとするウクライナの複数の都市にミサイル攻撃を行った。

着弾都市の一覧がツイートされているが、実に広範囲なものだった。

なお、今回はウクライナの軍・政府関係施設や発電所・変電所と言ったエネルギー施設、通信設備等が標的となったようだ。

人の多い時間帯の都市部への攻撃ということでショッキングな映像が多く出回っており、ウクライナや欧米サイドからは「市民を狙った無差別攻撃」との批判が出ているものの、実際の死者数は極めて少ない。

今後増えてくる可能性はあるものの、無差別攻撃が通勤時間帯になされたなら、市民の死者数は桁が一つ二つ多かったのは間違いなく、その点からは無差別に市民を狙ったものではないと言える。

もちろん、全然関係ないとこに着弾した外れミサイルもあっただろうが・・。

なお、ウクライナではロシアの侵攻を受けて戒厳令や総動員令が出される戦時体制が続いているが、戦時体制下ではインフラ関連などの公共施設は軍の管理下に入ることになるとか。

軍の管理下に入った施設からは民間人は退避させられることになるため、ロシアが狙った施設は基本的には軍人だけがいる軍事目標と言える。

一見センセーショナルな攻撃だったが実際には的を絞った攻撃という点からは、プーチンが言うクリミア大橋爆破に対する報復以外に何か別の目的があったことが伺える。

また、以前に紹介したように、クリミア内陸部のサキ基地は8月にウクライナからのミサイル攻撃を受けており、ウクライナも「ミサイル攻撃したったで」声明を出したにも関わらず、ロシアは「事故っす」を貫き通していた。

黒海艦隊旗艦モスクワの撃沈時ですら同じ対応だったことを踏まえると、今回の報復攻撃は余りに「唐突」と言える。

さらに言うと、クリミア大橋の爆破は、クリミア大橋を通行中の爆弾仕掛けのトラックが、燃料満載列車と並んだ際に爆発して大事になったものだで、爆弾仕掛けのトラックはロシア側から侵入していたことや、列車と並ぶタイミングで爆破する必要があったことから、ロシア内部にウクライナスパイ(アメリカスパイ?)が侵入していた様子が伺われる。

ただ、「ゼレンスキー大統領はロシアのスパイ説を考える」や「ロシアの部分動員令と戦争のエスカレートを望むアメリカ」で紹介したように、ロシア・ウクライナ間に協力関係がある可能性を踏まえると、爆破事件の裏にも阿吽の呼吸があった可能性は否定出来ず、今回の一連の動きは意図的である可能性が高い。

と言うことで、このタイミングで一連の爆破~ミサイル攻撃が起こされた意図は気になるところだが、それは3つほどありそうだ。

一つ目は、OPEC+が11月以降の原油生産量を日量200万バレル減らすことを決定したことと関係しているのではないか。

世界的な景気減速懸念による需要減(=原油価格下落)を受けての減産だが、日量200万バレル減はコロナショック以来の減産規模であり、需給タイト化を懸念して原油価格は大きく上昇した。

20221012WTI日足チャート

ロシア制裁が発動により130ドルまで上昇した原油は、直近で80ドルを割り込むまでに下落していたところ、再度90ドル台に押し上げている。

アメリカでもガソリン価格が高くなっており、インフレ対策に右往左往するバイデン政権は怒り心頭の模様だ。

バイデン政権さんは「ロシア制裁して高くなった原油がやっと安くなったのに、お前らのせいでまた高くなるやんけ!こっちは選挙前やぞ!」と激おこしている。

アメリカは石油の戦略備蓄の放出を継続することと併せて、何と事実上のサウジ制裁に踏み切る可能性が高くなってきた。

アメリカさんは、石油カルテルでもあるOPECの解体やWTO(世界貿易機関)への提訴、加盟国の資産凍結等、事実上の報復措置を検討しているとか。

このほかにも、アメリカ議会では、20年来可決されなかった「NOPEC法案」の検討が本格的に進みそうになっているとか。

これは、司法長官がサウジなどの産油国やOPECを独占禁止法違反と判断すればアメリカの裁判所に訴えられるとするもので、OPECによる価格統制が出来なくなる影響の大きなもので、サウジ(だけじゃないけど)敵視の凄さを端的に示すものだ。

これ以外にも、サウジへの兵器類売却が禁じられる可能性も高まってきている。

サウジは原油をドルでしか売らない代わりに、アメリカがサウジ防衛するとの約束があったハズだが・・。

アメリカが異次元レベルのキレ方を見せているのは、OPEC+の減産とは、利上げによるドル高で原油価格を押し下げようとするアメリカへの対抗策でもあったからだ。

ゴールドマン・サックス曰く、原油は需給逼迫・在庫減少しており、さらに欧州での天然ガス→石油シフトやシェールオイルの減速兆候を踏まえると、原油価格は下落しにくく、先物・オプションによる価格下落も難しくなっているとか。

そして、こうした状況下での減産は異例としつつ、将来的に原油の価格決定権が中東勢に戻ってFRBは敗北すると予測している。

ちなみに、ゴールドマン・サックスが、先物やオプションによる原油価格下落に触れている点からは、アメリカはデリバティブにより原油価格を強制引き下げしてたことが伺える。

サウジに対するアメリカの無慈悲な仕打ちに加えてデリバティブ原油下げもあって、反米・親ロに転換しつつあったサウジ等中東勢は、減産によって公然とアメリカに反旗を翻し始めたと言えるだろう。(ウクライナ危機でロシアに寝返るサウジとUAE 黒幕はイスラエル

以前に「バイデンのサウジ訪問はペトロダラー終焉の合図」で、バイデン政権はサウジとの関係性を改善せずにペトロダラー体制を破壊する意思があることを紹介したが、それがサウジ側から具現化しつつある感じだ。

と言うことで、中東原油はドルでしか買えないとする「ペトロダラー」は崩壊しそうであり、ペトロダラーでドル長者となった中東勢によるアメリカ兵器・米国債の爆買いも無くなる。

それは米ドル・米国債の信用の一つでもあったため、ロシアが主導する金・資源本位通貨(=金融システムのグレートリセット)への移行に繋がるものだ。

こうした状況を踏まえると、ロシアのミサイル報復は「このタイミングでウクライナ支援・ロシア制裁をやめちゃダメよ」とのメッセージであるとともに、アメリカ国内のロシア制裁反対派を抑え込む目的があったと思われる。

ロシアのミサイル報復の二つ目の目的は、「意図的に誘発されるQEバブル崩壊、そして金融危機」で紹介したイギリスのQE再開がありそうだ。

英国債の信用不安に端を発したイギリスの債券市場の混乱は相当ヤバそうで、イングランド銀行は少しでも売られそうな債権を片っ端から買い上げるドツボにはまっている模様だ。

イギリスの債券市場の状況からは予定どおりのQE停止は難しそうな感じではあるものの、イングランド銀行は予定通り今週末でのQE停止を宣言している。

イングランド銀行さんは、「QE停止するから、ヤバいポジションは早めに整理しといてね」としているものの、市場の末期的な状況を踏まえれば、どう考えてもQE継続せざるを得なさそうだ。

ただ、QE継続となれば、せっかくグレートリセットに向けて走り出した金融崩壊は先送りされるため、ロシアの報復攻撃には「イギリスさん、間違ってもQE継続しないっすよね?」との意味合いがあるのではないか。

なお、ペトロダラー崩壊による信用低下が危惧される米国債も絶賛下落(利回り高騰)する中で、ブルームバーグからは米国債の買い手不在を懸念する報道が出てきている。

米国債市場において最大の買い手だったFRBが消え、日本の年金・生保勢も為替差益による赤字を理由に姿を消すなど、米国債の大口買い手がどんどんいなくなっているとか。

ブルームバーグの記事では

ブリークリー・ファイナンシャル・グループの最高投資責任者(CIO)、ピーター・ブックバー氏は10日、連邦準備制度や外国勢、銀行に代わって米国債の買い手が「最終的には見つかる」と想定するのは危険だとの考えを示した。

としており、米国債の買い手不在を懸念しているほか、ゼロヘッジさんは米国債が英国債の足跡を辿ってしまう可能性を指摘する。

英国債と言えば、イングランド銀行が利上げ・QTを進める中で、政府が大規模減税(=大規模な赤字国債発行)を打ち出したことで信用不安が高まった英国債に売りが殺到した。

そして、英国債の担保価値の低下したことで、年金基金さんへのマージンコール(追証)からの大規模売り連鎖が懸念されていたことは先日も紹介したとおりだが、ゼロヘッジさんは米国債市場でも同じことが起こる可能性を指摘する。

英国債市場の混乱は、QE~引締めに政策より国債の流動性が低下していたことが一因だが、アメリカも(日本も)構造的に同じなので、海外のドル売り介入や米国の予算規模をきっかけに大混乱となる可能性はある・・というのが理由だ。

お上によって流動性が極端に抑えられた市場が破裂する時、凄まじい衝撃を発生するのは歴史の常識だからな・・。

このほかにも、ロシアが報復攻撃をした理由はもう一つ考えられる。

実のところ、西側諸国ではロシア制裁・ウクライナ支援を続ける政権への風当たりが強くなっているため、今までどおりロシア制裁・ウクライナ支援を継続するために、政権の後押しをする目的があるのではないか。

ノルドストリームの破壊とグレートリセットを推進するアメリカ」で紹介したように、欧州では来年 1月にも民間へのガス供給が困難となり、3月までにストックを使い果たすとの予測が、IEA(国際エネルギー機関)から出されている。

これはIEAのWebサイトに掲載されているグラフだが・・

欧州のガス貯蔵量の予測

・・年明けには危機的状況となることが分かる。

特に安価なロシア産ガスに頼るドイツでは、暖房用の燃料が足りないどころか、産業・経済、農畜産業など全てが止まる危機的状況となることが予測される。

最後の切り札だったノルドストリームを破壊され、自身の生死への不安・危機感を覚え始めたドイツ国民は政権に激おこだとか。

ドイツ国内のデモの中に、ロシア国旗が散見されることから、対ロシア制裁の解除を求める声が高まっていることが伺える。

一度参加してしまったら、底無しのウクライナ戦争・・

もう抜けられない

欧米はグレートリセットまで抜けられない感じだが、日本はどうなるのか・・。


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